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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第一章 ◇◇
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第41話 還るもの、還らないもの

 砂嵐が止み、焼けたような空気が静まりかえる。 荒れ果てた砂地には、戦いの爪痕がいくつも刻まれていた。


 サンドワームが消え去った場所には、ひときわ大きな土属性の魔晶が残され、その周囲には、飲み込まれていた装備の残骸が無惨に散らばっている。 そして、崩落とともに姿を消していた“ゲートの構造体”が――


 まるで時間を巻き戻したかのように、地面から滑るように姿を現していた。


 その異様な光景に、誰からともなく呟きが漏れる。


「……元に戻ってる……?」


 常識ではありえない回復現象。再生する地面。そして再び姿を現すゲート。 それは、このダンジョンの“常識外れ”を如実に物語っていた。



 遠く、土煉瓦を積み上げて作られた、風化の進んだ円筒形の建造物が佇んでいる。 その中心部では、淡く脈打つように“ゲート”が揺らいでいた。


「きっとサンドワームの腹から出てきたんだろうよ」


 肩に背負った大剣を下ろしつつ、レオが肩越しに振り返って言う。


「本当に機能しているのかしら……?」


 イグネアが、髪を押さえながら慎重に一歩前に出る。その目は、ただの転移装置ではない“異質な何か”を測るように、構造体の中心を見据えていた。


「そっちの確認任せていいか? オレはサンドワームの戦利品確認させてもらうわ」


 フィンがそう言って足早に装備品の山へと向かう。


「冒険者の装備品も、けっこうあるわね……」


 オーキィが鉄片まじりの鎧をそっと拾い上げ、しんみりとした面持ちで呟く。


「……これだけ“食べられた”ってこと……?」


 ノクがティエナの肩で、ぽつりと呟く。


 そうだ。この一つ一つには、持ち主がいたはずなのだ。


 砂に埋もれかけたそれらは、名前も知らぬ誰かの人生の断片。


 ティエナは無言のまま、一つの朽ちた鎧にそっと手を伸ばす。冷えた鉄の感触。

 そこに宿る何かを感じ取るように、目を伏せながら静かに権能を行使する。


 ――《泡涙のさざ波》。


 水を媒介として“感情の残滓”を読み取る力。

 だが、その瞬間。


(……ひっ……)


 胸に流れ込んできたのは、死への強い恐怖。叫びにもならない絶望。

 ティエナは思わず手を引き、息を詰めるようにして目を閉じた。


「こんな稼業だ、こいつらも覚悟の上だろうよ」


 フィンの声が、砂を踏む足音とともに響く。

 その手には、大きく結晶化した魔晶石が握られていた。


「ほらよ、土の魔晶だ。案外綺麗に残っててラッキーだったな。結構な額になりそうだから、収納しておいてくれ」


「……うん」


 ティエナはこくりと頷き、小瓶を取り出して《水葬の泡》の権能で泡状に変えた魔晶を収めていく。


「この鎧とか剣とかも、持って帰っていい? きっと探してる人がいると思うんだ」


 ティエナは地面にしゃがみ込み、砂を払うようにして破損した武具をひとつひとつ手で拾い集める。


「……これ全部か? 再利用できないモンなんか普通は捨て置くんだが……まあ、収納できるならいいんじゃないか」


「ありがと」


 ティエナはそっと微笑み、小さな泡に変えた装備品を一つひとつ、丁寧に瓶の中へと納めていく。


「……待ってる人が居たら……届けられたらいいね」


 肩に乗るノクが、小さな手でティエナの頭を優しく撫でた。



 その後ろで、オーキィがフィンにちょいちょいっと手招きする。


「サンドワーム、宝箱まで飲み込んでたのかな?」


 転がっていた鉄製の箱を指差し、オーキィが首を傾げる。


「悪食すぎるだろ……でもまあ、こういうお宝も無いとやってられんよな」


 フィンが腰を落とし、罠と鍵の確認を始める。やがて、かちゃりと静かな音とともに蓋が開いた。


「んんん〜〜〜、これは見たことあるな。魔道具ではあるが……」


 手に取ったのは、小さな水晶のような装飾品だった。


「ライフクリスタルじゃない」


 後ろからオーキィが覗き込み、すぐに判別する。


「なにそれ?」


 ティエナが首を傾げる。


「対象が生きてるか亡くなってるかチェックできる魔道具だよ。これに対象者をしっかりイメージして念じると、生きてたら“青”、もう亡くなってれば“赤”になるの」


「どういった時に使うの?」


 ノクの問いに、オーキィは両手をがばっと広げて、冗談めかして威嚇のポーズを取る。


「死んだはずの友人が目の前に! そんな時にこのライフクリスタルでチェックすると、赤色だった! じゃあ目の前の友人は幻覚かゾンビなのだー! がおー!」


「ええー? 役に立つのそれー?」


 ティエナの疑問に、オーキィは肩をすくめて笑う。


「行方不明の身内の生死判別とかだとまあ使えるかなー? ぐらい」


「それなりに知ってる中じゃないと使えないのが微妙なところだ。すぐ壊れるしな」


 フィンも苦笑しつつ補足する。


「これは私が預かってても良い? フィンくんいなくなったら使うから」


 そう言うが早いか、オーキィは手の中のライフクリスタルをくるりと回して、自分のポーチにすとんと収めた。


「……お前なぁ……まぁいいや」


 まだ何か言いたそうだったが、フィンは口を閉じた。



 やがてイグネアが戻ってくる。


 足取りは軽やかだが、目には慎重さが宿っていた。


「この辺り、随分スッキリしましたわね」


「ティエナが全部持って帰るんだとよ」


 フィンが肩をすくめて言うと、イグネアは目を細めて、柔らかく微笑む。


「そうですのね。街に帰ったら、わたくしもご一緒しますわ。その時はカフェにも寄りましょう」


 言葉の端に、どこか労いの色がにじむ。


「イグネアさま、私、ギャラリーが併設された落ち着いた雰囲気の良いカフェ知ってるんですよ〜」


 オーキィが人差し指を立てながらにこやかに応じると、イグネアは少しだけ肩を傾けて微笑んだ。


「あら。ふふ、じゃあオーキィにご案内いただこうかしらね」


「やったー! 街に戻るのが楽しみだなー」と、ティエナは目を輝かせて笑った。


 場が和みかけた、そのとき―― 「おーい、お前らだべってないでさっさと次いくぞ!!」


 遠く、ゲートの前からレオの怒鳴り声が響いた。音の反響が、空間の異質さを際立たせる。


 イグネアはくすっと笑いながら、小さく息をつく。


「そうでしたわ。“ゲート”の揺らぎ、確認してまいりました。次は……“凍結回廊”で間違いないですわ」


 彼女の瞳が、一瞬だけ鋭さを宿す。やがて来る未知の空間に向けて、意志を込めるように。

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