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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第21話 水しぶきをあげる観光地

 一時的にパーティを組んだアクセルたちを追いかけて、ギルドを出る。


 ギルドからほんの少し離れたところで、アクセルの後頭部を鷲掴みにしているグロウが、わたしに気づいて指を立てた。


「嬢ちゃん、この街はじめてって言ってたろ? 物資補給がてらに噴水広場寄ろうや」


 街の観光は後回しのつもりだったけど、思わぬ助け舟が来ちゃった。

 ありがたく、乗っからせてもらおう!

 

 街の中央に据えられた、遠くから見ても巨大な噴水。

 この街を「噴水都市ルーミナ」といわしめる象徴的な場所だ。

 街をぶらぶらと散策、買い物をしながらわたしたちは噴水広場へと歩みを進める。


 ルーミナでは、縦横無尽に水路が張り巡らされている。

 幅十メートルを超える幹線水路が、噴水広場を中心に東西南北へと伸びている。

 さらに、その外周をぐるりと囲むように、円形の水路が街を巡る。

 幹線から枝分かれするように、幅五メートルほどの主要水路が市街地のあちこちへと無数に伸びており、街中にはいくつもの橋が架けられていた。


「上から見たら蜘蛛の巣みたいになってるんだよ。この水路のおかげで街中では流通もスムーズなんだ」


 ウィンディの言葉にわたしは水路に視線を送る。

 通りから三メートルほど下の水路へ伸びる階段。

 なるほど、その先にある船着き場ではさかんに荷の積み下ろしをしている作業風景が伺える。

 子供たちがそのまわりではしゃぎ回り、大人たちに注意されている姿も目に映る。

 水遊び、楽しいもんね! 落ちないように気をつけてね。


 そこへ、ウィンディが両手に透明なカップを持ってカフェから出てきた。そのひとつを、わたしにそっと差し出してくれる。


 カップの中では、陽の光を受けて七色にきらめく透明感のあるゼリーが揺れていた。その上には、鮮やかな赤いチェリーがちょこんと乗っている。


「なにこれ! ぷるぷるしてて可愛いし、綺麗!」


「ルーミナの名物ジュレだよ。よかったら食べてみて」


 スプーンでひとすくい。匙の上でぷるぷると弾むゼリーが、見るだけでも楽しい。そっと口に運ぶと──


 柑橘系の爽やかな香りがふわっと広がった! 弾力ある食感なのに、噛むと甘みを残してふわりと溶けてゆく……!


「うわ! 美味しい!」


「でしょ? ルーミナに来たなら、一度は食べておかないとね」


 ウィンディが優しく微笑む。


 わたし達はジュレを食べながら、アクセルとグロウに目を向ける。


 彼らは食料調達の真っ最中で、アクセルがあれもこれもと籠に詰めていくのを、グロウが文句を言いながらひとつひとつ棚に戻していた。なんだかコントみたいだ。


 ──突然依頼に乗っかってきたから、怪しい人たちかもって疑ってたけど、とっても優しい良い人たちだ! 疑ってごめんなさい!


「ティエナちゃん、突然依頼横取りされたって思ってないかな? ごめんね」


 わたしの考えを見透かすようにウィンディが独り言のように呟く。その視線は二人に向いたままだ。


「傍から見てればあんまり感じないけど、アクセルは実績作りに必死でさ。でもそれとは別にアイツの『困ってる人を助けたい』っていう気持ちは本当だから、そこは疑わないであげて欲しいんだ」


 わたしは口のスプーンをカップに置いて、一歩進むとウィンディの視界に割り込んだ。


「わたしも依頼受けたかったから、助かってるよ」


「逆に気を遣わせちゃったかな」


 ウィンディが軽く微笑む。


「さて、このままバカどもに買い物任せてたら、いつまで経っても終わらないから口出ししに行こうか」



 物資補給を終え、次に向かったのは──


 ドドドドドド……


 天から降り注ぐ、圧倒的な水の奔流。広場の隅まで響く轟音。


 巨大な噴水の周囲には深い水路があり、ぐるりと柵で囲われているため、容易には近寄れない。

 それでも柵の近くに立つと、宙を舞う水飛沫で肌がしっとり濡れてしまう。


 これ……噴水というか、もう滝だよね?


「はえ~~……!」


 遥か上空の噴水の先端を見上げて、空いた口が塞がらない。

 水辺なので当然寒いはずなのに、その迫力だけで冬の寒さすら吹き飛びそうな勢いだ。

 広場には他にもたくさんの観光客がいるが、みんなわたしと同じようにぽかんと見上げている。


「どうだ? これがこの都市の名物よ」


 グロウが何か言っているけど、轟音にかき消されてぜんぜん聞こえない。

 彼はすぐにわたしたちを手招きして、広場の外へと歩き出した。


 ──その瞬間。


 広場を出た途端、それまで耳を圧迫していた水の轟音が、まるでスイッチを切ったようにすっと消えた。

 代わりに、行き交う人々のざわめきや、商人たちの掛け声が現実感をもって戻ってくる。


「え? どうしてこんなに静かになるの?」


 思わず足を止めて、わたしは後ろを振り返った。

 そこには、変わらず水の奔流を続ける巨大な噴水がそびえている。


 すっとウィンディが隣に並び、わたしと同じように顔を上げた。


「この広場には結界が貼ってあってね。水音の抑制と、噴水の霧が街に広がらないようにする効果があるの」


 はえ〜……。すごく大掛かりな広場なんだなぁ。

 ルーミナの壮大さに心を打たれる。


 ……ノクにも早く見せてあげたいな。


 わたしはぎゅっと強く拳を握りしめた。


「ティエナも満足してくれたようだね。では迅速に依頼解決といこうか!」


 アクセルが爽やかに微笑むと、白い歯がキラリと輝いた。

 ──やっぱり物理的に光ってるよねぇ……?


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