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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第30話 再会と英雄譚

「協力してよ! この女からエンドレイク教団のアジトを聞き出したいの!」


 わたしがロープで縛り上げた女を指さすと、シルヴィオさんは視線だけを女に向ける。


「ほう……?」


「こいつ、毒を撒き散らす竜を操ってた! 竜信仰の関係者なのは間違いないと思うんだ。

 だから、ノクの居場所を聞き出そうとしたんだけど──」


 先ほどの光景が脳裏をよぎり、ごくりと唾を飲み込む。


「自害されかけてさ……。わたしじゃ聞き出せそうにない。だから、帝国に預けるから情報を引き出して欲しいの」


「頼まれずとも、アジトの割り出しぐらいは行うさ」


 シルヴィオさんは踵を返し、兵たちに女を抱えて来るよう命じた。

 その横で、ちょび髭が卑屈な笑みを浮かべ、手揉みしながら擦り寄ってくる。


「この討伐隊の指揮は私が任されておりまして……生け捕りの成果を、ぜひ陛下にご報告いただけましたらぁ」


 シルヴィオさんは見下すように一瞥するだけで、興味なさげに白馬に跨る。


「ティエナよ、一週間ほどで遣いをやろう。待つがいい」


 そう言い残し、馬の腹を蹴ると、風を切って森の奥へと駆け抜けていった。



 シルヴィオさんが立ち去ると、一歩離れて取り巻いていた仲間たちがわたしに詰め寄る。

 グロウが鼻息荒く叫んだ。


「おい、『英雄シルヴィオ』と知り合いなのかよ!」


「うーん、わたしがと言うか、じいちゃんが?」


 ウィンディがぱちくりと目を瞬かせる。


「お爺さんが……?」


「うん、リヴァードって言うんだけどね」


 わたしの言葉に、次はアクセルが反応する。


「リヴァードか。シルヴィオと同じく、大精霊討伐隊の英雄じゃないか」


「やっぱり、知ってるんだ? じいちゃん有名なんだなぁ」


「そりゃあ暴走する大精霊を討伐した立役者だからな。三十年も前の話だから、俺も本とか人づてに聞いた以上のことは知らないが」


 ノアランデ王国の宮廷魔術師シルマークさんからもらった冒険譚に、そんなことが書いてあった気がする。


「大精霊の暴走って、そんなに被害大きかったの?」


 アクセルがウィンディに視線を送る。促されるように、ウィンディが頷いて語り出した。


「そうらしいね。アクレディア帝国内では『水の大精霊ウンディーネ』が暴走して、国内の水脈がズタズタになったって聞くよ。水の神を奉じている帝国にとっては国の威信もかかってたし、相当な危機だったみたいだ」


 水の神を信仰する国としては、水関連の事件は国家を挙げて解決せねばならなかったのだろう。

 まさか、ここでもじいちゃん大活躍とは——意外なところで関連話を聞いてしまった。


 さて、今回の依頼はこれで無事達成となり、冒険者たちは各々ギルドまで報酬を貰いに帰るわけだけど──。


 話題の途切れたこのタイミング。

 待ってましたとばかりに、グロウが再び息巻いて話しかけてくる。


「ティエナ、お前『英雄リヴァード』の孫なのか!?」


 どうやらグロウは『蒼き剣と七つの遺跡』の愛読者らしく、英雄の話を矢継ぎ早に質問をしてきた。

 それに加えて、わたしが今着てるコートがじいちゃん譲りの物だと知ると、生地の質感が知りたいだの、形見の弓矢も手に取って見せてくれだのと、子供のようにはしゃぐグロウの姿があった。

 グロウってやんちゃな大人ってイメージあったけど、こんな一面もあるんだね。

 ギルドへ向かう道中は、それはもう賑やかだったよ。

 アクセルとウィンディもその姿を見て楽しそうだった。


 そして、ふたたび。

 水路入り組む噴水都市、ルーミナへと足を踏み入れる。



 ……というわけで!

 白く美しい壁と観葉植物が美しく彩るルーミナの冒険者ギルドまで戻ってきた。

 報酬の手続き関連はアクセルに任せて、わたしは掲示板をふらっと眺める。


 他に怪しい依頼はないかなぁ?


 重なる依頼書も一枚ずつめくりながら確認していたら、突然目の前が、ふわりと温もりに覆われた。


「だーれだ?」


 ──女性の声。ウィンディではない。彼女なら性格的にこんな事しないし、

 それに、この声。——このお茶目でぬくもりに溢れた声は一人しかいない。他に聞き間違えようが無かった。


「え!? オーキィ!? なんで帝国(ここ)にいるの!?」


 わたしは目を覆う手のひらを掴むと、顎を上げて、覆う手の持ち主を見上げた。

 視界へ逆さまに映るのは、柔和な微笑みをたたえた銀髪の女性。


 間違いない。オーキィだ。


「久しぶりねー、ティエナちゃん! 二ヶ月ぶりぐらい?」


 わたしの身体はオーキィの腕の中にガッチリだき抱えられている。

 さすがオーキィ、力が強い。解けないぞ……!?

 

「手紙ありがとうね、ノクくんの事……大変みたいだね。落ち込んでない? 大丈夫?」


 あぁ、そうだ。オーキィはこうして気にかけてくれるのだ。優しいお姉ちゃんという感じ。

 ふわりと石鹸のような香りがする、オーキィの腕の中の温もりに甘えたまま、わたしは話を続ける。


「ノクは……とりあえず無事では居るみたい。場所もきっとわかると思う。心配してくれてありがとう、大丈夫だよ!」


「そう、それなら良かった」


 オーキィはわたしの頭をそっと撫でながら、安心したように笑ってくれた。


「え? まさかそのためだけに来てくれたの?」


「そうだよ! ……って言いたいところだけど、そうじゃないんだな。ほらあっちを見てみなよ」


 オーキィがわたしを両手で抱え上げるとクルッと半回転して、ギルドカウンターが見えるようにしておろす。


「どう? 見える?」


 オーキィの柔らかな笑みと声。わたしの視界が少しずつ広がっていった。


「うん、あれは──」


 胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じながら、

 わたしはその先を眺めていた──

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