第20話 水の都市の新たなパーティ(仮)
「この依頼を、本当にお受けになられるのですか……?」
驚いたような、呆れたような。
受付のお姉さんはそんな複雑な表情だ。
「うん、それでお願いします。要件Bランク以上ですよね? わたしAランクですし満たしてますよね?」
受付のお姉さんは頬に手をあてると、眉を寄せ首を傾げる。
明らかに困った様子だ。
少し周りを見渡したのち、わたしに顔を寄せると、少し声をひそめて話を続ける。
「こちら多数の魔物との戦闘が想定されるものですわ。ティエナさん、他にパーティメンバーはおられますでしょうか?」
一人旅を改めて突きつけられると、胸がちょっと痛い。
ノクが居ないことはもちろんだけど、ダンジョンでは皆と一緒にわいわい探索してたから。やっぱりひとりは寂しいよね。
――それでもわたしには、やるべきことがある。
「わたし、強いんで大丈夫ですよ! それに……依頼書には人数条件書いてないですし……!」
胸を張って拳をドンと胸にやる。
わたしの声につられ、隣で依頼報告をしていた冒険者グループがこちらを見てニッコリしてくる。
なんか都会モノの余裕を感じる反応だなぁ!
「困りましたわねぇ、お嬢さんに何かあってからでは遅いですから……」
わたしのAランクという信用度より、見た目の子供っぽさが優ってるという衝撃!
壮年のベテラン冒険者風とかだったらいけてたりするんでしょ?
年齢足りないのは仕方ないけど、どうしたらいい? 身長?
もっと牛乳飲んだら今からでも身長伸びるかな。いやーそれじゃあ今依頼を受けるのに間に合わないんだよね!
いやいや諦めるなわたし! 今からでもつま先立てて身長誤魔化せば……!
「じゃあ俺たちが一緒にいきましょうか? ちょうど今一つ依頼終ったところだし」
ぐぐぐっと、わたしが背伸びをしているところに、さっきの冒険者グループの青年が割り込んできた。
金属鎧に身を包む金短髪の真面目そうな好青年が、依頼完了書類にサインをしながらそう告げた。爽やかな笑顔が余裕を感じさせる。
他のメンバーをちらっと見ると、長い栗色の髪を後頭部で一くくりにした目つきの鋭い女性。手には詠唱補助魔導具の短杖。丈が膝まである緑の外套に、銀装飾が施された黒い革のジャケット、灰色のタイツにロングブーツ。……カッコイイ。
それと、少し乱れた黒髪の整った顔立ちの男性。茶目っ気のある笑顔が特徴的だ。胸部分が金属で補強された皮鎧。腰には長剣、背中に矢筒。腰回りには沢山ポーチがついている。バランスよく戦えるオールラウンダータイプのようだ。
三人とも強そうには見える。だけど、
気持ちは嬉しいけど――正直、ひとりの方が楽なんだよね。
見てる人が居なければ、いざとなったら権能も使えるし……。
イグネアがひとりで冒険してたって言う理由もちょっとわかっちゃうなぁ。
「あ、あの! わたし一人で本当に大丈夫なんで!」
「遠慮しなくても大丈夫だよ、お嬢さん」
にこやかに言うその声音には、年長者が子供をなだめるような響きがあった。
……やっぱり、子供扱いされてるなぁ。
それに、この人たちの実力もわからないし。どうしたものかな。
「あの、ちなみにですけど、お兄さんたちのランクは?」
「ランクはもちろんBだよ」
何が「もちろん」なのかわからないけど、とりあえず条件は達成しているようだ。
「エルデンバルのダンジョン攻略とかされたことあります?」
「エルデンバル? ノアランデ王国のダンジョンだね? 遠いし、穴倉を進むのは性に合わないから行ったことないな」
短い前髪をかきあげて微笑む。
ダンジョン何階層まで行ったかわかれば実力も推し量りやすかったんだけどなぁ……。
魔物の確認を急ぎたいし、仕方ない。協力してもらってさっさと依頼達成しちゃおうか。
「じゃあ、協力していただくということで、お願いします」
「よし、まかせたまえ。 さっそく依頼書にサインと行こうじゃないか」
ペンを持ち、顔をこちらに向け片目を閉じる。
本の中でしかみたことのないタイプの人だ! 現実に居るんだこれ!?
*
「うちのバカが勝手に話進めちゃってワリィな嬢ちゃん。俺の名はグロウってんだ。よろしくな」
軽装のオールラウンダーっぽい黒髪の男性がグロウさん。カウンターでサイン中の金髪の男性の頭を豪快に鷲掴みにして撫でながら、軽く親指を立てた。
魔術師の女性も一歩わたしに近寄ると、少し屈んでわたしの手を取る。
「私はウィンディよ。土魔法が得意なの。水特性には劣るけど回復魔法も使えるわ。よろしくね」
少しトーンが低めで声までカッコイイ。
髪からふわりと、ベルガモットの香りが漂う。アールグレイのような、少し甘くて凛とした香りだ。
スタイルも良いし大人の女の人って感じがするなぁ。
ちょっと憧れるかも……。よし毎日牛乳飲もう。
「ありがとうございます。 わたしティエナです。狩人ですけど、水魔法も使います」
「ティエナちゃんね。しばらくパーティ組むんだから敬語はいらないわ。でも、狩人。いいわね。後衛が増えるなら、グロウに前衛任せられるわね」
「おいおい、前衛はこのバカだけでいいだろ」
グロウが金髪男性の頭をバシバシ叩く。サインが終わったのか、叩いてくる手を払いのけて、すっと背筋を伸ばすと、胸に手を置いて微笑む。
「そして、俺がリーダーのアクセルだよ。どんな依頼も颯爽と解決してみせるさ」
キラリと白い歯が光った。
え? 今、光ったよね?
なになに? 歯が魔導具だったりする? なんで光るの?
「なんでお前がリーダもごもご」
ウィンディがグロウの口を押さえて黙らせる。
「面倒だから言わせときなさい」
グロウは首を縦に数度ふって口を開放してもらう。
「では、さっそく行こうじゃないか。魔物の猿が巣食う森へ!」
アクセルが綺麗に踵を返し、外套がひらりと揺れる。
そして振り返ることなくギルドの出口に向かう。
「おい、アクセル! 前の依頼から帰ってきたばかりだろ! 休憩は? おい!」
慌ててグロウも追いかける。
「ティエナちゃん、ゴメンね? このパーティこんなだからさ」
「ううん、話が早くて助かるよ」
ちょっと街の観光とかもして見たかった気持ちもあるけど、
魔物の確認を早くしておきたいのは間違いないからね。
うん、ぱぱっと依頼を片付けちゃおう!
わたしも彼らを追って、ギルドの扉から見える冬の青空に向かって歩を進めた。




