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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第11話 アクレディア帝国へ!

 というわけで、ボロ小屋の我が家に帰ってきた!

 無理な行軍ではあるけど、もうひと頑張り。


 この森に流れている川の上流をひたすら目指す。

 その先に、わたしが産まれた村があるはずだから。


 テーブルに再び地図を広げて再チェック。

 ノクが手先で指し示していく。


「遠回りになるけど、今からスタトまで出て、そこから街道沿いに西へ。そうして帝国領に入って手近な街へ。そこから北へ向かい山間の村を目指すよ」


 今回の目指す村は、ノクの洞窟より標高は低いし、村があるなら細くても街道があるはず。本格的な冬になったとしても、なんとか往来は可能だろう。という算段。


「冬になったら街道が雪で閉ざされる──なんてケースも想定できるけど、その時はどうするの?」


 わたしを見上げながら首を傾げる。


「雪なら実質水みたいなものだし、溶かすなりどけるなりすればいいんでしょ? わたしの権能でなんとかなるでしょ」


「楽観的だねぇ」


 前向きと言ってもらいたいな!



 旅支度自体にさほど変更点はないので、スタトで食料だけ買い足した。


「当たり前のように菓子類も買ってたけどね」


「いいでしょ、別に! 困った時に贈答品でも役に立つって分かったんだから!」


 そんなわけで、スタトから西に向けての出発。

 帝国領──すなわち「アクレディア帝国」に足を踏み入れることになる。


「で、アクレディア帝国ってどんなとこなの?」


「なんでぼくに聞くのさ」


 横で飛んでるノクが呆れ顔に。

 だってノクに聞けばだいたいわかるかなーと思って。

 ため息つきつつも説明してくれるノクが大好きだな!


「西方に広がる大国、アクレディア帝国。

 豊かな河川と湖に恵まれた土地で、清き水を信仰の中心とし栄えた王制国家だよ」


 そこで一区切りし、咳払いをするノク。


「もう一度言うよ? 『水を信仰の中心(・・・・・・・)として栄えてる国家』だよ?」


「……はい」


「国が掲げて信仰する神様は誰かな?」


「……ティエル=ナイア」


「つまり?」


「わたしのこと、です、かね?」


「そう! なんでティエナが把握してないのさ!?」


 しゅん……。だって、「帝国」なんてお堅い響きのところに興味わかないんだもん。


「アクレディア帝国では『神政院』という信仰を束ねる組織もあって、国政にも深く関わってるらしいから、気をつけてよ?」


「はい、ノク先生! ……で、何に気をつけたらいいの?」


「神・バ・レ!」


 ノクが歯をギリギリしながらこっちを向く。

 あー、これはすごく怒ってますねぇ。


「わたしが神ってバレなきゃいいんでしょ? 楽勝だってー!」


 取り出したドーナツ片手に食べ歩く。

 そこにまたノクの鋭い視線がとぶ。


「そのドーナツどこから出したの?」


「いつもの小瓶」


権・能(神の力)・禁・止! じいさまの収納袋あるでしょ! そっち使いなさい!」


 また怒られちゃった。


「なんでエルデンバルでの決意が緩んでるんだよ!

 ティエナは考えが甘い! ドーナツよりもケーキよりも生クリームよりも甘い!」


「そんなに甘い?」

 ちょっとヨダレ出ちゃう。


「そんなホイホイ権能使ってたら、絶対バレるからね!? バレたらどうなるかわかる?」


 想像してみよう。ほわんほわんほわーん。


『ティエル=ナイア様が現人神として降臨なされたぞー!』

 どうも! 水の神です! 皆の者、供物を捧げますのよー!

『どうぞ! ケーキです!』『完熟フルーツドリンクです!』『白馬の王子をお連れしました!』


 ……。


 ……なんてことには、ならないよねぇ……。


「……いいかい? 良くても人間たちの傀儡になって政以外は幽閉、最悪そのまま研究室送りだよ?」


「……スイーツは、定期配送とかありますかね……?」


「ないない。……いい? 水の神が地上に実在するなんて、帝国の神政院からしたら国家機密級の存在になるからね? だから意地でもバレないようにしてよね」



 非常に不本意ではあるけれど!

 ノクがどうしてもわたしを信用出来ないということで!


 人前で《水葬の泡》という便利能力を使わないように、普段からポーチにストックしてる小瓶から必要な分だけ収納袋に詰め替え。

 すぐに要らない物は、小瓶のまま収納袋に封印して帝国領を出るまで触らない。

 ということになった。


 もちろん他の権能も使用NGなので、こと戦闘においては詠唱しての水魔法と、じいちゃん譲りの弓だけが頼りだ。

 そこまで徹底しないとダメー?


「ダメ」


 ノク先生厳しいー!

 まぁでも仕方ないか。神バレしてスイーツ食べれなくなったら困るもんね。

 収納袋だって、全身鎧四セット分ぐらい入るらしいし、ちゃんと計画して容量割り当てたら、きっといける!


「ノク先生、バナナは収納袋に入りますか?」


「栄養価も高いし、良いでしょう。でもケーキやドーナツの類は小瓶のまま封印ね」


 とほほー。帝国にもケーキ屋さんあるよね? 現地で買い食いしよ。



 流石に冷え込む季節。

 ときおり雪もちらつき、夜になると芯まで冷えるような空気が身を包む。

 コートを着ていても寒さが身に染みる。

 白い吐息が空気中に掻き消えていく様を見ると、冬なんだなぁと実感が出てくる。


 わたしたちは荷物の取捨選択も行いながら、ゆっくりと国境の関所を目指す。

 封印が決まった菓子類はほとんどこの間に食べ尽くした。


「流石に食べ過ぎだって。ほんと太るよ?」


「寒さ対策の熱量に変えてるからいいの!」


 そんなわけで、間もなくアクレディア帝国。


 関所で旅の目的とかも聞かれるらしいけど、わたしには心強いAランク冒険者証がある!


 冒険者ギルドは国家管理ではなく、民間──冒険者たちの機構なので、国を越えて組織が成立している、とのことなので、結構強力な身分証になるのだ。


 なので、帝国でお仕事したーい! とか、依頼のために帝国領に入りたーい!とかでなんとかなるはず。


 国の境界線には、先が削られた木の防護柵が並んでおり、柵の手前にノアランデ王国の関所、そして向こう側にアクレディア帝国の関所がある。


 ノアランデ王国側の兵士さんはおっとりした感じで、寒い寒いと身を震わせ手をこすっている。

 冒険者証を見せるだけで「はいはい、どうぞ」とほぼスルーだった。

 それはそれで大丈夫?


 アクレディア帝国側の兵士は、どうにも頑固そうな、堅苦しい印象を受ける。

 寒さにも微動だにせず、こちらに視線を送る。

 わたしは冒険者証を見せ「仕事で」という理由を付け加えた。

 関所の兵士は冒険者証を手に取ると食い入るように見る。


「お前、水魔法が得意なのか」


「はい! 簡単な魔法なら持ち前の適正で高威力・高効果を発揮できます! なんならお見せしましょうか?」

 

「……いや、結構だ。冒険者証に記載があるから間違いないだろう。行ってよし。そなたに水の御加護があらん事を」


 よし、抜けた!

 わたしはこくりと頷くと、次の街へと続く道を進もうとするが──


「おい! そこの女!」


 後ろから兵士に声をかけられる。


「な、なんでしょうか?」


 なんか問題あった? 何も無いよね?


「そこの肩の竜はなんだ」


「これは竜というか〜、ペット? マスコット? ……つ、使い魔です!」


 ノクの視線が突き刺さる。

 だって、あんなふうに詰め寄られたら、ごまかすしかないでしょ……?


 兵士が近づいてきてノクをマジマジと見る。


「こんな毛むくじゃら、竜とは関係ないか。もう行っていいぞ」


「はい、ありがとうございます」


 深々とお辞儀をして、足早に街道を進んだ。


「誰がペットでマスコットで使い魔だってぇ──!?」


 ノクが頭の後ろから掴みかかってくる。


 ごめんって! 髪の毛ぐちゃぐちゃになるからやめてー!!



 わたしは足早にというか、既にもう走りながら関所から離れた。


「怖かったー! なにあれ!? ノクなんかしたー!?」


 関所の事が脳裏によぎる。


「わかんない。ノアランデ王国だとほぼ皆『珍しい生き物だねー』ぐらいでスルーしてくれてたのに」


「ダンジョンのドラゴンより、さっきの兵士の方が怖かったよぉー!!」


 叫びながら走る。

 ホントになんでノクに引っかかったの!?

 可愛いだけの無害生物だよ!?


「今なんかすごくバカにされた気がする」


 してない! 褒めてた!


 結構な距離を走り、関所もすっかり見えないし、一度足を止めて、息を整える。

 そして周囲に目をやった。

 街道脇は草原が広がり、遠くまで見渡せる。


 草原は一面、色を失っていた。

 風に煽られた枯れ草が、ざわりと音を立てる。


 少し──寂しい色合いだ。

 春になれば希望に満ち溢れた色に染まるんだろうな。

 そんな風に感じながら、また足を動かす。


 足元に一瞬陰が降りた──ような気がした。

 雲がかかったのかと、空を見上げた先に居たのは──


「な!? あれは、ワイバーン!?」


 なんでこんな所に!?


 わたしはすぐに姿勢を低くし、草むらに身を潜める。そして背中の弓を手元に引き寄せた。


 わたしの頭上のはるか遠くで旋回している。


 気付かれては、いない?


 しばらく経ち、ワイバーンが遠くへ行くのを見届けてから、わたしは警戒を解き、弓をしまった。


 枯れ草を撫でる突風だけが、その場を騒がせていた。

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