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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第37話 穿地竜の前兆

「おい、これ何体いるんだよ!」


 グロウは舌打ち混じりに悪態をつきながらも甲殻が砕けあらわになった岩蛇の皮膚に、深く長剣を突き刺す。

 岩蛇の身体が光となって空中に溶け、魔核をその場に落としていく。


 いったい、もう何体目だろう?

 わたしたちは荒れた山道を進みながら何度も岩蛇たちと遭遇したが、そのたびに仲間たちと連携しつつ魔物を倒してきた。

 皆にも疲労の色がうっすらと滲んできたころ、道の向こうに、木造家屋の藁ぶき屋根が見えてくる。


 少し前を歩くフィンが独り言のようにぼそりと呟く。


「人が居る気配がしねぇな」


 そのすぐ後ろを長尺のメイスを抱えたオーキィが続く。


「さすがにもう避難済んでるんじゃないかな?」


「全滅、とかじゃなければいいんだがな。ティエナ、ちょっと頼めるか?」


 フィンが足を止めると、わたしに向き直りながら手近にあった背の高い木を指し示す。

 わたしは軽く頷く。そして、枝葉を軽くかき分けて、木の幹から枝へとつたいながらスルッと上まで登った。

 木の上では澄んだ空がどこまでも広がっており、ひんやりとした空気が頬を撫でる。


 木の上から見渡す村の様子は確かに生活の香りがしない。煙も無いし、声もしない。聴こえるものと言えば、風で揺れる草の音や建物の軋む音程度だ。人が活動する匂いが無い。

 ぽつんぽつんと建っている家はどれも壁や屋根に大きな損壊が見受けられ、地面もところどころ陥没しており、魔物の襲撃の爪痕が残されているようだ。


 ……ちゃんと避難できてたら良いんだけど。


 わたしは目を伏せ、首を横にふると、木の枝を軋ませながら降りていく。


「ダメだね。もう村は襲撃された後みたい。魔物の姿は確認できなかったけど、村人も見当たらなかった……避難できてると、信じるしかないね」


 皆の表情が少し陰るが、アクセルが一歩踏み出し拳を力強く握り胸を叩き、あたりに金属鎧の音が響く。


「村人たちが安心して戻ってこれるように、俺たちで魔物を討伐して安全の確保をしよう!」


 激しい音を立てたアクセルに、フィンが冷ややかな視線を送る。


「意気込みは結構だが、まずは自分の身の安全を優先な。……岩蛇なら、不意に地面の下から出てきてもおかしくない。警戒は怠るなよ」


 改めて、アクセルとグロウを先頭に、真ん中にわたしとウィンディ、最後尾にフィンとオーキィという隊列で村の中に歩みを進める。

 そして、村の中心と思われる古井戸がある広場にさしかかったころ、大きな地鳴りが震動と共に村を包み込む。揺れは次第に大きくなり、朽ちた家屋が足元から横倒しに崩れ、古井戸を形成する石煉瓦も中心に向かって崩れ落ちていく。


 その状況でもウィンディが慌てることなく、静かに詠唱していた。


「しなやかなその身に受け止めよ。揺らぐことなき安らぎの大地。我らを守れ!『静地結界(アースカーム)』!!」


 ウィンディの短杖(ロッド)から、まばゆい光が地面を這い仲間の足元に伸びていく。そして靴の下でひときわ眩く輝く。


「皆の靴に耐震魔法をかけたよ」


 栗色の髪をかきあげながらさらりとそう言った。


「え? すっご! 足元全然揺れなくなった!」


 感動が隠せないわたしは、その場で何度もジャンプしてみせる。

 その様子を見ながらアクセルが得意げに頷き、白い歯をキラリと輝かせた。


「そうさ、ウィンディの魔法はすごいんだよ」


「揺れは防げるけど、油断しないで。……地面そのものが割れたら、もちろん落ちるからね」


 皆が深く頷いたその時。あたりの揺れが突然ぴたりと止まった。――静寂。


 その空気を破るように、フィンが警戒を発する。


「足元気を付けろ! いつどこに飛び出してくるかわからんぞ!」


 フィンはそこまで言ってから、ふと苦笑いを浮かべた。

 その顔は「答え」に気付いた者の顔だった。


「……あー、なんだ。……ちょっと嫌な予感しかしないから、オレ走るわ」


 フィンが突然前方に向けて全力ダッシュをする。

 オーキィが一瞬ぽかんと口をあけたが、何かを察したらしい。メイスを握りしめて追いかけ始める。


「ティエナちゃん行くよ! フィンくん運が悪い(・・・・)から!」


 あぁ、そうだった。フィンはこういう時に、ハズレ引いちゃうんだよねぇ。

 わたしが走り出した後を残りのメンバーも何が何だかわからないままついてくる。


 そして——


 ズガァァァァァァァン!!


「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」


 フィンの足元が弾けたかと思うと、あたり一面に土や岩をまき散らしながら土煙が立ち上がり、その中心からは岩の塊が勢いよく天に向かって突き上がった。大地を割る轟音に耳が痺れ、肺を圧するような重圧が胸を押し潰す。

 大岩が吹き上がる濁流に巻き込まれ、フィンも空に放り出されていたが、衝突前に跳躍をして直撃はしっかり避けていた。焦ったけど、さすがの身のこなしだね!


 そして土煙が晴れたあとには、塔と見紛うばかりの巨大な岩の大蛇が突き立っていた。

 ……いや大蛇ではない。きっとこれが竜——穿地竜バジルグラーヴ。単純に岩蛇が幾倍にも大きくなったようなものだが、体表の岩の塊はより厚く堅牢に感じる。地上に見えている部分だけで十五メートルはあろうか。地中に潜っている部分も含めればどれぐらいの大きさか見当もつかない。


 そしてその竜の頭の上に、信じられないことに人影が立っていた。岩を踏みしめ、堂々と胸を張るその姿。


「はっはっはっは! 良く来たな冒険者諸君! 俺様はエンドレイク教団一の筋肉使いガーランド様よぉ!」


 おっとぉ? なんだか……情報話してくれそうな人がいるぞぉ……!?

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