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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第10話 空振りの価値

 わたしたちはシルマークさんからもらった地図を頼りに、まずは山のふもとにある村を目指した。


 四日ほどかけて到着したその村では、洞窟に心当たりのある人はいなかったが、山道を進むためのルートは教えてもらえた。

 洞窟に隠れてなきゃいけない「竜信仰」だからやっぱり知ってる人少ないのかな。


 その村自体はとてものどかな雰囲気で、宿すらないところだったが、村の人のご厚意で一泊させてもらえたので、宿代代わりにエルデンバルで流行ってた紅茶をプレゼントしたら非常に喜ばれた。好きな物で喜んでもらえるとこっちも嬉しくなるよね!


 そこからは獣道のようなところを進んだり、時には道なき岩肌を上ったり。

 雪が降ることはなかったけど、しっかり寒かったのでコートを持ってきていてよかった。

 ノクも懐にいれており、わたしの首の下でコートから顔だけ出している状態だ。それもあって、コートの中は魔法を使わなくてもポカポカして温かい。

 じいちゃんのだから、コートの裾をいろんな所に引っかけちゃう。ごめんね、じいちゃん!


 途中でキャンプする事二回。適度に陽のあるうちに歩みを止めて、なるべく平坦そうな場所で野営をする。

 わたしたちの野営といえば、もちろんふかふかの布団! そしておいしいご飯!

 乾燥パンとか干し肉などといった保存食ではなく、焼き立てのパンや甘くて美味しいクレープなどを食べるのだ! あぁ、権能万歳! この時ばかりは神さまで良かったって思っちゃうね?


 地図だけでは洞窟探しは苦労するかと思ったけど、シルマークさんから聞いていた話を元に案外すんなりと見つけることができた。

 標高が高くなり低木が増えたことで視界を遮るものが少ない、というのも理由のひとつかも。


 岩に埋もれるようにひっそりと、その入り口は隠れていた。

 わたしの背丈より少し低めの空洞が、目の前でぽっかり口を開いている。


「ここだよね? 合ってる?」


 わたしが持つ地図をコートから頭を出しているノクが見る。


「うん、合ってると思うよ。問題なく無事に到着できたね」


 入り口は小さく、わたしでもほんの少ししゃがまないと頭を打ちそうだった。

 風がないためか、外より暖かく感じる。ノクもコートからふわりと飛び出し、ゆっくりあとをついてくる。


 しばらく背の低い岩壁の通路をすぎると広い空間に出た。その中央あたりには苔むしたかつて祭壇だった思われる残骸。ここにノクの石像が横たわっていたらしい。

 ノクが周囲をうろうろしつつ、観察してみたり、触れてみたりしながら、祭壇を調べている。


「どう、ノク? 何か感じることはある?」


 しばらく祭壇を見つめていたノクは微かに横に首を振る。


「もとより空振りになる覚悟はしてたからね」


 わたしもその場にしゃがみこむと、朽ちた祭壇の破片に手を伸ばしてみる。

 権能《泡涙のさざ波》──これは物質に関わった者の感情を読み取る能力。……だけど、この朽ち果てた破片から何か読み取れるかは自信がない。

 指先にまとった(しずく)でそっと破片に触れる。

 すると、水面が波紋を描くように、わたしの心に静かに感情が流れこんでくる。


──そこからは、寂しさと、哀しさだけが伝わってきた。


 ここで何を願っていたのだろう?

 悲しさに満たされた心は、何も希望を見出していなかったのだろうか。

 感情しか読み取れないので、歯がゆい気持ちになる。


 ノクがこちらを見ている。


 昔の人は石像に悲しみをむけていたかもしれないけど、それを聞いたら今度はノクが悲しくならないかな……。


 わたしがノクに向けるべきなのは楽しさと愛情だ。

 にっこり笑顔で元気よく! それが一番だよね!


「あーあ、古くてよく分かんないや! まぁでも収穫ゼロってわかったのが収穫かな?」


「そうだねぇ。もう少し、生活の跡とか残っていれば何かわかったかもしれないけど、ここでは祈りを捧げてただけっぽいし」


「じゃあ洞窟の外に暮らしの基盤があったってこと?」


「そうかもしれない。でも石造りの祭壇が、こんなに朽ちてるなら、隠れ住んでた人の生活痕なんて風化して消えてると思う。住処の特定は難しいと思うね」


「つまり、その人たちはこの山で隠れ住んで、この洞窟に通ってた?」


「もしくは、普通にどこかの集落で信仰を隠して暮らし、祈りを捧げるときにここまで来ていたか、だね」


「祈りの度に、こんな山道を登ってきてたってこと? ……うわ、すごいなぁ」


「だからこそ『隠された祭祀場』なんじゃない?」


 ノクが足元の岩を引っかいてみているが、特に掘れたりすることもないようだ。


「よっぽど見つかりたくないんだねぇ」


「今は『竜信仰』そのものがほぼ失われてるし詳細はわからないけど、その信仰の『問題点』って何だったんだろう」


 ノクが少し寂しそうに天井を見つめる。


「こんなに可愛いのにね? 信者どもー我をもふもふせよー! がおー」


 ノクの頭や身体を柔らかく撫でる。


「ちょっ、やめ……!」


 くすぐったそうに身を捩って逃げちゃった。ざんねん!


「竜ってもっとこう……ダンジョン最奥で出会ったような奴なんじゃないの?」


「あれ、すんごい厳つかったよね」


「でしょ? 本来はきっと恐怖対象なんだよ。だから異端視されてたのかなー」


 そうなのかもしれない。でも、これ以上考えるには材料が足りないよね。


 わたしたちは、祭壇の奥の洞窟も一通り見て回ったけど、膨大なマナが発生している様子もなかったし、魔物も一切でなかった。

 本当に、ただの小さな竜信仰の祭壇の欠片が存在したのが確認できただけ。

 ここに来たことでノクの生誕に関するような話は無かったけど、それでもいろいろ考えるきっかけにはなったし、……ま、来れてよかったよね!


「まあ、空振りは想定内だし、何も無いことが逆に信者の生活がどのようなものだったか想像させてくれるよね。来て良かったと思うよ」


 ノクも納得の様子。


 さて、また山を下りていかなきゃね? いったん家に帰ったら――次は帝国領を目指すルート、考えよっか!

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