表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
116/154

第56話 焦熱の邂逅

 冒険者の一団から飛び出して、まっすぐにクリスタ湖を目指した。

 突如吹き荒れる熱風。身体を《澄流の膜》で保護し、駆けるわたしの目の前にサラマンダーの大群が現れる。


 炎を鱗に(まと)った赤い蜥蜴(トカゲ)たちが、熱波を巻き上げながらぞろぞろとこちらへ向かってくる。

 思ってたよりも多いな……。フィンなら「相手せずに無視して進め」って言うんだろうけど……。 こんな大群が皆の所に押し寄せたらタダじゃすまないんじゃあ……。


 走る足を止めるわけにはいかない……けど。

 悪い考えを払うように頭を横に振る。


 ううん、ここは冒険者の皆を信じて先へ進もう。

 一刻も早く竜を倒して終わらせるんだ。


 ぎゅっと拳を握って前方を見据える。

 炎が爆ぜ、空気が焼き焦げる匂いがする。


「道を開けろぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 《清流の手》で水を呼び出し、進路のサラマンダーへ《水流の刃》を叩きこむ。螺旋を描いた水が赤い鱗を貫き(えぐ)る。

 膨れ上がるように炎を上げて爆ぜる個体と、絶叫を上げて粒子化する個体が入り交ざり、進路には炎と煙と煌きの道筋が生まれる。


「あーもー、権能で保護してるとは言え、この中進みたくないなぁ!」


 愚痴ぐらいは言ってもいいよね!?

 姿勢を低くして爆炎渦巻く道をひと息に駆け抜けると、視界が一気に拓けた。

 クリスタ湖。——いや、それはかつてクリスタ湖だったもの。


 以前は大きな湖だったのだろう。

 今目の前にあるのは地面が大きく(えぐ)れた乾いた大地。カラカラに干からびた、かつて湖底だった地面には無数のひび割れが走っている。

 そして——いた。


 広大な、起伏だらけの湖底。そのちょうど真ん中の高台あたり、首を上げてこちらを見据える赤い竜。

 口元から噴煙を漏らし、貫禄もバッチリ。ヤダなー。

 その身体は、建物ひとつ分はありそうだった。高台の岩肌に爪を突き立て、動くだけで周囲の地面が崩れていく。

 竜が翼を羽ばたかせるたびに、熱気の波が風みたいに押し寄せて、思わず息を止めた。


「やっぱり炎の竜か。でも、これだったらなんとかなる——と良いな」


 その周りには、サラマンダーたちがうごめいているのが見える。

 足場が凸凹だから気を付けないとね。水を流し込んで凍結させれば安定しそうだけど……溶かされちゃうかなぁ。

 とりあえず、接近する前に水をたくさん呼び出して、攻撃防御にすぐ使えるようにしておきたいけど……水を呼び出したら、見つかっちゃうよね。


 あまり悩んでる暇はない。サラマンダーは後ろにもいるし、前からもやってくる。

 よし、あとは度胸で乗り越えよう! 《清流の手》で水を集め出すのが、戦闘開始の合図だ!


 まずは乾いた湖底に跳び降りる! ひび割れに足をとられないように慎重に走りながら、手の周りに水を集め始める。

 ——まだ距離があるのに、やっぱり気付かれた。

 赤い竜がこちらを向き、大きく息を吸い込む。その口の奥で噴煙と、チカチカと輝く赤光が。……ちょっとマズそう!


「ああ、もう! 防御に回すしかないじゃん!」


 集めた水を前方に集中させる。——来る!


 身体の芯まで震動が突き抜ける。竜の咆哮。

 その衝撃に乗せて、炎の濁流が目の前に迫る。


 あっぶない! 水の壁で受け止めはするけど、長く持ちそうにない。

 慌てて横に転がり、炎の射線から離れる。

 呼び出した水は炎にあぶられ、蒸気と化して消えた。


「……え? これマズくない?」


 すぐに、水を集め直さなきゃ……! お願いだから、連射とかしてこないでよ!?

 わたしは竜との距離を詰めながら、もう一度、《清流の手》で水を呼び出す。


「サラマンダーは……じいちゃんの力に頼る!」


 収納袋から取り出したのは『水属性の矢』。

 自分と同じ属性矢だから使うこと無いかもって思ってたけど——節水のために使わせてもらうよ! ありがとね、じいちゃん!


「走りながらでも、これくらい!」


 放った矢は次々とサラマンダーの眉間を貫き、水の濁流となってその炎を呑み込んでいく。

 時折飛んでくる蜥蜴(トカゲ)の火球は極力回避しながら、水は温存して竜に迫る。


 高台の竜まで、ここを登ればもう少し——。

 そう思ったその瞬間、わたしの『狩人』としての勘が騒いだ。

 この一歩は踏み込んじゃいけない。罠がある。そう感じて踏みとどまった刹那。


 目の前で、足元から立ち上がるように轟炎の壁がそそり立つ。

 天まで焼き焦がすほどの炎。鼻先に焼ける匂いが(まと)わりついた。

 踏み込んでいたら、危なかった——!


「おかしいな? 死んでない? なんで? 死ねよ!?」


 耳障りな、ざらついた男の声が聞こえる。

 高台の竜、その足元に——誰かいる。

 

「おまえ、なんだその漂う水は? まともじゃないな? し、し、し……」


 ズタボロのフードを被った人影。

 その陰の奥から歪な瞳がぎょろりとこちらを見た気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ