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対岸の私

作者: コウ
掲載日:2026/04/02

鳥の鳴き声が聞こえている。ぴよ、ぴよと。もちろん本物ではない。私は横断歩道で信号が変わるのを待っていた。

朝のこの時間、こんな街でも思った以上に人がいるのに驚かされる。

反対側の先頭に、私より少し歳上くらいの女の人が立っていた。今にも折れそうなほど細く、広がった長い黒髪は失礼ながら幽霊を彷彿とさせた。

朝結構頻繁にすれ違う人だ。

腕を組んで爪先でコツコツと地面を蹴って、いつでも不機嫌そうな顔をしている。横で話すおじさんたちにいかにも迷惑だといいたげな目で睨みながら、信号を待っている。

時々思う。私も周りからあんな風に見えているのではないか、と。私も無意識に自分の不機嫌を周りにまき散らして、周囲を不快にさせているのではないかと。

信号が変わりカッコーが鳴き出すと、溜まった人たちが一斉に動き始める。私は少しずつ進行方向を調整して、お姉さんの真横ですれ違う。その時、私の鼻に強烈な香水の匂いが届く。まるで彼女のイライラが具現化したように、濃くて攻撃的な匂い。アレが数年後の私の姿だったらと思うと、いろいろいたたまれなかった。

取り巻く環境には不満があって、慢性的にイライラしている私。絶対にああならないとは言えないと思った。

職場のショッピングモールに到着し、時間を確認するためにスマホを出す。

気になったのは8:25という出勤に間に合っている時刻よりも、残量64%の表示だった。

そんな必要は無いと皆から言われるが、私は残留が100%を切ると不安になるタチで、64なんてだいぶイライラしてしまう。

確認しなかったが、昨夜充電器に差したつもりでちゃんと充電できていなかったらしい。

私はバックヤードに入るとバッグから充電器を取り出しスマホを充電する。

どうせ仕事中は持ち歩けないのだ、ここに置いてあってもいいだろう。

ロッカーを開き、今月の制服にしているセットアップに着替える。

毎月その月の新商品を買取り、スタッフが制服として着る事で、お客様に着用時のイメージを沸きやすくしてもらうのが目的らしい。

でも正直、モデルでもない一般人の私たちが店の商品を着たところで、いったいどれだけの宣伝効果があるのか。

社割されるとはいえ自腹だし、他のスタッフとは被らないようにしないといけないし。

ふと見たロッカー扉の内側に付いている鏡に映った自分の顔に、あの彼女がちらついた。無理に笑顔を作って閉めたロッカーの扉は、思ったよりも大きな音を立てた。

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