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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第70話 もう一度“世界と出会い直す”旅へ出る

 天界の神殿で瘴気に捕らえられ、気が付けば、神としての「私」は大精霊(ウンディーネ)と深く結びつき、歪な形の存在となっていた。

 神の力を振るうこともできず、私はただ悪鬼と化した大精霊(ウンディーネ)の行いを見ているしかなかった。


 ……でも、自分ではない力が身体の奥深くに入り込んで、きっと大精霊(あなた)も不快だったのでしょう?


 勇気ある冒険者たちのおかげで、私を捕らえる力が弛んだ。

 今なら私も力を使うことができる。大精霊(ウンディーネ)には申し訳ないけど……一緒に散りましょう。水飛沫となり川となって、大いなる大地を巡り、生命を育み、――そしてまたいつかきっと、何者かとして生まれてきましょう。

 この世界を愛するために。



 シルヴィオさんの目の前で、突如大精霊(ウンディーネ)の身体が水飛沫となって弾け散った。

 大精霊(ウンディーネ)が制御していた巨大な水の塊も、(あるじ)を失い、崩れ落ち、一度だけ辺り一帯に大きな波が広がった。

 それは大地を撫でるようにどこまでも手を伸ばし、やがて染み入るように消えていった。


 シルヴィオさんたちは突然崩れた敵にあっけにとられ、そのうちに敵意を失った水の奔流が、彼らの身体を包み込んだ。


「うおっぷ! しまった。思わず結界貼り忘れたぜ」

 前髪を頭の上に撫で上げながら、水を滴らせるシルマークさんがぼやいた。

 その横に、水の神官ネリオがローブを絞りながら歩み寄った。

「……失敗しましたね」

「ああん、封印術か? バッカじゃねぇの。何か知らんが倒せたんだから、もうそれで良いだろ」

 地面にお尻をつけて、だらしなく口を開いたエリオットが悪態交じりにため息をついた。その仕草からは疲労感がにじみ出ている。

「そうですね。とりあえず討伐完了を良しとしましょうか」

 空を見上げてネリオは目を細めた。その視線の先には、曇天が割れて青空が顔を覗かせていた。


 シルヴィオさんは、その場に立ち尽くしていた。

 全身に降り注ぐ飛沫を、身じろぎせずに受け止めていた。

 そして雨が止むと、シルヴィオさんの手のひらにはひと固まりの水が残った。

 じっと手を見つめたままただ息を吐くように、誰にも聞こえない小さな声でポツリと呟く。

「ティエル=ナイアよ。……それで良かったのか?」

 シルヴィオさんが力なく拳を握りしめると、手のひらに溶け込むように水は消えていった。

 大精霊(ウンディーネ)と共に滴と化した『私』の一部――『神の欠片』が、この時シルヴィオさんの手に渡ったのだろう。

 じいちゃんがシルヴィオさんにそっと近寄り肩に手を置いた。


 何か言ってるようだけど、その声はもうわたしには聞こえない。


 わたしは……水となり、川となり――その姿がどんどん遠くなっていくのを感じていた。


 じいちゃん、じいちゃん……また会えて良かった。

 そしてシルヴィオさんも、ずっとわたしの欠片を持っててくれてありがとう。


 その後の記憶は――アクレディア帝国の小さな山村にある湖の底。

 そこで、終焉を迎えようとしていた小さな命――赤子のティエナ(わたし)に出会う。

 そして、私はわたしとなった——。

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