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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第一章 ◇◇
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第39話 幻の門、砂に消えて

 夜の闇を裂いて、遠方の砂が盛り上がった。

 静寂の底で、突如、爆ぜるように土煙が舞い――巨大な影がその姿を現す。


 砂塵の彼方――その中心に、蠢く巨体。

 滑らかに波打つような薄皮の層が、砂を巻き込んでゆるやかに蠢いていた。


 フィンが、低く声を放った。

「……来たか。いつでも動けるようにだけしとけ」


 その一言で、一気に空気が張り詰める。

 全員が物音ひとつ立てず、闇に視線を凝らした。


 だがサンドワームは、しばらくその場に身をうねらせたあと、パーティの存在には一切気づくことなく、ゆっくりと反対方向へと姿を消していった。


 土煙がやがて静まっていく。


 ティエナが弓を下ろし、静かに腰を上げる。


「……もう大丈夫。去っていったみたい」


「はぁ~~~~……よかったぁぁ……」


 オーキィがその場にへたり込むように安堵の息をついた。


「このまま消耗戦になるのは避けたいですわね」

 イグネアが落ち着いた調子で言う。


「はやく次の“ゲート”見つけちゃお……」


 ノクがぼそっと漏らし、誰もがそれにうなずいた。



「……よし。軽く飯にして、探索再開するか」

 フィンが声をかける。


 小休止の支度が始まる。


「よしっ……とっておきのケーキ、食べちゃお……」


 ティエナが小瓶の中の水を《水葬の泡》の権能で取り出すと、その中から綺麗に整ったスイーツがふわりと現れた。


「ティエナちゃん、私にも頂戴っ」

「すぐ出すよ、待ってねー」


 和やかな空気が、少しだけ広がっていく。


 レオは自分のバッグからパンを取り出して、ひとかじり。

 ――ガリッ。


「……なんか今すごい音したよ。石でも食べてるの……?」

 じっと見つめるティエナに気づき、レオはばつが悪そうに顔をしかめた。


「これでも買った時はふわふわのもちもちだったんだよ!」


「だからわたくしの収納袋で預かると申し上げましたのに」


 イグネアが自身の収納袋からレーズンの入ったデニッシュを取り出しながら、あきれたようにレオに告げた。

「自分のもんぐらい、自分で管理するからいいんだよっ」そう言い放ちながら再びかじりつく。


「ふふっ……歯が鍛えられそうだね!」


 そう笑ったティエナだったが、どこか引っかかるものがあった。


(……やわらかいパンでも硬くなっちゃうんだな。でも…何か気になるなぁ)


 その違和感は、胸の奥にひとすじの波紋のように残り、やがて、別の感覚とつながっていく予感を残した。


 そんなティエナの思考を遮るように、ノクが声をかけてきた。


「ティエナ~、ぼくはクッキーが欲しいな」「はいはい。ちょっと待ってね~」


 短い休息ののち、一行は仮眠を取り、再び出発の刻を迎える。


 夜が明け、再び一行は歩き始めた。



 それからさらに一日が経過した。

 荒野の過酷な環境と連日の戦闘は、確実に一行の体力と気力を削っていた。


 突風の影から飛来したワイバーンとの空中戦。

 岩陰に潜んでいた装甲殻の四足獣バサルロアとの激突。

 どちらも強敵だったが、連携と冷静な判断によって、なんとか撃退には成功していた。


 だが、戦いのたびに蓄積する疲労と装備の消耗。

 それが、じわじわと一行の歩みに影を落としていた。

 そして連戦の夜を越え、夜明け前の空には、わずかに赤みが差していた。


 その光を浴びながら、仲間たちは無言で装備を整えていた。


 オーキィは目元を擦りながら、「あー、眠い……」と小さくつぶやく。 レオは肩を回し、荒野に足跡を残しながら「……もうちょい寝れた気がすんだけどな」と不満げに。 イグネアは誰よりも早く立ち上がっていたが、その額にはかすかな汗がにじんでいた。


 ティエナは荷物を背負うと、そっとノクの頭を撫でた。「今日もがんばろっか」 「ぼくはいつでも準備万端だよ」ノクがくるりと宙を一回転する。


 それぞれが、確かめるように隣の顔を見る。 まだ歩ける――そう互いに確認するようにして、一行は再び、荒野へと足を踏み出した。



 風は弱まり、土煙は薄れ、だが疲労は確実に積もっていた。

 砂を踏みしめる足も重くなり、無言の時間が増えていく。


 そして――

 風の合間から、視界がわずかに開けた。


「あれ……」

 ティエナが声を上げ、皆が顔を上げる。


 遠く、朽ち果てた建造物が見えた。

 土煉瓦を円筒状に積み上げたような構造物。

 その中心に、確かにゲートが揺らめいている。


「見つけた……!」

「やった……!」

「これで先に進める!」


 希望の光が射し込んだ――その瞬間だった。


 ――地鳴り。

 それは、まるで地獄の底から響くような低音だった。


 地面が震え、視界が歪む。

 構造物の下から、突如として巨大な口が突き上がった。


「え!?」「……はぁ!?」「そんなのありかっ!?」


 サンドワームが、構造物ごとゲートを飲み込んだ。


 大口の奥に、ゲートが飲み込まれていく最後の瞬間――

 まるで、それが幻だったかのように、建物は呑まれ、消えた。


 砂塵が舞う中、幻の門を呑み込んだ獣が、悠然とそこに佇んでいた。

 まるで、それこそがこの荒野の支配者であるとでも言わんばかりに――

 その巨躯は、風と砂の中で、静かにうごめいていた。



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