第40話 鉄槌の重み
アクセルが光魔法で剣の切れ味を強化する。雄たけびと共に、その剣を下段から振り上げるようにガーランドへ叩き込んだ。
「おおおっ!」
切っ先が岩の装甲を削り取る——だが。
「ふん!」
ガーランドは右肘を突き出し、外殻で受け止める。剣は削り裂きながらも、軋む音と共にはじかれた。
すかさず逆サイドからグロウが斬り込む。しかし刃は岩殻を断ち切れず、火花を散らすに留まる。
「効かねぇ……!」
ガーランドが両腕を旋回させる。瞬間、拳と共に射出された岩礫が弾丸のように二人を襲い、アクセルとグロウは衝撃波に吹き飛ばされた。
その隙を逃さず、オーキィが長尺のメイスを振り抜く。重量と膂力を乗せた横薙ぎは、確かにガーランドの胴を捉える——。
「むっ……!」
今度は正面からは受けず、ガーランドが身をひねって回避。砂煙を蹴り上げながら逆に拳を叩き込む。
「くぅっ……!」
オーキィの身体が宙に浮き、後方へ吹き飛ぶ。その巨体を支えようとフィンが飛び込むが、勢いを殺しきれず一緒に転げた。
「おい重っ……! ってて!」
立て直そうとする二人を尻目に、アクセルが再び距離を詰める。
その剣閃に合わせて、後方からウィンディが詠唱を終える。
「大地よ、縛めを解け! 『鎧剥奪』!」
放たれた術がガーランドの装甲に突き刺さり、表層の岩殻がガラガラと剥ぎ取られる。
「ほう……土魔法に長けた者が居るな!」
ガーランドの眼光が鋭くウィンディを捉えた。直後、その掌から石礫が雨のように放たれる。
「きゃっ!」
防御の間もなく直撃を受けたウィンディが地に崩れ落ちる。
「ウィンディ!」
オーキィはすぐに駆け寄り、短い祈りと共に『治癒魔法』を唱える。光が彼女の掌から広がり、傷ついた身体を包み込んでいく——。
その間にも、グロウが装甲を失ったガーランドに斬撃を繰り返していた。――が、ガーランドは最小限の動きでかわしていく。
「岩の鎧が無くとも、その程度の動き躱せばどうということもない!」
「そうかよ!」
グロウが前に踏み込み、斬撃を畳みかける。だが次の瞬間、彼は息を合わせたように身体を深く沈める。その背後からは、待ち構えていたアクセルが切っ先をまっすぐにガーランドへ突き出していた。
「閃光!!」
剣の先端から激しい光がガーランドの視界を奪う。その一瞬の隙に、グロウの剣がガーランドの右腹部から左肩まで一直線に切り裂いた。
鮮血が噴き出し、ガーランドが一歩後ろによろめく。だが、地面を踏み抉るようにして転倒を堪え、「ハアッ!」と雄叫びを上げると、全身の筋肉が風船のように膨張し、裂けた肉からの出血を強引に止めた。
グロウが眉をひそめながら頬の汚れを拭う。
「なんで今ので倒れねぇんだよ。マジでバケモンじゃねえか」
「いや、今のは効いたぞ。もう一歩深ければ危なかった」
ガーランドの傷口が鈍く輝いたかと思うと、すぐに塞がって元通りになる。そしてガリガリと鈍い音を立てながら、岩を大地から吸い上げるようにして再び体に纏わせていく。
「土魔法も無詠唱とか、筋肉だけじゃなくて土の魔法使いとしても一流ってか?」
フィンのぼやきにガーランドが胸を強調するポーズでこたえる。
「はっはっは! 筋肉は自前だが、魔法は教団の『加護』だな! だが俺様はこの力を授けてくれた意志のままに全てを『破壊』するまでよ!」
ガーランドがはち切れんばかりに筋肉を膨れ上がらせた腕を振り上げ、その拳を勢いよく地面に叩きつけた。瞬く間に衝撃が大地を駆け抜け、地面を大きく揺らし、断裂がいくつも生まれる。
「地割れに巻き込まれないように気を付けて!」
ウィンディの怒声が響く。『静地結界』のおかげで揺れ自体の影響は無く、地割れを避けるのは容易だった。誰一人被害が無いさまを見てガーランドも眉をあげる。
「なかなかに優秀な奴らだな。いい加減そろそろ一人二人獲りたいものだが」
オーキィがメイスを握りしめ、フィンが再びボーラを手にする。
「岩蛇をさんざん相手にしてきたからな! 土岩絡みの攻撃はもう慣れちまったよ!」
「そうか、ならば。一人ずつ直接やろう」
ガーランドがまるで水の中に潜るように足元から地面に吞み込まれて沈んでいく。
そして頭の先まで埋まると、あたりに静寂が訪れた。
グロウが落ち着きなくあたりを見渡す。
「地中から攻撃してくるってか……!?」
*
ガーランドは地中で腕を組み考えていた。
地上の気配は五つ。剣士二人と魔法使いと治癒術師、そしてスカウト。
なかなかに連携がやっかいな連中だ。
今から一人ずつ地中に引きずり込んで仕留めてやる。
魔法使いを最初に狙いたいが、土魔法に長けたやつには気配を読まれるかもしれん。
ならば……まずは司令塔のようなスカウトからだ。
ガーランドはそう決めて地中を突き進み、標的の足元から半身を現す。
*
フィンの足元から腕を伸ばしてガーランドが飛び出してくる。
だがその瞬間——金属の塊が容赦なく顔面を抉った。高さ四メートル弱から振り下ろされたオーキィのメイスの穂先。いかに筋肉を鍛えていようとも、顔面への衝撃はガーランドを昏倒させるのに十分だった。
「こういう時はね、フィンくんのところに出てくるものなのよ」
オーキィは得意げに胸を張り、メイスを地面におろした。




