逆ハーしたら攻略対象が次々と亡くなっていくんですが?!〜『ヒロイン様の祟りじゃー!』乙女ゲー辺境村殺人事件
――この世界には言い伝えがある。
100年に一度、必ず100年前と同じ顔を持つ人間が6人生まれる。
そのうち一人の少女は必ず辺境のどこかの村に生まれて『ヒロイン』として、癒しの才能を開花させるのだ。
そして必ず『悪役令嬢』と呼ばれる身分の高い女性から恨まれ、必ず100年前と同じ顔の五人の男性のうち誰かと結ばれて幸せになる。
――だが前回の『ヒロイン』だけは違った。
ある辺境の村で無惨にも殺されたのだ。
村の人々は尊敬と畏怖の念を込めて、殺された少女の事をこう呼ぶ。『ヒロイン様』と。
その村には、古くから子どもたちが口ずさむ歌がある。
♪ヒロイン様が殺された。
悪役令嬢に殺された。
続いて村長も死んじゃった。
ひとり、ふたり、みな死んだ。
村人たちは口々に囁く。
――『ヒロイン様の祟りだ』と。
◇◇
「ここがペンタグラム村か。エヴァ、大丈夫か?」
イケメン第二王子ニコラスの言葉に私はわざと怯えた顔をする。
「怖いですぅ…でも、ニコラス様のお役に立ちたいから頑張りますっ。」
そう言ってどさくさに紛れて彼にしなだれかかる。
攻略対象の他の4人と義弟のジェレミーも微笑ましげな目で私を見てニコニコしている。
ちなみに他の四人の攻略対象の名前はマックス(宰相息子)、トム(騎士団長息子)、ニール(神官息子)、ヘンリー(商家の息子)だ。
その後ろでニコラスの婚約者、悪役令嬢シャーロットだけが無表情で私たちを見ていた。
「エヴァ様。今回は我が領の村で起きた土砂崩れ被害者の治療に当たって下さると伺いました。
ありがとうございます。」
――私は転生者である。
酔っ払って地面にスライディングしたら車に衝突しちゃいました。ちょっと焼酎飲みすぎちゃった♡
今頃身体は病院かな?パンツだけ可愛いの履いといてよかった。
転生先は、最近ハマっていた乙女ゲームだった。
――しかもヒロインのエヴァだったのだ!
…人生初の春がやって来ましたよ。まあいっぺん死んだ可能性が高いんだけどね。
大学の時オタサーの姫を見ながら、『何あれー』って言ってた私。だけど、内心は普通にこう思ってた。
(羨ましいいいいーーー!!私もチヤホヤされたい!)
どうせゲームの世界である!オタサーの姫ならぬ、逆ハーのヒロインを決めてやる!!
…そう思った私は見事にそのポジションに収まった。
(可愛いってお得だな!!サンキューヒロインの顔面!)
――そして、今日は聖女として攻略対象達と一緒に土砂崩れになった『ペンタグラム村』の慰問に来ている。必要であれば治癒魔法もかける予定だ。
ちなみにシスコン義弟、ジェレミーもついて来てしまった。彼は、私が“聖女だ”と判明した時に引き取られた伯爵家の次男でもある。
なんで攻略対象じゃないの?ってくらい顔がいいので勝手にハーレムに加えちゃった♡
だがこの村、悪役令嬢シャーロットの実家の領地でもあるらしく、何故か彼女もついてきてしまった。
(まあいいや!ゲームと違ってこの子、私のこといじめて来たりしないし。)
――私はイケメン6人との辺境村へのプチ旅行にこの時はウキウキワクワクしていたのだった。
◇◇
「――皆さん。
こちらがペンタグラム村の村長の家です。
今日皆で泊めて頂く邸よ。」
シャーロットがカントリーな感じの可愛いお屋敷のベルを鳴らすと、頭頂部がつるっとハゲたジジイが、ドアをキイイッと開けた。
「おお!シャーロット様!よく来てくださいました。」
「ええ、こちらが聖女エヴァ様とその関係者よ。」
淡々と彼女がそう言って私達の方を見た瞬間、ジジイが固まってプルプルと震え出した。
「…祟りじゃ。」
(…は?)
「…ヒロイン様の祟りじゃああああああ!!!」
血走った目で叫び出すジジイに私達はドン引きである。
「ど、どうしたの?ロッソさん。」
戸惑ったように尋ねるシャーロットにジジイはハッとした顔をする。どうやらジジイの名はロッソというようだ。
「も、申し訳ありません。なんでも御座いません…。
皆さん荷物を置いたら土砂崩れが起こった場所と治療院にご案内しましょう。」
そう言って私の顔を見ながら怯えたように後退りしていった。
(…一体何なのよ?)
私はモヤモヤしながらもジジイの案内に従って土砂崩れ現場に行くのだった。
ちなみに宰相の息子であるマックスは留守番することになった。なんだか体調が良くないらしい。
◇◇
現場に行って兵士が治療が終わってホッと一息ついていると、子供達が花飾りを編みながら歌っている。
(あら?うふふ、可愛いー。
ここはイケメン達の前で子供好きを印象付けて、可愛い上に母性まで強いですアピールをしておこうかしら。)
だが、女の子に近づいていくと、その歌の内容にギョッとする。
♪ヒロイン様が殺された。
悪役令嬢に殺された。
続いて村長も死んじゃった。
ひとり、ふたり、みな死んだ。
(な、なんなのよ、これはぁあああ?!!!)
村長のジジイの反応といい背中がゾワゾワしてきた。
すると一人、金髪の女児が一人私に近づいて来て怯えた顔をした。
「…お姉ちゃん、『ヒロイン様』にそっくりだね?
それに、周りになんだか黒いモヤモヤが見える…。」
その言葉に目を見開いていると、その子のお母さんだと思われる女性が来た。
「こらっ!ミーシャ!お姉さんに失礼なことを言わないの!!すみませ…っ!!
…ひっ、」
最初にこやかに近づいて来た女性が私の顔を見るなり恐怖で引き攣った。
(な、なんなのよ?!一体!!)
すると、シャーロットがスッと前に進み出てこう言った。
「すみません。先程から気になっていたのですが『ヒロイン様』というのは一体何なのですか?」
すると、女性がふぅーっと長い溜息を吐いた。
「…わかりました。ちょっとついて来て頂いてもいいですか?」
そう言われて私達7人は訝しげな顔をしながら女性の後をついていく。
すると、そこには小さな祠があり、その隣には女性の石像があった。
その石像の顔を見て私は思わず叫びそうになった。
「…っな、」
――そう。その石像の顔がどう見ても私の顔と全く同じだったからだ。
「…これは。エヴァ様にそっくりですわね。」
そう言って、シャーロットが何かを確かめるようにペタペタと石像を触る。
「ええ、だからあの子も私も驚いたんです。」
「この方は一体どなたなんですの?」
シャーロットの言葉に女性は遠くを見るように言った。
「…100年前の出来事だったらしいですわ。
私も生まれる前でしたので、よく知らないのですが。
――この村で、『マーサ』と呼ばれる可愛らしい少女が生まれたらしいのです。
その少女は聖女になるべく貴族に引き取られ、やがて『王立学園』に通う事になったらしいのです。
そして、可愛らしい容姿と清らかな性格で多くの高位貴族達を魅了した。本人はそんな事を望んでいなかったようですが。
――そして、多くの貴族令嬢の嫉妬と反感を買った。」
その言葉に全員がゴクリと生唾を飲み込んだ。
すると彼女は強張った顔で言ったのだ。
「そして、マーサ様が疲れ切って村に帰ってきた時でした。マーサ様に熱を上げていた令息の婚約者である高位貴族令嬢が、当時お金に困っていたある村人に指示をしたのです。
『マーサ様を殺害せよ。』と。」
――その言葉に辺りが水を打ったように静まり返る。
そして、女性は震える声で続けた。
「…ですが、その事に激怒した彼女に熱を上げていた令息達が村に乗り込んできて疑わしい村人を無差別に殺害したのです。
庇った当時の村長も亡くなってしまったそうです。
そのあまりに凄惨な出来事を反省し、残った村人達はマーサ様、『ヒロイン様』をこの祠に祀ったのです。」
話を聞いていた私達は全員真っ青な顔をしていた。
(ちょ!ちょっと待ってよ!!
何で乙女ゲームの世界に転生したのに八◯墓村みたいな話になってんの?!)
「なんだかこれは不吉な予感がするな。」
「ああ。治療ももう終わったし帰った方がいい気がする。」
ニールとヘンリーがそんな事を言い出した。
すると丁度通りかかった買い物籠を持った村長、もといジジイが目をひん剥きながら叫んだ。
「はぁあぁああ!やはり!!やはりマーサ様とそっくりじゃっ!クリソツじゃっ!!
『ヒロイン様』の祟りじゃあああ!!!!」
(ジジイ!!うるさいっ!!)
そんな事を思っていると、村の入り口の方で『ズシャアアアア!!!!』と不吉な音がした。
「っなんだ?!」
「行ってみよう!!」
私達7人と女性とその娘、そして村長の10人で走っていくと、なんと村の入り口が土砂で塞がってしまっていた。
「っな!!」
「…なんということだ…!!このタイミングで土砂崩れが起きるなんて…。」
「俺達はこの因習村に閉じ込められてしまったというのか…。」
すると、何故かさっきまで大人しかった女の子が突然オカリナを取り出して悲しげな音楽を奏で出した。
(いやいやいや!!バックミュージックまでつけないでぇええええええ!!!!)
そんな事を思っていると、シャーロットが突然虫眼鏡を取り出して、塞がれた入り口をじっくりと観察し出した。
「…これは!!周りに崖はない。
それに岩の崩れ方、土砂の積もり方が不自然です。
間違いないですわ。これは自然災害ではなく人の手による犯行ですわ。」
その言葉にジジイが目を見開く。
「も、もしかしてシャーロット様は公爵令嬢というのは仮の姿で、巷で噂の令嬢名探偵シャー様ですか?!」
(はぁ?!何よそれぇえええええええ!!!!)
その言葉にシャーロット様が頷く。
「バレてしまいましたら仕方ないですわね。
その通りですわ!!
今私の探偵の血が騒いでいるんですの。これは一波乱ありそうですわ。」
――その時だった。
「きゃああああああ!!!!!」
村長の家の方から悲鳴が響いた。
慌てて皆で走っていくと、メイドさんが真っ青な顔でガタガタ震えていた。
「あっ、ぁああああああ!!!ま、マックス、マックス様が!!!!」
ドアを慌ててニコラス様がバンッと開ける。
――するとそこにはマックスが口から大量の血を流して変わり果てた姿で横たわっていた。
(う、嘘でしょおおおおおお!!!!!)
私は心の中で絶叫するのだった。
◇◇
「とりあえず、夜は危ないから俺が見回りをしてやるよっ!ニコラス様やエヴァに何かあったらいけないからなっ!」
そう言ってトムが一人で何処かに行ってしまった。
すると、他のイケメン達が頷き合った。
「一人で行かせる訳にはいかない!ニコラス様と女性以外は全員で行こう!」
取り残された私達三人は真っ青な顔で向かい合う。
「…な、なぜだ。慰問に来ただけなのに何故こんなことに。」
「…ええ。本当に。」
「ま、マックス、本当に死んじゃったのよね?」
そんな事を言っている時だった。
遠くで悲鳴が上がった。
「…行ってみよう!!」
そう言って三人で走り出すと、下を向きながら口を手で抑えて呆然とするニールとジェレミーの姿があった。
(まさかっ!!)
近くまで行くと、目の前にトムが横たわっていた。
――胸にはざっくりと矢が刺さっている。
「そ、そんな!!嘘だろ?!トムまで死んでしまうなんて…!!」
(いやいや!!!ちょっと待ってえぇええええ!!!私の逆ハーがボロボロなんですが!!!!)
私が心の中で絶叫していると、ハッとしたようにシャーロットが叫んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください!ヘンリー様は?!」
その言葉に全員が目を見開く。
「さ、さっきまでいたのに!!」
「探そうっ!!!」
そんな事を言っていると、誰かが叫ぶ声が聞こえた。
「ギャアアアア!!!!!!」
慌てて走っていくと、なんとヘンリーが倒れていた。
…トムと同じように胸には矢が刺さっていた。
「あ、ぁああああああああ!!!!」
ニコラスが顔を抑えながら絶叫し、ニールとジェレミーが鎮痛な表情をした。
そして、駆けつけたジジイが目をひん剥いた。
「た、祟りじゃぁあああああ!!『ヒロイン様』の祟りじゃああああああ!!!」
◇◇
次の日になった。
残った私達五人はビクビクしながら過ごしている。
(どうしてくれんのよー!!!逆ハーがもう三人しかいないじゃないのよ!!!)
えらい事になってしまった。
攻略対象が三人も死んでしまった。
「僕!ちょっとお祈りに行ってきます!!」
ニールの言葉にニコラス様が慌てて止める。
「やめた方がいいんじゃないか?外に出たら殺されてしまう可能性だってあるぞ?」
「でも、マックスはこの家にいたのに亡くなったんですっ!!中でも外でも一緒だ!!」
そう言って走り去って行ってしまった。
「仕方がない。あと少ししたら迎えに行こう。」
だが、二時間ほど経っても帰ってこない。
私達は恐る恐る外に出ると、お祈りが出来そうな教会に向かう。
そして敷地内に入った私達は呆然とした。
――美しく咲き乱れる花壇の中に目を見開いたまま矢を胸に刺して倒れたニールの遺体があったのだ。
「ニールッ!ニール!!!!」
ニコラス様が泣きながら叫んだ。
ジェレミーは驚いたように呆然としている。
そしてシャーロットは何かを考え込んでいる。
「とりあえず戻りましょう…。ああ、こんなことになってしまうなんて。
心を落ち着かせるために皆で飲み物でも飲みませんか?カフェにでも行きましょう。」
ジェレミーの言葉に全員が頷く。
そして、カフェに向かっている途中だった。塀の上から大きな石が落ちてきて、それがニコラス様に命中した。
そのまま、ニコラス様は倒れて絶命してしまった。
「に、ニコラス様?!う、嘘!!」
流石にポーカーフェイスのシャーロットも動揺している。
「そ、そんなぁああああ!!!ニコラス様ー!!!!」
思わず私が叫ぶとジェレミーが私を抱きしめてきた。
「義姉さんっ!落ち着いて!!!
あそこの井戸の前にベンチがあったはずだ。
ちょっと座って皆で話でもしよう。」
私は混乱した頭で頷くと、訝しげにジェレミーを見るシャーロットと三人で井戸の方に向かったのだった。
◇◇
「はい。義姉さん。」
ベンチに座って三人で一息ついていると、ジェレミーが目の前のお店で私とシャーロットに飲み物を買ってきてくれた。
「あ、ありがとう。」
そう言って私が受け取る。
飲み物を飲むと大分気分が落ち着いてきた。
「…義姉さん、大丈夫?親しい友人達が立て続けに亡くなってしまってショックだったろう?
――大丈夫。僕が義姉さんのことを守るから。」
そう言ってフワリと笑ったジェレミーの顔にキュンと胸が締め付けられたその時だった。
「――私、犯人がわかりましたわ。」
突然シャーロットがそんな事を言い出した。
ジェレミーと私が目を見開くと彼女が頷く。
「犯人は貴方ですわね?
――ジェレミーさん。」
その言葉に私は驚愕する。
(え、えええええええ?!!なんで?!)
すると、ジェレミーが目を見開いたあと笑い出した。
「くくっ、ははっ!!はははははは!!!!
…バレてしまったら仕方ないですね。」
「ど、どうして?!ジェレミー!!貴方、皆と仲良
くてたじゃない!ま、まさか!!私を好きすぎて独り占めしたいからとか?!」
その言葉にジェレミーが嗜虐的に笑った。
「っは!アイツらと仲良しだ?
そんな訳ないだろ。テキトーに合わせていただけだ。
それに僕がエヴァの事を好きだって?!
――逆だよ、逆。お前のことなんて大っ嫌いだ。」
吐き捨てるように彼がそう言った後、シャーロットが淡々と語り出した。
「マックス様を殺したのは遅効性の毒ですわね?
貴方は来る途中に皆に水を渡していた。
その時に毒を紛れ込ませていた。」
「ああ、そうだ。」
そう言って彼は笑った。
「そして、貴方は村の至る所に弓矢を仕込み、魔道具を使ってターゲットが指定の位置に来たタイミングで撃ち殺した。恐らく指定の位置にターゲットが来たら通知が行く魔道具でも仕込んでいたのでしょう。
そして、最後のニコラス様に岩が落ちたのは塀の上にある岩をヒモのようなもので結びそれを魔道具で焼き切った。
――そうですわね?」
「ああ。合ってる。」
(わ、私を置き去りにめっちゃ謎が解かれていってるんですけどおおおお!!!!)
「…どうしてですか?」
「ん?何がだい?」
ジェレミーがヤケクソなのか笑顔で答えると、シャーロットが眉尻を下げる。
「一つ目は、殺人を犯す動機です。
二つ目は何故こんなにも村の地形に詳しいのか。
そして最後は、何故全て亡くなった方の遺体がこの井戸を取り囲むように五芒星の形を描く様に配置されているのか…です。」
その言葉にジェレミーが苦しそうに笑った。
「…知りたい?」
「ええ。」
シャーロットが頷くと彼は笑った。
「僕さー。前世の記憶ってのを持ってるんだよね。
もう100年前なんだけどね?
でさぁ、その時すっごくすっごく愛していた子がいたんだ。」
その言葉にシャーロットが目を見開く。
「…まさかそのお相手というのは…。」
「――そう。マーサだよ?
僕達は同じ村に生まれた幼馴染同士だった。
僕の名前は当時はティムって名前だったんだけどね。
将来結婚出来たらいいねって密かに思い合っていたんだ。
それなのに、彼女に癒しの力が発現してしまって貴族に無理やり引き取られてしまった。
――挙句、学園で貴族令息に付き纏われるようになった彼女は勝手にその婚約相手の令嬢達に恨まれるようになった。
そんな苦しい状況から何とか逃げたくて彼女は苦しみながら村に戻ってきたんだ。
…それなのに、逆恨みで殺された。」
いつの間にかジェレミーの頰に涙が伝っていた。
「そしてあろうことか、馬鹿な令息達は疑わしいというだけで村の関係ない大半の人達を殺してしまったんだ。
…その中に僕の両親や、彼女の家族までいた。
――許せなかった!!!!」
そう言って彼は絶叫した。
「前世の記憶を取り戻した時は驚いたよ。
学校にアイツらと同じ顔の奴らがいたんだから。
…しかも、性格も馬鹿なところも全部同じだった。
同じ奴の魂が同じ顔の身体に入ってるという確信が僕にはあった。」
そう言った後、彼は私の方を振り向いた。
「っひ!!」
思わずビクリと震えてしまう。
「――それなのに!
マーサだけは顔は全く同じなのに別人だった。
マーサはこんな男好きのクソ女じゃなくて本当にいい子だったんだ!!
マーサは婚約者がいる男に絶対に自分から迫っていったりしない!!」
その言葉に私は顔が赤くなる。
(え?!え、え、えええええ?!マジ?!
私の下心をコイツ見抜いてたのー?!!!
な、なんか恥ずかしいー!!!)
「それは、お気の毒でしたわね…。でもだからってこんな事をしたってマーサ様は戻ってこないですわよ?」
シャーロットの言葉にジェレミーは狂った様に笑う。
「くくっ、はははははははははは!!!!!
――それがね。戻ってくるんだよ。
この村にはね?
秘密があるんだ。
5体の生贄を五芒星の形に捧げて中心に器となる肉体を捧げる。
――そうすると、愛しい人を呼び起こす事が出来るんだ。
そして、二人だけで安全に暮らせる場所に転移できる。
――そういう古代魔法が村そのものに眠っているんだよ。」
(はへ?)
その言葉にシャーロットは目を見開く。
「まさかっ…!!!…いけませんわ!
エヴァ様逃げてくだ…」
――ドン!!!
その瞬間、私はジェレミーに井戸に突き落とされた。
「へ、え?へえええええええええ?!」
ゴオオオオオオオオオ!!!
風の音がして下に下に落ちていく。
(わ、私短期間で死にすぎじゃないいいいいいい?!!)
私は間抜けな声を晒しながら意識を失った。
◇◇
――そして、気がつくと私は病院のベッドの上にいたのだった。
(いやー、しかし、酷い目に合った。)
お医者さんに全治二ヶ月の骨折…と言われた。
意識を取り戻したのは奇跡だったらしい。
とりあえず、後遺症が残らなそうで一安心である。
(そうだ!limeに連絡とか結構来てるかも!スマホスマホ!!)
そう思い、スマホのロックを解除すると例の乙女ゲームのアプリが目に入った。
(…う。怖いけど気になる…。)
恐る恐るタップすると、見たこともないアニメーションがいきなり流れ始めた。
…………………………………
アニメーションで因習村の井戸の真ん中から『私の身体だったもの』が金色の光に包まれてふわぁっと浮き上がってくる。
「マーサ!!」
井戸の目の前にいるジェレミーが泣きながら彼女を抱きしめた。
「ティムッ、会いたかった!!」
そう言って彼女もしっかりとジェレミーを抱きしめ返した。
その様子を呆然とシャーロットが見ている。
「う、嘘!本当にこんな事が…、」
「さあ、行こうっ!
これからはずっと一緒だ。」
シャーロットの声を無視してジェレミーが笑うと、マーサが泣きながら頷いた。
「うんっ!!」
二人が愛おしげに見つめ合った後、唇を重ねると光が二人を包み込みどこかへ消えてしまった。
その瞬間、画面の中央にバナーが表示された。
《アプリのアンインストールを開始します。》
(え?!)
驚いている間に乙女ゲームのアプリが勝手に消えてしまった。
暫く私は呆然としていたが、やがてなんだか笑えてきてしまった。
「っぷ、…なんだか私、バカみたい。」
(それにしても、ジェレミーのやつ。
人殺しだし、確かに狂ってるんだけどあそこまで人を愛することが出来るのはある意味幸せなのかもね。
…私も逆ハーなんて目指さないで、まずは一人だけちゃんと好きな人を見つけよう。)
「よーし!まずは禁酒しようっ!!
そして素敵な彼氏、見つけるぞっ!!」
私が叫ぶと看護師さんに注意されてしまった。
「すみませんっ!他の患者さんの迷惑になるので病室で叫ばないでくださーい!!!」
「ご、ごめんなさぁあい!!!」
――こうして私の狂った逆ハー乙女ゲーム転生は終わりを迎えたのだった。
もう二度と乙女ゲー世界には行きたくないけど、この出来事がきっかけで私は真人間への道を歩き出すのだった。
fin.
作者はホラーとサスペンスも大好きです。
「乙女ゲー転生に混ぜたらどうなるかな?」と楽しんでいたら、気づいたら因習村+祟り+狂愛になってましたw
ホラー好きさんも、テンプレ好きさんも、楽しんでもらえたら嬉しいです!




