第76話 バタバタの再結集
ルーミナの冒険者ギルドの一室で、わたしとイグネアは初めて会った時の想い出を頭に浮かべながら、クスクスと笑いあった。
あの時、いきなりパーティに誘ってくるから即答で断ったんだよね。懐かしいなぁ。
あれから一緒に美味しいものを食べて、色々相談にも乗ってもらって、危険も共に乗り越えてきた。――今では、わたしの方がイグネアと冒険したいって思ってる。
イグネアが一緒に行ってくれるなら、これほど心強い仲間はいない。
……よし、じゃあ、手早く準備を済ませて、エンドレイク教団の本拠地に乗りこんじゃおう!
っとその前に。
「アクセルたちはどうしてるかな?」
クリスタ湖の時よりさらに危険になるだろうから、ついてきてもらうつもりはないんだけど、声だけかけておきたいな。
「アクセルたちなら、『帝国軍に実力を見せ、功績を上げるチャンスだ』と申して、三日前に南方の防衛隊へ帯同しましたわ。『勝手に参加して申し訳ない』とも言っておりましたけど……謝る必要はないと代弁しておきましたわ」
「さすがイグネア。わかってるね!」
だいたい先に飛び出してったのはわたしの方だし。アクセルたちは帝国軍に名を刻みつけるチャンスなんだから頑張ってきて欲しい。
などと考えていると――廊下の向こうからバタバタと慌ただしい足音が迫って――扉の前で静止する。
この音、まさか……?
そして突然激しい物音と共に乱暴に扉が開かれた。
「あっ、よかった、ティエナちゃん居た!」
長い銀髪を腰元で一くくりにした長身の治癒術士オーキィが、顔を輝かせながら入室してきた。
両手で何か重たい物を引き摺ってきたみたいだけど……。手の先に視線を動かすと、そこにいたのは襟首をつかまれたまま地面を引き摺られ、ボロ雑巾のようになったフィンの姿があった。
「え……フィン、生きてる?」
……もしかして、これ、失神してる?
その姿を見てイグネアも思わず口が開いたままだ。
「オーキィ、それ大丈夫なんですの?」
「やめてくださいよ、イグネアさま! フィンくんを『それ』呼ばわりだなんて」
イグネアは額に手をあて、眉をひそめると頭を横に振った。
「フィンのことじゃありません。フィンの処遇の話をしてるのですわ」
「ああ、大丈夫ですよ、すぐに治癒しますからね!」
そう言うとオーキィは満面の笑顔で手早く魔法を唱えた。その手元が淡く輝くと、フィンの顔色がたちまちに戻る。
「ぷはっ!? 今一瞬、奈落の底の闇を覗いていた気がするぜ……」
フィンが短い黒髪を掻きながら、頭を軽く振った。
「……えっと、おかえり、フィン?」
「なんだよ、おかえりはお前だろ。勝手にどっか行きやがって」
床に腰を下ろしたまま、不機嫌そうにわたしを見上げてくる。
「なはは、まあ、それでいいや。とりあえず、今から出かけてくるよっていっておきたかったんだ。来てくれてちょうど良かったよ」
フィンは目を細め、声のトーンを一段落として呟いた。
「……目的地、わかったのかよ」
「イグネアのおかげでね」
フィンは眉間に皺を寄せるとゆっくりとイグネアに振り返えると、不満をぶつけるような視線を送る。
「……なんですの?」
フィンから視線を外すようにイグネアがそっぽを向いた。
フィンが口を開こうとしたその時、オーキィがわたしの後ろからしがみついてくる。と言っても身長差がありすぎるので、肩を押さえつけられてる感じだけど……。
オーキィが涙目になりながら訴えるように叫んだ。
「うわー、酷いですイグネアさまもティエナちゃんも! 私たちを置いて行くつもりだったでしょ! 私たちも一緒に行きますからね!」
オーキィの声のトーンに応じて手の力が増してくる。わたしの肩が万力で締め付けられるかのようだ!
「痛い痛い! 力込めて抱きしめないでぇ!!」
そんなわたしたちを見てフィンが口元を緩ませる。
「あー、オレの言いたいことは、オーキィが言ってくれたわ。まぁ確かに、俺は戦闘では足手まといにしかならんが、道中の安全確保では役に立つと思うぜ?」
フィンがズボンの埃を手ではらいながら立ち上がる。
「どうだい? 安くで雇われてやるぜ?」
それはいつもの皮肉めいた話し方。でも、その中の温もりを確かに感じる。
いまわたしを掴んで離さないオーキィの腕もそうだ。とっても温かい。
竜との戦いは本当に危険だから、出来れば一人で行きたかったんだけど……。
わたしは頬に零れた滴を指先で拭った。
「ありがとう皆。じゃあ、一緒に……よろしくね!」
みんながいっせいに頷く。
ダンジョン制覇したこのメンバーなら、絶対に上手く行くよね!?
あとはノクさえ帰ってくれば……。待っててよね、ノク!




