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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第14話 それは魔か否か、生命の境界線

「待て娘! 貴様、リヴァードの関係者か!?」


 帝国騎士が突然じいちゃんの名前を持ち出し、わたしの頭はパニックだ!


「じいちゃんを知ってるんですか!?」


 弓は下ろさずに問いかける。

 銀の長髪をなびかせた騎士の青年は少し躊躇(ちゅうちょ)する姿を見せたが、意を決して言葉を放つ。


「……信じて貰えないかもしれないが、俺はリヴァードの元パーティメンバーだ。そして、その弓──それはリヴァードの物だな? 見間違うわけが無い」


 ……弓は確かに合っている。

 でも、じいちゃん冒険してたの絶対に三十年ぐらい前だよ?

 この人どう見ても、二十代そこそこでしょ!?

 生まれる前にパーティ組んでたの!?


「名前は!? あなたの名前を教えてください!」


 帝国騎士は姿勢を正し、胸元に手をあてて返答する。


「我が名は、シルヴィオ・グレイスノウ ──氷剣の使い手だ」


 シルヴィオ……シルヴィオ……聞いたことあるな。

 どこだっけ……。


 腰にしがみついてるノクが小声で話しかける。


「冒険譚『蒼き剣と七つの遺跡』に出てきた騎士だよ! でも本物だったら五十歳は越えてるはずだけど……」


「そうだよね? どうやって歳誤魔化してるのか聞かなきゃ……」


「いや、普通は別人疑うでしょ……」


 正直、いろいろ思い出しちゃったから、わたしは帝国軍には不信感しかないけど……、

 敵意のない人を射るわけにはいかないからね。


「とりあえず──話聞いてみようか」


 わたしが弓を背負い直すと、シルヴィオと名乗った騎士も手を下ろした。

 本に書かれていた通り、美しい銀髪に、端正な顔立ちの男性。


 これで五十歳越えは嘘だぁー? せめて息子とかじゃなかったら納得行かないよ?


 あと……これは本から受けたイメージと違って、無機質な表情だ。顔色から感情が読み取れない。何を考えてるのかわからない。


 本だったら、爽やかな笑顔、とか、豪快に笑った、とか書いてあったのに脚色されてたのかー?

 それともやっぱり別人なのかな?


 じろじろと顔を見ているわたしを不審に思ったのか、シルヴィオさんが居心地悪そうに身体を揺らす。


「リヴァードの仲間だというのに、若造に見えるのが気になるか」


「ええ、まぁ、……はい」


 図星ついてくるの、ずるいよ〜! こっちは表情から頑張って読み取ろうとしてるのにポーカーフェイスなの、ずるいよ〜!


「魔法的な力で老化が止まってると理解しておけば良い」


 さらっと、けっこう重要そうなことを言ってきた。


「不老ってこと? やっぱりずるじゃん!」


「よく言われる」


 少しだけ口角があがる。

 ……今の笑った? ちゃんと感情あった?

 と、思ったけど、またすぐに無表情になる。

 つまんないなぁ。


「リヴァードの弓を持っていると言うことは、血縁者か弟子か……もしくは、いや、ないか。ふむ」


「何を言い淀んだんですか? 気になるっ!」


「リヴァードから弓を奪った『族』の可能性を考えたが、やつがそんなヘマをするとは思えんので取りやめただけだ」


 じいちゃん、信頼されてるなー。

 まぁわたしもじいちゃんが盗賊にしてやられてる姿想像できないけど。


「わたし、じいちゃんに拾われて育ててもらったの。血縁者ではないけど家族だよ」



 立ち話を続けるにも、如何せん外は寒いので、わたしたちは程よく形を保ってる家の中に移動した。


「暖炉、使えるかな……? 十五年も放置されてたはずだけど……」


 そう言いながら煙突の通りをランタンで確認し、詰まりや煤の溜まりを手早く確認する。


「……大丈夫そう。火、つけてみよう」


 小さく咳払いしながら煙突口に息を吹きかけ、空気の流れを確かめる。

 煤はそこまで残っていないようだし、鳥の巣や崩れた煉瓦もなさそうだった。

 薪は野営用に収納袋で持ち運んでいる。薪に火をつけると、ゆっくりと炎が立ち上り、乾いた空気が部屋を包んだ。

 これでとりあえず暖はとれそうだ。


「そうか、家族か。人嫌いのアイツが」


 腕を組み椅子に腰をかけたシルヴィオさんが、視線を床に落とす。


「無愛想でめちゃくちゃ厳しいけど、優しかったですよ」


「無愛想に関しては、俺には何も言えん」


 自覚はあるんだ?


「俺もリヴァードも無口だからな。だが、不思議と気疲れしない相棒だった。……まぁ、うるさいのはシルマークぐらいだったが」


 あぁ、なんとなく想像できる。きっとシルマークさんはお構いなしに、ひとりで喋り倒してたんだろうな。


「昔話はこれぐらいでいいだろう。ティエナといったか、あと、そこの背に隠れている魔竜。この村で何をしていた。説明してもらおう」


 ノクが背中からそーっと顔を出す。


「ノクは魔竜なんかじゃないです! えっと、なんだろ、マスコット?

 それに、この村にはわたしの両親探しに来ただけだし。

 逆に、村を滅ぼした帝国軍の騎士さまの方が今更何しに来たんですか!」


 シルヴィオさんは口を(つぐ)む。

 特に焦りの色も見えない。……ホント、もっと表情とか感情とか出してくれてもいいのに!

 しばらく思案をしていたのだろう、ぽつりぽつりと話はじめる。


「この村には、竜信仰を隠蔽している疑いがあった」


『竜信仰!?』


 わたしとノクの声がハモった。

 どうしてここで、竜信仰の話が出てくるの!?

 まさか、関わってくるなんて──まったく思っていなかった。


「滅ぼされたのはそれが原因だ」


 ……口下手だからか、意図的に隠しているのか。事実だけ並べて、その背景は語ってくれないってことかな。


「正直俺は竜信仰など伝記に残るだけの昔話で、当時はそんな嫌疑でひとつの村を滅ぼす理由にはならんと思ってはいたが──」


 じっとノクを見据える。


「ここで魔竜を確認した以上、滅んでやむなしだったのかもしれん」


「ノクは魔竜なんかじゃないし、この村に関係者ないってば!」


 思わず声を荒らげてしまう。

 今まで黙って聞いていたノクが少し口をひらいた。


「ぼくが魔竜ってどういうこと?」


「そのままの意味だ。魔物の竜。

 魔物化しないようにとリヴァードが石像を持ち帰る所までは俺も同行していたが──甲斐なく魔物化してしまったのだな」


「そんなんじゃない! 魔物なんかじゃない!」


 わたしはノクをぎゅっと抱きしめ、その小さな身体を背中に隠すように庇った。


「なぜ魔物でないと思う? お前は動き出す石像──ガーゴイルを見ても同じことを言うのか?」


「違う! ノクにはちゃんと心があるし、誰も襲わないし、困った人が居たら助けようとしてくれる! 全然違う! ノクはわたしの家族だ!」


 目の奥が熱くなる。馬鹿にされているような気がして、悔しくて、でもそれ以上に、ノクを守りたかった。


 シルヴィオさんが変わらぬ表情でわたしを見ている。いや、まるでわたしの背の後ろに隠れたノクを見透かしているようだった。


「……心があれば魔物じゃない、か」


 思い巡らせるように目を閉じ──そして、何かを思い出したように、静かに頷く。


「……そうだな」


 何かに納得したように、独り頷く。

 突然理解してくれた? なぜ?


「俺はそれを魔物では無い存在だと理解しよう。だが、『正常な生』の外側に居る者だ。人目には気をつけろ」


「え……あ、はい」


 本当に理解してくれたようだ。

 わたしは身体の緊張が抜け、思わずそこにあったベッドに腰をおろす。が、板が腐って脆くなっていたようだ。


 バキバキバキバキ!


「あひゃあ!?」


 お尻からベッドに食べられてしまった……。

 一瞬呆れたような表情を見せ、シルヴィオさんが手を差し出す。

 わたしはその手を掴み起こしてもらった。


「勇ましいかと思えば、鈍臭い。冷静かと思えば、時に激情にかられる。……リヴァードにそっくりだな」


「えっ……、わたしあんなに頑固じゃないよ」


 シルヴィオさんが、ふっと口角を緩めた──ような気がした。

 でも、次の瞬間にはもう、いつもの鉄仮面に戻っていた。……見間違いだったのかな?

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