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チョコの味

今日も板チョコを食べる。家でも、学校でも、バリバリと。人目を憚らず。「あんた、チョコ好きだよね」ってよく言われる。


時は14年前。


恋に落ちた。故意に落ちたわけではない。落とされてしまった哀れな1歳の幼い男の子。


2歳。だいちゅき。彼女に言ってもらえた。文字こそ上手くは書けないけど、口から発する言葉だけは伝えられた。お互い何度も言い合った。そんな幼児カップルが、文字を書けるようになったら何をするか、想像がつくだろう。


「ラブレターの送り合い」だった。

毎年2月に送られて、3月に返す往復書簡。それには手作りのお菓子をつけた。親の公認をもらっていたからこそできたこと。この頃は羞恥心すらないから、親にも「◯◯ちゃんのことが好きなんだ〜」とか言ってた。親も本気ではないだろうとみくびっていただろうな。だから、父も母も姉も、みんなでバカにしてきた。悔しかっただろうな。姉ですら一回り年上で、家族みんなが大人なのに、一人だけ幼稚園という恋愛要素ゼロの学び舎で現実離れした恋をしている自分自身が醜かっただろうな。


そんな2人が、同じ幼稚園に入った。次にやったことは、


「ラブレターの書く回数を増やす」

2度目のラブレターは毎年8月。それに加えて、


「交換日記の開始」

交換日記を送り合った回数は数え切れない。ただ、その日あったこと、思い出など様々ことを書いた。また、最後にはもちろん「大好き」にハートをつけて返した。

ずっと、彼女の側にいたかった。


でも、

神が味方をしたのはここまでだった。


この幼稚園では32人の園児が、年中から64人に増える。つまり2クラス編成になるということ。彼女とはここで離れ離れになった。そのせいで、交換日記は途切れてしまった。


いつしか、毎年往復4通のラブレターのみが2人を繋げる唯一のツールになっていた。


8歳。衝撃的な場面を目にした。帰宅途中だった。彼女がK君に虐められていた。悪口を吐かれた彼女は泣いていた。見ていられなかった。だから、

「やめなよ、そーゆーの大っ嫌い」って言った。でも、K君はやめてくれなかった。その後からは彼女と一緒に虐められた。

「ありがとう」って言ってくれたけどやるせなかった。

その数週間後のことだったと思う。K君も彼女のことが好きだという話を聞いた。奪われたくなかった。

意地悪をする少年はツンデレ。

泣き虫な少女はドMなのかもしれない。

これでいえば彼らは相思相愛になってしまう。

だから、油断はできなかった。熱烈なラブレターを送ってもう一度振り向いてもらおうとした。彼女がどう思ったのかはわからない。でも自己満足の観点からは満点だった。



11歳。友だちが海外へと引っ越すこととなった。そのお別れ会が彼女の家で開かれた。


会が終わり、家には2人きり取り残された。彼女の部屋の勉強机には年少時にやり取りした交換日記3冊、さらにはラブレター18枚が全て飾ってあった。恥ずかしさで熱を出した。すると、彼女のお母様は泊まっていくように言った。

時間は夜になった。眼の前には常夜灯に照らされた彼女がいる。距離はない。でもハグしようだなんて、そんな勇気もなくて。「嫌われたらどうしよう」とか「このままでもいい」とか思ってしまった。そんなことを思っているうちに彼女からハグしてきた。というより、彼女にハグさせてしまった。抱き返して密着するがそれ以上何もできなかった。体格も彼女の方が大きいし、力も強かった。彼女の手の中に収められれば動きようがなかった。彼女の腕の中でどうにか動こうともがいていたら、

「好きだよ」

憧れていたシチュエーションだった。本好きだったが故に読んでいた短編小説が蘇る。あのシチュエーションなら、

「好きだよ」

「俺も好きだ。付き合ってくれるか?」

という会話が入る。この主人公のように格好良くなりたかった。なれなかった。曖昧な言葉で返してしまった。


あのとき、襲っておきたかった。唇くらい奪っておきたかった。



それからすぐに修学旅行があり、噂がまわって回収に苦労した。お泊まりから一ヶ月後に唇ヘルペスになったこともあって、それを勝手に関連づけて事実無根なウソも広まった。苛立ったのは当然だが、なにより彼女に申し訳なかった。でも、時間が解決してくれた。


それから半年後の、小学校卒業の寸前にもらったバレンタインの最後の言葉。

「愛してる、I need you」

だった。こんなことを書かれるのは初めてだったし、心臓が飛び出しそうだった。

必死に「I need you」の意味を探った。これはずばり、アメリカン流の「結婚してください」ということ。告白を超えたプロポーズに驚いてしばらく眠れなかった。



中3の春、修学旅行で4日連続オールで恋バナが行われた。クラスのみんな、顔を真っ赤にして好きな人とか、付き合ってる人とかを話した。例えば、T君はAさんが好きだとか、そーゆーこと。

そして、ターンが回ってくる。少しだけ、本当に少しだけ、話した。


修学旅行から帰ってきた次の週の月曜日。T君と契約を結んだ。「T君がAさんに告白できれば、彼女に告白する」という内容で。

その瞬間、T君はAさんを呼び出して告白。もちろん、即答でバツ。だが、契約内容は「成功すれば」ではなく「告白すれば」。

それから2日後、彼女に

「12年間、ずっと好きでした!付き合ってください!」

こちらは即答でマル。「そんなこと知ってたよ」と笑われてしまった。


彼女と付き合った2ヶ月間はとても楽しかった。

例えば、

ショッピングセンターにて。同じものを買ってペアルックにした。

家にて。隣の部屋にいた彼氏のいない姉に話し声を聴かせてみた。

カフェにて。ひと口飲んだものを交換した。

あとは、校舎裏にて、、、

とかね。


同年6月。ついに「そのとき」が来てしまった。

「もう無理かも」って。言われた。梅雨の中。人ごみの中。1つの傘の中。まだ熱い愛情が残る心の中。

でも頭の中。「そうだよな、わかってるよ」って。全部知ってた。なのに、言えなかった。

悪者はいつもK君だった。あのときも。このときも。


「別れよう」って。言えた。

彼女に傘を押し付けて、ロードの中心を切り裂いて、全身ずぶ濡れになりながら帰った。



あれから約1年後の今。

未練なのだろうか。2歳のとき、ファーストバレンタインでもらって一目惚れした板チョコ。そして、彼女との街歩きでいつも持ち歩いた炭酸ジュース。今でもまだ断ち切れずにいる。



この痛みがやがて薄れるのなら、、、


深く考えるな。


最後に、ありがとう。さよーなら。また明日。

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