プロローグその1〜転生は唐突に〜
人は誰しも、憧れを抱く。
プロ野球選手に憧れたり、サッカー選手に憧れる。
弁護士に憧れを抱いたり、マジシャンに憧れを抱く人もいる。
僕の憧れの対象は、所謂『最強』と呼ばれるものだった。
きっかけが何なのかはハッキリとは覚えてない。気づいたら僕は『最強』を目指していた。
『最強』にも色々ある。恋愛最強。サッカー最強。野球最強。口論最強。
ぼくの憧れた『最強』は、力だ。
圧倒的力を持った人。
アニメとかゲームでよく目にする最強。
少なからず憧れる人はいるだろう。
世間ではそんな人達を中二病と呼ばれたりすることもある。
しかし、本気で目指す人は少ない・・・
中二病は時間が経つと治るのだ。
それを本気で目指したのが僕だ。
剣道。空手。ボクシング。合気道に少林寺拳法。
色々足を突っ込んだ。
しかし、15の春。僕は悟ってしまった。
いくら鍛えたとて、人間は肉体一つで機関銃には太刀打ちできないと・・・
そう、人間の叡智には。肉体をどれほど鍛えたとて無力なのだ。これが現実だ。現実は非情だ。
夢から覚める時が来てしまったのだ。
そう、僕の中二病も完治。
残ったのはムキムキの肉体と運動神経のみ。
なんて虚しいんだ。
つまりは諦めたのだ。
さて、本題に入ろう・・・
僕は先日、乙女ゲームと言われるものを買ってみた
きっかけは、友達のメガネが強くオススメしてきたこと。彼曰く
「木之下氏は、顔はいいんだからもっと恋愛レベルを上げるべきです。」
と、言ってきたことだ。
『最強』を諦め、目的も目標も何もかも無くしてしまった僕には鶴の一声に聞こえた・・・しかしだ
よくよく考えると、なんで男の僕が男を口説くゲームを買っているのかと。
6000円も払った僕を殴ってやりたくなった。
だけど、食わず嫌いはいけない。
メガネのおすすめする物にハズレはないはずだ。
僕のメガネへの信頼度は天元突破している。
大まかな設定は 突如として復活した魔王がどうのこうので貧乏主人公が王国の王子様も通うくらい有名な学校に特待生だかなんだかで入学して恋愛しながら攻略対象の男どもと魔王復活の影響で出現した魔物を倒してレベルを上げて、魔王討伐を目標とするRPG系乙女ゲー・・・
「なんだこれは、RPGするならRPG単体で良いだろう・・・」
そんなことを考え
コントローラーをぽちぽちしてぼちぼち進めて行く
さて、キャラ紹介だ。
我らの主人公アイリスさん
アイリス・(プレイヤー名)
名前をつけろと画面に出ている。
どうしたものかと考えたが、僕は天才なので圧倒的なアイディアを思いついた。
僕の本名『木之下倫太郎』
から取って『アイリス・アンダーウッド』
素晴らしい!流石僕と自画自賛するレベルに画期的なアイディアであった。
ストーリーは進み。アイリスさんの境遇が語られる。『一般家庭の生まれだが、特待生みたいな枠で王子様も通うような王国立学校 ヘンゼル剣魔術高等学校に入学する』つまりは努力の塊だ。
僕は少し感動した。努力の方向性は違うが、僕が成し遂げられなかったことをアイリスさんは成し遂げたのだ。敬意を待ってプレイしよう。
プロローグが終わり入学式の日
我らのアイリスさんは突然イケメンにナンパされた。
どうやらこの国の王子様らしいが・・・入学早々女の子をナンパするとか大丈夫なのだろうかこの国は
『僕を無視するだなんて、君みたいな女性は初めてだ』
「僕でも分かる。この王子は恋愛弱者だ。常識的に考えて、出会ってすぐにこの対応で堕ちる女はいるのだろうか?いや!ない!!!」
→ (ビンタする)
照れくさかっただけです(照)
「え、ここで選択肢か。まぁ流石にビンタはダメだろうな、この人この国の王子様らしいし流石に首が飛びそうだし・・・ここは下の選択肢で行こう」
(ビンタする)
→ 照れくさかっただけです(照)
『君は他の女性とは違うと思っていたのだが、残念だ、処刑で』
(GAME OVER)
「ん?え?は?嘘だろ、え?嘘だろ?ギャグかな?処刑されたんだけど?世界観が中世寄りであってもこれは無いだろ。れ、恋愛は命懸けってことか・・・」
→(ビンタする)
照れくさかっただけです(照)
「つまりビンタが正解ってことか」
『ぶったね!!!父上にもぶたれたことないのに!!君は他の女性とは違うみたいだ』
「王子様にビンタを放てる度胸と自分を曲げない芯の強さを評価されたのだろうか?なるほど、僕の恋愛ステータスが上がっちまったな」
その後も僕は、この乙女ゲームを攻略するために四苦八苦していき・・・
「え?ここの選択肢 『辛いときは私に言ってね、力になるから』じゃなくて『一緒にデスメタルを奏でる』が正解なの!?恋愛ってわっかんね・・・」
「す、スライムからは5000経験値もらえるのにドラゴンからは10経験値しかもらえないの!?」
「え?浮気!?乙女ゲームで浮気されるとかあるんだ・・・現実でもあるし、そこら辺は現実よりってこと・・・なのか?」
「魔法が弱すぎる!魔導書を出すのに1ターン、ページを捲るのに1ターン、詠唱に2ターン、発動に1ターンもう物理で殴るだけのゲームになっちゃってるよ!たまにページ捲るのに手間取って3ターンかかるし、なんで地味にリアルなんだこのゲーム・・・」
「え?女神様が人類滅亡級の魔法を撃ってきた!?神器を全て回収して一つにすれば対策可能だけど力を合わせることを知らぬ人類は不要・・・えぇ・・」
「あーでもないこーでもないそーでもないしこれでもない・・・」
僕は四苦八苦しつつもこのゲームのクリアを目指した。僕の恋愛ステータスを上げるため。そしてこのゲームを意地でもクリアしたいがために!!
そしてついに・・・時が来た
「やった・・・女神の攻撃に対抗した後、魔王を倒して、全員と結婚でハッピーエンド、ついに、ついに成し遂げた・・・」
男の入浴シーンとかみたくねぇもん見せられたけど
ぶっちゃけ1番好きなキャラは攻略対象の男どもじゃなくて一番一緒にいた主人公だけれども・・・
選択肢ミスって装備全ロストしたこともあったけど
やり遂げた!!!成し遂げた!!!厳しい道ではあったが、これで僕の恋愛ステータスは大幅に上昇したに違いない。得るものはあった・・・
故に!このゲームは敬意を持って中古屋に売りに行こう!
「これは教えてくれたあのメガネにジュースの1本ぐらい奢ってやってもいいかな」
さて、連休も今日で3日目、最終日 あの乙女ゲームを2日でクリアしたのは流石僕と言ったところか
「ま、恋愛最強ってのを目指すのもいいかもしれないな」
しかし熱中するがあまりに肉体改造を1日サボってしまった。最強を目指すことはやめたが、染みついた癖とは、そう簡単に消えるものではないのだ。
まぁつまりあれだ、特に意味はない
僕は広めの庭に出てトレーニング内容を考える。
「そうだなー、物理で殴るゲームをさっきまでやってたし、今日は腕の筋肉を重点的にトレーニングを・・・」
突然だが終わりというのは突然やってくる、何回も聞いたフレーズだ。
その終わりの日に後悔がないように今を生きなければいけない。終わりというのは突然で残酷なものだからそれがどんなものであっても、納得しなくてはならない・・・
僕の足元に大きな影が近づいてくる
何か上にあるのかと思い空を見上げる
そして僕は察してしまった・・・
今日が終わりの日だと
そう、どれだけ肉体を鍛えても、どれだけ精神を鍛えても、どれだけ恋愛能力を鍛えても抗えないものがある。理不尽、故に残酷、故に・・・納得できない。
しかしだ。空からトラックが降ってきて押しつぶされる終わり方は・・・誰が何と言おうと
「納得がぁ!・・・」
何かが押しつぶされる音がした。トラックが地面に当たる音と何かが潰れた音。
それが何なのか、僕にはもう知る術がない。
故に 納得など・・・
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「できない!!!!!」
「ど、どうしたのだ息子よ」
あれ?なんだここ?家の中?もしかして死後の世界?よく聞く死後の世界の案内人とかはいないのだろうか・・・
僕は今、豪華な椅子に座って目の前に出された料理を食しているらしい。外から光が射している。
内装はおしゃれでお城とまではいかないが、お屋敷を彷彿とさせる。
僕はこれからどうなるのだろうか、魂が浄化されて輪廻転生でもするのだろうか。
輪廻転生装置みたいなものがあるのだろうか?
目の前に出されたものを食べたら輪廻転生するのだろうか?
「む、息子よ!一体どうしたというのだ!」
さっきから無視していたが、息子?
僕の父はしがないサラリーマンのはずだが、今目の前にいるのは筋肉モリモリのマッチョマン・・・
しかし僕はこの男をどこかで知ってる・・・
なんだこれ、二つの記憶なのか?それが入り混じっている。頭が酷く痛い。記憶の混在。
木之下倫太郎。僕の名前、高校生で、最強志望で、トラックが・・・アングレッシュで?・・・5歳で?5歳?
落ち着いて整理しよう。普通の人なら慌てふためくが僕からしたらこのような状況切り抜けられないことはない。 こういう時はまず冷静に落ち着いて考えよう。
まず、僕はリン・アングレッシュとしてこの世界で5年間生きてきた。のだが突如として記憶が復活した
前世なのかよく分からんが。つまりあれだ、異世界転生ってやつだ。無難に興奮してきたな! しかしこの記憶が虚偽の可能性を考慮し、僕は先ほどから息子と呼んでくる男に質問をする。
「父様、僕の名前は リン・アングレッシュ ですよね?」
「あぁそうだぞ、私と母さん、二人で考えてつけた名前、そして将来、歴史に名を刻むであろう男の名前だ」
虚偽ではないっぽいな。僕にはリンとしての記憶そして前世の木之下凛としての記憶、二つの記憶があるらしい。
僕が住んできた家、アングレッシュ家、商人として成功し、貴族となった家。今は元の世界でいうところの田舎の方に店を構えている。ちなみに薬から食品、赤ちゃん用のグッズなど幅広い商品を揃えているため、住人たちからは重宝されている店だ。
父は ベルト・アングレッシュ
超かっこいいパパ、商人なのに日々剣術の鍛錬を怠らず圧倒的筋肉を手に入れた僕の自慢の父様、最近髭を生やすか迷っているらしい
母は レイス・アングレッシュ
優しい母様、魔法に長けており僕から見ても美人である。料理上手で僕の料理の師匠だ。父様の店、アングレッシュ商店の会計担当をしている。
そして僕、リン・アングレッシュ 5歳
この歳まで伸び伸び成長し、最近父様に剣術を教えてもらうようになった。ぼちぼち魔法も習うつもりらしい。そして今さっき記憶を取り戻した。
さて、つまり僕はおぼっちゃまになったわけだな。
この世界の僕は父を父様母を母様と呼んでいる。
ま、いきなり呼び方変えても怪しまれるし前世の記憶が戻ったなんて、別に話すことでもないし、多分今後気まずくなるから5歳の僕を演じるとしよう。
「どうした?ぼーっとして」
「あら、まだおねむかしら?」
「いえ、心配無用です父様、母様」
「あ、あのなぁリン、いい加減その父様と呼ぶのをやめてくれないか?私はパパと呼ばれてみたいのだが!」
「嫌です父様」
「あ、あぁそうか」
父様がショボーンとしてる。
まぁ5歳の僕の対応はいつもこんならしいし、しょうがないよね〜
「ならママは?ママ!」
「言いませんよ、母様」
両親が膝から崩れ落ちた・・・
僕の家庭はいつもこんな様子だ。
だいたい父様母様と呼ばせるようにしたのはそっちだと記憶しているぞ!とか思いつつ僕は黙々と朝食を食べる。
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さてと、僕はこの世界に転生した
この剣と魔法の世界に・・・
そして記憶が復活した・・・
「無難に興奮してきた!とりあえずこの世界のことをよく知ろう!そうしよう!」
5歳の知識というのは限られる。故にまだ未知の部分が多すぎるのだ。
幸い言語は日本語のようだ、
僕の頭の中で自動的に日本語に変わっているのか
もともと日本語なのかはよく分からないが
高校生の知識を駆使すればある程度把握できるだろう。
そして僕は父様が毎日読んでいる新聞のようなものや本などを通してこの世界のことを調べていった
いったのだが・・・
「ヘンゼル王国・・・僕と同い年の王子様の名前・・・そして妙に詰め込んだ王立の学校名前・・・魔王の存在・・・」
見覚えが、ありすぎる
調べれば調べるほど出てくる共通点
そして僕は確信した・・・せざるおえなかった
「ここ乙女ゲームの世界じゃん!!!」
そう、僕は死ぬ間際にやっていた乙女ゲーム。剣と魔法とロマンスとの世界に転生してしまったらしい。
嘆く?悲しむ?故郷を思いセンチメンタルな気分に浸る?僕が思ったのはそんなことではない。
過去は過去、今は今、死んでしまったものは仕方がない。納得はできないが納得せざるおえない。どうにもならない。考えるだけ無駄だ。
ならばどうする?乙女ゲームのシナリオに介入する?それもいいだろう。
しかし僕の頭には前世で諦めてしまった。成し遂げられなかった存在がこびりついて離れない。『最強』
この世界では成れるのではないか?成し遂げられるのではないか?最強。その存在に!魔力の満ちたこの世界なら!!!
今度は憧れだけじゃない!2度と納得のいかない死を迎えないために!そのためならば天使であろうと神であろうと魔王であろうと超えてみせる!
そしてたどり着いてみせる!叶えてみせる!
「最強に!!」




