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もと女神は冒険者はじめます!  作者: さわやかシムラ
◇◇ 第二章 ◇◇
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第47話 西からの影

 わたしたちは穿地竜バジルグラーヴの討伐を終え、ギルドマスターであるマルチェロさんに一通りの報告を済ませた。

 帝国兵の手が回っていない魔物討伐依頼も、多くの冒険者たちの協力で消化が進んでおり、特別危険度が高い依頼もなさそうだった。

 そのため、わたしたちは数日間、休息も兼ねてのんびりと過ごしていた。


 そして今日は、オーキィ、ウィンディと共に街をぶらっと歩きながらカフェ巡りをしていた。

 ちなみにフィンはギルド職員のドミニクさんに呼ばれ、相変わらず魔物対策の話に付き合わされているようだ。

 アクセルは朝から「トレーニングだ!」と叫んで街の外周を走り込みに飛び出し、グロウは一日酒場でアルコールと戯れるらしい。


 水路入り組む噴水都市ルーミナの街並みにも最近ようやく慣れてきた。

 美味しいスイーツのお店はしっかり把握しておかないとね。

 そんなわけで、大通り脇のカフェでスイーツを三人分購入して、テラス席で待つふたりの元へ戻る。

「ふたりともお待たせ!」

 テーブルの上に透明なカップを並べていく。


「わぁ、なにこれ!」


 オーキィが目を輝かせてカップを覗き込んだ。

 カップの中では、陽の光で七色に輝く透明感のあるゼリー。艶のある鮮やかな赤いチェリーが乗っている。

 気持ちわかるよオーキィ! わたしも初見の感動忘れられないなぁ。

 わたしは得意げにスイーツの説明をする。


「これはルーミナの名物ジュレだよ! ルーミナに来たらまずこれを食べないとね! ってウィンディに教えてもらった」


 そう言いながら、椅子に腰を下ろす。

 ウィンディがスプーンを口に運びながらクスクスと笑っていた。


「ぷるぷるして弾力あるのに、口の中では甘みだけを残して溶けるように消えていくんだよ。さ、オーキィも食べてみて」


 ウィンディに勧められ、手にしたスプーンでオーキィもジュレをひとすくい。陽光に輝く透明のジュレはまるで宝石のようだった。


「食べるのがもったいないわね」


 そう言いながらも、ゆっくりと口の中にいれる。目を閉じて頬に手をあて、その感動をじんわりと楽しんでいるようだった。


「柑橘系の香りが良いんだよねーこれ!」

 わたしもジュレの味わいを楽しみながら、思わず頬を落とす。


 わたしたちは、そんな穏やかな時間を過ごしていた。

 だけど、それも束の間。視界の隅の大通りでは慌ただしく駆け回る帝国の兵士たちの姿が散見されるようになる。

 大声で後続の兵を呼びつける隊長、兜のひもを締めながら走っている兵、落とした革袋を慌てて拾う兵——何か緊急で呼び出しされたのであろうことが見て取れる。


 ……また、何かあらわれたのかな。


 スプーンを口にくわえたまま、大通りに目を向ける。

 わたしの視線を追って、オーキィとウィンディも兵士たちを見ていたが、食べる手を止めてウィンディが立ち上がる。


「ちょっと聞いてくるよ」それだけ言うとマントを羽織り直して通りに駆けていった。


 わたしは帝国兵と話すウィンディを見ながら、穿地竜討伐前に聞いていた話を思い出していた。


「帝国兵って要所の魔物退治に出払っていて、手のまわらないところは後回しになっているって話だったけど——思ったより兵士が残ってたんだね」


 オーキィがジュレの入っていたグラスをテーブルに置く。

「有事の際に防衛を担う人や、戦線から戻ってきた人、休息中の人たちじゃないかな」


「じゃあ、その人たちが慌てて武装整えてるのって……」


「う~ん、あまりいい話じゃないかもしれないわね」

 オーキィが困った表情で視線を空に向ける。鳥の群れが西から東へ、怯えるように鳴きながら飛び去っていった。



 ほどなくして、戻ってきたウィンディにオーキィが声をかける。

「良い話と悪い話、どっちだ?」


 ウィンディは小さく肩をすくめる。

「それはもう、一択しかないわ。——西にある『クリスタ湖』周辺の魔物討伐に当たっていた帝国部隊が壊滅したそうよ。

 魔物が西から流れてくる可能性があるから、ルーミナに残された兵を防衛に回すみたい」


「……それって結構まずいんじゃないの?」


「そうだね。街まで来られたら、いったいどれぐらい被害が出るか……」


 兵が移動するたびに鎧が擦れる金属音が、大通りでけたたましく響いていた。もはや街の人間にも異常事態であることが伝わっていることだろう。

 オーキィが心配そうに冒険者ギルドのある方に顔を向ける。


「そろそろフィンくんも駆り出されてるかもね」


 そういえばフィンはギルド内で職員さんと打ち合わせしてるんだった。

 きっと今頃新たな依頼書が用意されているに違いない。


「じゃあ、わたしたちも急いでもどろっか!」


 三人で頷きあうと、人込みをかき分けるように足早でギルドを目指す。

 いつもは水飛沫の香りがする大通りも、この時ばかりは鉄の匂いが広がっていた。

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