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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第68話 沈む記憶

「……ここは、どこだろう」


 暗い。暗い。――真っ暗だ。


 ――ぴちょん。ぴちょん。


 あぁ……水の音がする。


 わたしは今、立っているのだろうか。それとも寝転んでいるのだろうか。

 上は、下はどっちだろう。

 ひょっとしたら水の中を漂っているのかもしれない――。


 光が、見えたような気がした。

 その方向へ、進んでみよう――。

 手足が動いているのかはわからないけど、意識をそちらにしっかりと向ける。


 光がどんどん強くなってくる。

 そして——視界いっぱいに光が弾けた。




 わたしは――知らない石造りの回廊に立っていた。

 薄暗く――重たい空気だ。身体に(まと)わりつくような湿気。


 知らない? いや知っているのかもしれない。

 どこかで似たような場所を見た気がする。


 ……あぁ、あそこだ。

 冒険者になったばかりの時に行った、スタトの街の下水道だ。

 瘴気が溜まっていた、暗くてじめっとした場所。

 あの時、天界――神殿の回廊と似たような空気を感じたんだった。


 あぁ……どうしてあの時に気付かなかったんだろう。


 瘴気にあふれたあの下水道と、『私』の神殿が、本来同じような空気であるハズがない。

 なぜこんなにも瘴気が満ちているのか……。


 咽喉が、胸が、苦しい。

 わたしは胸を押さえ、壁に手をつきながら、瘴気が濃い方へ、一歩。また一歩。

 記憶の中の回廊を少しずつ進む。

 奥へ、奥へ――。


 そして大きな扉に行き着く。わたしの数倍は高さのある青の扉。

 美しく鮮やかな(いろど)りだったこの扉も今や瘴気で霞み、汚れ、くすみ、かつての姿を失っていた。

 わたしは、扉に手をかけてゆっくりと開く。


「げほっ、げほっ」

 視界は黒で覆われつつあった。瘴気がさらに強くなっている。

 その中心には――。


 わからなかった。

 それを確認する前に、瘴気がわたしの身体に(まと)わりついて絞めあげてくる。

 手足を縛り、咽喉を絞めつけ、身体を圧迫していく。そして——わたしは瘴気の渦に呑み込まれた。



 次に気が付いた時は、氷原にいた。

 そこに瘴気は無かったけど——わたしの視点は、いつもよりずっと高かった。まるで山の上から見下ろしているような感覚だ。あきらかにおかしい。

 身体の自由は効かなかった。

 苦しい。身体の奥から込み上げる激しい悪意。――わたしじゃない。

 何かがわたしを操ろうとしている。


 壊せ、潰せ、殺せ――。


「違う! わたしはそんなもの望んでいない!」

 声にならない叫び。どこにも、誰にも響かない。


 こんな目に合わせた人間を――赦す必要はない。

 さあ全てを壊そう――。


 わたしは自分の姿を確認した。そこにいたのは大いなる水の塊であり、意志のある水――大精霊『ウンディーネ』。

 わたしは大精霊の中に閉じ込められているようだった。

 この暗い衝動は大精霊の意志?

 悲しみにも怒りにも似た感情と、それとは別に破壊をしろという衝動が、わたしの中に渦巻く。


「ああああああああああああああ!!!!」


 大精霊(ウンディーネ)が空を震わせるほどの雄たけびをあげる。


 水のマナが制御できない! 水が荒れ狂う!


 わたしの意志とは裏腹に、大地には雨のように氷の槍が降り注ぎ、穏やかだった川は荒ぶる濁流となって地上を薙ぎ払った。

 旅人が、動物が、氷に串刺しにされる姿が見える。遠く、視界の隅で、街が流されていくのが目に映る。

 あああああ。人が、生命が、消えていく。

 こんなに簡単に生命が流されてしまう。


 わたしには何も制御できなかった――。


 誰か! 誰かわたしを助けて! 誰かわたしを止めて!



 大精霊(ウンディーネ)はその場から動かなかった。――いや、動けなかった。

 大地に縛り付けられるように、呪いをかけられているかのように。

 大精霊(ウンディーネ)は繰り返し叫んでいた。あたりから人が居なくなっても、世界への水の報復は収まらなかった。

 幾日も過ぎ去って、氷原はすっかり荒廃した大地になってしまった。

 生命亡き場所に繋ぎ止められた大精霊(ウンディーネ)の中に渦巻く黒き感情が、大きな涙となって大地に降り注いだ。


 そしてさらに日は経過し——冒険者の一行が、ついにわたしの前に現れたのだ。

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