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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第29話 吹き込む蒼き風

 わたしは倒れ伏す冒険者たちのもとへ足を運んだ。

 まずウィンディたち魔術師隊を起こして、回復と補助を分担する。

 応急の治療が一通り済むころには、呻き声の数も幾分か減っていた。


 見渡す中に、グロウに肩を預けて立ち上がるアクセルの姿が見受けられた。


「アクセル! 雷直撃してたけど、大丈夫なの?」


「任せておけ、この通りピンピンしている」


 白い歯がキラリと光る。


「俺に肩預けといてピンピンもクソもねぇだろ」


 わたしは回復魔法をかけようとしたが、すぐ傍でウィンディが駆け寄ってきたので任せることにした。

 ウィンディは落ち着いた様子で、芽吹く草花が彼の身体に生命を吹き込むかのように回復魔法を紡ぐ。


 大地の加護を受け傷が癒えると、アクセルはグロウから離れて屈伸を始める。


「流石だな。どこも痛みが無い」


 そう言うと、軽く腰を捻って身体の動きを確かめる。

 アクセルの無事を確認するとウィンディはグロウに向き直る。


「グロウは大丈夫?」


「俺は毒霧にやられただけだからな。いつの間にか解毒もされてたし──」


 肩を捻って腕をぐるりと回す。


「問題なさそうだ」


 ウィンディも仲間の無事を確認すると、少し口元を緩めて穏やかな表情になる。

 アクセルがわたしへ近寄ると、立てた手のひらを差し出してくる。──握手をしろと言うことか。


「雷の狼退治、見事だった」


 そういえば、雷の狼に、「貴様を倒す──パーティのリーダーだ!」って言ってたもんね。

 労をねぎらってくれるわけ?


 わたしもその手を握り返す。


 グロウもわたしの頭をワシワシと掴んで撫でる。

 ウィンディは微笑ましそうにこちらを見ていた。


 そしてすぐに、グロウが顎に手をあてると、思案顔で呟きはじめる。


「しかし──ドラゴンのような魔物が出現した後の記憶がないんだが、……そのぐるぐる巻きの女はなんだ?」


 女に向けて顎をクイッとあげる。

 わたしは、まだ気絶しているその女を見下ろすと、


「今回の騒動の主犯格、のハズなんだけど……口を割らないから帝国の兵士に引き渡して取り調べてもらおうと思ってる」


 などと、話をしていたら──おそらく回復した冒険者が森を抜けて報告したのだろう。その報せを受けて、偉そうな兵士たちが都合よく現場確認にやって来た。

 その中のひとり。ちょっと偉そうなちょび髭の兵士が、腰の後ろで手を組み周りを見渡しながら進んでくる。


「ふん、ちゃんと片付いておるな」


 うーん……この人に、この女の調査を任せるのは不安だけど……。


「あの、すいません。今回の騒動の主犯と思われる女を捕縛しているんですけど」


 そのわたしの言葉に、兵士は大きく目を見開くと、ご機嫌な様子で大きく頷いた。


「ほう、それは結構! ……この手柄で私の昇進は約束されたな」


 てがらぁ?

 まぁそんなのはいい。わたしはこの女から情報が欲しいだけなんだ。


「それで、この女おそらく『竜信仰』の信者なんですが、アジトの場所を吐かなくて。帝国で調べてもらって、もし場所がわかれば教えて貰えませんか?」


 兵士は不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「なぜ、ワシがわざわざそんなことをせねばならん? 調べはするがお前のような冒険者に教えるものか」


「それだと、引き渡し出来ません!」


「何を寝ぼけたことを言っておる。依頼主は国だぞ? 騒動の犯人を渡せぬなど……牢に入りたいのか?」


「わたしだって、この騒動の裏側を追いたいんです!」


「ならぬならぬ! 面倒だ、おい兵たちよ、こいつを捕らえよ」


 ちょび髭が手を振り、周りの兵士に指示をした──その時。

 この場にヒヤリとした空気が吹き込んだ気がした。

 兵士たちの背後から影が差す。馬に乗った人影だ。

 ふと見上げると、そこには真っ白な毛並みの馬に跨る、蒼光を帯びる銀の鎧。風に翻る青いマントと、後頭部で結った白銀の長髪。


 ちょび髭の兵士が慌てて背筋を伸ばす。その顔からは先ほどまでの尊大さが消えていた。


「騎士団長殿が、どどどうしてこのような場所に!?」


 兵士たちは即座に直立し敬礼をする。

 わたしは馬上の姿を見て、胸の奥がふっと軽くなり、堪えきれずに笑顔で駆け寄ってしまう。


「シルヴィオさん! どうしてここに!?」


「きき貴様! 不敬だぞ! ……申し訳ありません、シルヴィオ騎士団長。わたくしめがすぐにこの小娘を引っ捕えますので」


 ちょび髭の兵士が手揉みをしながら腰を低くして進言する。そこにシルヴィオさんが腕を突き出して、制止の意を示す。


「一度だけしか言わん、よく聞け。彼女は俺の客人だ。……理解したか?」


 ちょび髭は顔面を蒼白に変え、こくこくと頷くと一歩後ろへ引き下がった。


 静まり返った空気の中、シルヴィオさんは軽やかに白馬から降り、表情を変えずにわたしの顔を覗き込む。


「呼ばれたような気がしたのだが──ふむ」


 顔、近いって!

 相変わらず何考えてるのかわからない人だなぁ……!


「呼んではいないけど──丁度いいときに来てくれたよ!」


「なんのことだ?」


「協力してよ! この女からエンドレイク教団のアジトを聞き出したいの!」


「ほう……?」


 一陣の風が吹き抜ける。

 ノクを取り戻す道へ──わたしは確かに、一歩を踏み出したんだ。

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