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「柚穂、たこ焼き美味しい?」
「ん」
「良かった。あ、ほら、ソースついてる」
「……どこ?」
「そっちじゃない、反対側よ。もう、しょうがないわね」
途中で買ったたこ焼きを仲良く分け合う二人を見て、七実は頬を緩める。こうして見ている分にはありふれた仲の良い姉妹だ。瑞希が柚穂を可愛がっているのも冗談ではなく心からのことなのだとわかる。
「良いな、仲の良い姉妹って」
七実は自分のかき氷を食べながらふっと笑った。そんな七実が見ている前で、瑞希は柚穂の口端についたソースを取ろうと顔を近づけ、
「…………」
「……何してるんだ、瑞希?」
「……はっ! ち、違うわよ! ちょっとマンガで見るみたいにぺろって舐めとってみたいなとかそんなことなんて考えてないんだから!」
「考えてたのか……」
「そ、ソースの味と柚穂の味が交じり合ってきっと絶妙な……ふへへ」
「変態さんか!」
前言撤回。この姉妹、微笑ましさとは程遠い。
「……瑞希。自分でとれた」
「そ、そう。ざんね……な、ならいいのよ! ほら、もう一個食べていいわよっ」
「……ったく、一生やってろ」
付き合いきれなくなって、七実はそっと二人の傍を離れる。
残っていたかき氷をやっつけて近くのゴミ箱へ放る。そしてもうすぐ近くに見えていた広場へ向かった。
広場には毎年大きな笹飾りが用意される。もちろん今年も大きな笹が飾られていた。
「今年のはまた一段とデカイな……」
見上げるほどの飾りを見上げ、七実はほうと息をつく。
笹飾りの傍には短冊が用意されていて、自由に願い事を書いて飾り付けることができる。すでにたくさんの短冊が飾られているようだった。
毎年ここに来る時は夕菜が一緒だったのだが、今年は一人。それでもいつもと同じように、七実は小さい頃のことを思い出していた。
「織姫様と彦星様、か……」
小さい頃のことを思い出した。
……随分とロマンチックな願い事だ。織姫様と彦星様みたいになりたい、だなんて。
「……どっちとは書かなかったけど。まあ彦星の方が似合いそうだよな、あたしは」
ガサツで女の子らしさに欠けているし……と、自分でも思う。織姫は夕菜の方がずっと似合っているだろう。
「まあ、別にどっちだっていいんだけどさ」
七実はちょうど人の少なかった笹飾りの下に行き、用意されていた短冊に願い事を書く。
「あの願い事が叶いますように」。去年も一昨年も、あの願い事をしてからずっと同じことを願い続けている。
実はこの願い事は夕菜には教えていない。なぜなら……。
と、笹に短冊を飾りつけたところで、突然携帯が鳴り出した。
「メール……? 夕菜か」
電話は無理だったのだろうか。七実は本文を確認する。
『むり』
確認終了。
「……え、これだけ?」
下にスクロールできるわけでも無さそうだ。本当にただ一言「むり」とだけ書かれている。
「ったく、あいつ……」
七実は頭を掻いて手短に返信する。そして広場を後にした。
……ちなみに瑞希と柚穂はベンチに座り、自分が居なくなったことにも気づかず一つの綿菓子を仲良くシェアしていちゃついているようだったので、引き続き放っておくことにした。