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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第36話 前哨の連携

 荒れた山道に、土煙を巻き上げながら岩蛇の巨体がうねり出る。

 仲間たちがそれぞれ別の個体に挑む中、フィンはただ一体を引き付ける役を買って出ていた。


 厚い岩の甲殻に覆われた岩蛇に時折ボウガンで矢を射かけてはみるが、堅い外殻には全く効きもしない。

 横目でティエナが岩蛇の目を射抜く姿が見える。「いや、無理だろそれ」と思いつつも同じように眼窩を狙ってみるが、常に揺れ動く顔の目になんて当たるもんじゃない。狙いは全て逸れ、矢は顔周辺の外殻に弾かれた。


「無理無理! 眼を撃ち抜くとか、人間技じゃねぇや!」


 ボウガンでダメージを狙うのは元より諦めている。

 挑発と回避に集中して、フィンは少しずつ岩蛇から距離をとる。

 岩蛇が地面に尻尾を滑らせると、地面が弾けるような鈍い破裂音が耳をつく──視界の端で石が砕け散り、飛沫のような欠片が頬をかすめる。

 大量の礫が雨のように降り注ぐが、フィンは頭への直撃を避けるように姿勢を低くして、左右にステップを刻みながらかわしていく。

 そして、一気に距離を詰めてきた岩蛇の、全身を使った体当たりが迫る。

 背中をかすめる風圧を感じながら、フィンは大きく跳躍し岩蛇の頭へ。逆立ちで片手をつき、その反動を利用してさらにひらりと跳び越えた。

 巨体がすり抜け、表面が削り取られた地面の上に、フィンは軽やかに脚をつける。


「あっぶね……!」


 土埃と一緒に冷や汗を拭い落とすように、腕で頬をぐいっと拭うと、ふたたび距離をとるように走り出す。その間にも弾かれるのを前提に、ボウガンで二度攻撃を仕掛けておき、注意を自身に向けさせ続けた。


 距離を置くと岩蛇は、破裂音と土煙をともなった地面を削った石礫を飛ばしてくる。

 フィンは後ろに下がりつつ、頭や身体を捻りつつ最小限の動きで避けていく。

 回避に専念していれば、大事にいたることはないが──何かひとつミスをすれば生命を失う緊張感は常にあった。


「そろそろ誰か来てくれねぇかな!」


 他の二チームからも、激しく地面が削れる音や戦闘の雄叫びなどが聞こえてきている。

 淡い期待をしつつ、目線だけで周りを確認してみると、ちょうどティエナとオーキィが一体仕留めてこちらに向かってくるところだった。

 フィンは安堵から頬を一瞬緩ませるが、気を引き締めて口を固く結び、目の前の岩蛇に意識を向ける。

 こういう時に油断した奴が、真っ先に命を落とすのだから。



 炎の矢で岩蛇を倒した後、見渡した視界の先には、土煙の中で必死に岩蛇を翻弄するフィンの姿があった。

 一瞬緩みそうになった口元を噛みとどめ、走りを速める。


「いこう、オーキィ!」


 わたしの声にオーキィは深く頷くと、一度だけその場で大きく息を吸い込み、そのまま両手でメイスを固く握りしめて走り出す。

 オーキィを追うようにして、わたしも駆ける。その際、右手の周りに《氷撃の槍》を一本生成することに集中しながら走った。


 フィンが攻撃を避けながらも、常に岩蛇から距離をあけるように動いてくれている。そのおかげで《氷撃の槍》を放ってもフィンを巻き込むことはないだろう。

 岩蛇の巨体が翻った一瞬、露わになった側腹部へと《氷撃の槍》を解き放った。


 白く凍てつく螺旋が渦巻きながら岩蛇の側腹部へ突き刺さる。

 岩蛇の甲殻に白い凍結が走る。身をよじり、殻を脱ぎ捨てようとしたその瞬間——駆けつけたオーキィの横薙ぎのメイスが遠心力を乗せて叩き込まれた。


「どっせーーい!」


 およそ修道女が言いそうにない声と共に放たれた一撃。岩蛇の凍った甲殻を砕き、その下の皮膚を深々と抉った。

 岩蛇の天を衝く咆哮が大気を揺るがす。胸の奥まで振動が突き抜け、内臓が震えるようだった。

 オーキィが微かに微笑み身をひるがえすと、その視界を金髪が勢いよく横切っていく。


輝く刀身(サンライトブレード)!!」


 光のマナの力を帯びて輝く刀身の一撃が、突進の力を加えてむき出しの皮膚に深く突き刺さる。

 アクセルは岩蛇の身体の奥まで刀身を刺し込むと、力任せに横に払って内部から強引に胴を叩き切る。


 直後、岩蛇の咆哮は止み、その身体は光の粒子へと化し空にかき消えた。後には魔核だけが残される。


 少し遅れて追いついたグロウは、スピードを落としながら軽く足踏みをする。そして疲れた顔で、長剣を鞘へとおさめると


「おいおい、俺の見せ場は?」


 と肩をすくめた。さらに遅れてやってきたウィンディが息を切らしながらグロウの肩を軽く叩くように手を置いた。


「グロウはさっき見せ場あったでしょ……。とりあえず、討伐完了を、喜ぼう?」


 岩蛇の消失を見届けたあと、わたしはフィンの行方を求めて首を大きく振った。その視界に、既にフィンの元へ駆けよっているオーキィの姿が見えた。

 うん、これなら怪我をしていても大丈夫。


 ……だけど、こんなのがまだゴロゴロしてるのか。穿地竜バジルグラーヴにたどり着くまで、まだまだ苦労が続きそうだ。

 わたしは冬の抜けるような青空を見上げながら、白い吐息をふっと漏らした。

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