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金魚死んじゃった②

金魚死んじゃった。妹にあげた金魚死んじゃった。真っ赤で可愛い金魚死んじゃったんだ。

懐かしいなあの金魚。ちょっと前に地元の神社の夏祭りで取ったコだったよね。じめっとしたあの夏の日に、まァ君が誘ってくれた夏祭り。しかも高校の帰り道、2人っきりの時に。胸が飛び上がる程嬉しかったなぁ。本当に口から心臓が出ちゃうんじゃないかって思ったくらい。今まで頑張ってきたバイト代を叩いて、新しい浴衣買おうと思って。家に帰ってからすぐに近所の百貨店に向ったんだ。目の前に広がる浴衣は、ソーダみたいな水色、葡萄みたいな紫色、わたあめみたいな白色、そして金魚みたいな赤色。アタシは迷わず赤色を選んだ。だって、夏祭りといったら金魚すくいだし、赤色って女の子っぽいでしょう?

 そして待ちに待った夏祭りの日、まァ君よりも先に待ち合わせ場所についた。おばあちゃんに着付けて貰った浴衣の帯は黒い金魚みたいにふわふわとアタシが歩く度に揺れていた。カラランコロロンと下駄のリズムと一緒に。そんないつもとは違うアタシをはやくまァ君に見てもらいたくって。お祭り独特のソースの香りにお腹が鳴りそうになったけど、帯をきつく締めてもらったから我慢した。少しでもまァ君に綺麗だと思って欲しくって。これも女の子の意地ってやつよ。

 集合にまァ君が来たときは日はもう落ちていたっけ。アプリコット色の太陽にかわって提灯の橙がぼぅっと、お祭り会場を彩って綺麗だったなぁ。まァ君は浴衣の赤色が綺麗だねって言いながら、りんごあめをくれた。りんごあめの赤を提灯に透かして見ると、宝石を食べているみたいな気持になったの。クレオパトラが真珠を食べていたみたいにね。アタシはお礼と金魚みたいに成りたいんだって言いながら、まァ君を金魚すくいに誘った。緊張と戸惑いで熱が指先に集まった手のひらは、一度も彼の手を掴むことはなかったけれど。

別れ際、また来週に隣町でお祭りがあるとまァ君が話し出した。ああ、またこうやって会えるんだって思ったの。けどまァ君は「あの子と一緒に行く練習ができた」だって。わかる?アタシはただの付き添いだったんだってこと。信じられないよね。ほっぺの膨らんだランチュウと一緒に行くんだってさ。金持ちの女の子よ。大嫌いなワサビをひとつまみしたみたいに鼻の奥がつーんとした。でも悔しかったから、それは良かったねなんてすまし顔で言って、お祭り会場を後にしたの。帰り道はもちろん一人で帰った。うーんと遠回りをしてね。もしかしたらまァ君が追いかけてきてくれるかもしれない、なんてそんなことを思いながら。私を追いかけてくるのは祭りのお囃子と抽選会のアナウンス、口と目に抜ける潮の味。そして、私の隣には赤いちいさな一匹の金魚。カラランコロロンとアタシの下駄の音がする度に、その金魚は揺れているような気がした。


ああ、金魚、死んじゃったんだ。白い四角い水槽の中で。

 なんだかちょっぴり、あのときと同じ味がする。ただの淡水魚のくせにさ。

 

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