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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第38話 竜の信徒の唸る筋肉!

 地鳴りと共に地面を突き破り、土煙をまき散らしながら巨大な岩がせり上がる。

 そこに現れたのは堅牢な岩の鎧を備えた規格外のサイズの大蛇。地面からそびえ立つ見えている身体の部分だけでも十五メートルはあろうか。地中にはまだ身体が埋まっている。

 これが穿地竜バジルグラーヴ──。

 そしてその竜の頭の上に、堂々と胸を張る人影があった。


「はっはっはっは! 良く来たな冒険者諸君! 俺様はエンドレイク教団一の筋肉使いガーランド様よぉ!」


 おっとぉ? なんか自己紹介してる? ……捕まえたら、情報話してくれそう?

 教団の情報はシルヴィオさんにお願いしているものの、ノクの居場所がこちらでわかるならそれに越したことはない。

 なんか、陽気そうだし、聞いたらポロっと教えてくれないかな。

 ……でもなんで上半身裸なんだろ。まあいいか。


 わたしは手を口にあてて、竜の上の人物に声を張り上げる。


「おじさん! エンドレイク教団の本拠地知りたいって言ったら教えてくれる!?」


 その人物は両腕を組み目を閉じる。そしてこちらに顔を向けカッと目を見開くと簡潔に一言だけ叫んだ。


「知らぬ!」


 ……これはどういう意味の回答なんだろうか。取り合う気がないという意味か、それとも本拠地を知らないという意味なのか。嘘ついてるのかどうかすらわかんないなぁ~。


 そして、ガーランドは竜の上から——跳んだ。両腕を組んだ姿のまま地面に突き刺さるように落下する。ズドンという激しい音が響き、砂が舞い上がる。腕をほどき肩をまわしながら砂煙の間からゆらりと現れるその姿には、落下のダメージは全く無さそうだ。どんな身体してるんだろう。


「はっはっは! 今どんな筋肉を鍛えれば落下の衝撃に耐えれるのか、と考えていたな?」


 微妙に違う指摘のされ方をされてとても気持ちが悪い。……なんでわたしの思考をちょっとズラして読むの?


「大腿四頭筋下腿三頭筋大殿筋が大切なのはもちろん、腹直筋脊柱起立筋内転筋群で身体を支え、僧帽筋広背筋上腕二頭筋を鍛え上げ、揺れぬ体幹がそれを実現するのだ!」


 ガーランドは話ながらポージングを三度ほど変え、最後は胸を大きく突き出し、肩から胸筋にかけて隆起する肉の鎧をこれでもかと見せつけた。

 唖然茫然とするパーティ一同。あのフィンですら毒気を抜かれて呆れ顔で「……何の呪文だ今の」と呟く。

 ただ一人、アクセルだけが破顔して両手を叩いていた。


「素晴らしい修行の成果だ!」


「おお、わかるか青年よ!」


 がしぃ! 固い握手が交わされる。

 ……これもう話し合いで解決できない?


 そして手を離すとガーランドは笑いながら竜の下に戻っていく。


「いやー実に愉快! 酒を酌み交わして筋肉論争をしたいものよ!」


 そして振り返ると、腰を少し沈ませて顔に腕を構える。


「そして実に残念だ。これから息の根を止めねばならんということが」


 地面から石が浮き上がり、ガーランドの筋肉を覆うように貼りついて行く。

 あっという間にゴツゴツした岩の鎧をその身にまとった。

 そして眼前に構えた拳を、空を切るようにアクセルに突き出すと、腕の延長線上に先端が尖った岩が射出される。

 アクセルは即座に頭を傾ける。その頬をかすめて岩は後方の家屋に突き刺さり、激しい音を立てて家屋が崩れ去った。


 そこへグロウの声が響く。


「おいおい、飛び道具かよ! 筋肉どこいった!?」


 アクセルの脇からグロウが前に踏み出して、長剣を横薙ぎに振るう。だがそれはガーランドの右腕に貼りついた岩の鎧に難なく受け止められる。そして左腕の突きがグロウの腹を抉ると、グロウは後方へと吹き飛ばされる。


 すかさずオーキィがグロウに駆け寄り治癒魔法(ヒール)を施す。

 グロウは片手で頭を支えながら再び立ち上がった。


「いってぇ……! くそ、やっぱ筋肉すげえわ」


 グロウは頭をふって剣を持ち直す。

 オーキィが治癒魔法(ヒール)をしている間にもわたしはガーランドに矢を射かけるが、撃った三本全てが手でつかみ取られてしまった。どんな反射神経してるのよ!?


 そしてガーランドは片手を高く突き上げたかと思うと、村から下の方——崖に向かってその手を振り下ろす。

 その動きに呼応するかのように、穿地竜が山の下をめがけて動き出した。


「ええええ!? あの竜、どこへ行くの!?」


 問いかけたわけでは無かったけど、わたしの叫びにガーランドが答える。


「そりゃあ山のふもとを滅ぼしに行ったのさ。ここは俺様ひとりで十分そうだしな」


 こんなのが人里まで行っちゃったらどれだけ被害でることか……!


「ティエナ!」


 フィンがわたしの名前を叫んだ。それだけで、何を求められてるのかがわかった。


「うん、わかった! 行ってくる!」


 わたしは断崖絶壁の風を切り裂き、わたしは竜の影を追って飛び出した——!

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