サムライと商談
いったん今日出発組を追い越してしまうと、その先には誰もいない空間が広がっている。
通常、宇宙船組は道中の安全のため、速度が近いもので一団になって進む。
今日の夕方までに地球に着くと考えると、ドワーフ船団を最低一回、地球船団は複数回追い越すことになるだろう。
「マルコ、大丈夫?」
「問題ないっす。元気いっぱいっすよ」
大丸の中では、ドワ子に外を確認する方法が無い。
マルコにとっては大丸は分身なので、航路の安全は彼任せということになる。
今回は初めてでお試しということでしょうがないが、今後の課題だとドワ子は思った。
「あ、遠方に対向船団っす。あれは多分地球船っすね」
「了解、じゃあ外に出して」
一応、安全のために接近時には万全の体制をとることになっている。
宇宙船であれば、監視要員を増やす。そして、ドワ子のような個人事業者だったら操縦者がしっかり注意する。
大丸の中で周りも見えない状態というのは、万全の体制とはいいがたい。
たちまち大丸が消え、真空中に放り出されるドワ子。
すかさずマルコが大きくなって近寄ってくるので、その羽毛をつかみ、定位置に移動する。
マルコの羽毛は宇宙生物らしく強靭なので、ドワーフの馬鹿力で引っ張ってもびくともしない。 毛が抜けて禿げてしまう心配はないのだ。
たとえボウズスレイヤーが「ボウズコロスベシ」と近寄ってきても安心だ。
前方に目をやると、確かに地球船らしい大型船が、二列になってやってくるのが見える。
互いの位置は発信機で常時送信しているので、向こうからは位置が分かっているはずだが、それだけに何もない所から信号が発信されていると奇異に思われてしまう。
「アレお願い」
「はいっす」
マルコから受け取ったカンテラを手に掲げる。
余り長時間は持たないが、その分強力な光を出すので、これで向こうからも位置がわかるはずだ。
ドワ子がカンテラを大きく振ると、それに反応したのか銭湯の船が操縦席付近のライトを点滅させる。
船団内はリアルタイムで通信が行われているはずだから、今頃は各船に注意喚起がされているはずだ。
これで、ひとまずの安全確認はなされた。
ドワ子は、船団から距離をとってすれ違う航路を取る。
後はすれ違った後に大丸に乗り換えればよい。
メインライン航路のいつものルーチンワークだった。
異変が起こったのは、船団も半ばを過ぎたあたりにドワ子達が到達したタイミングだった。
突然、最寄りの船が赤い点滅信号を発しだしたのだ。
メインラインの決まりでは、黄色が注意、赤が警告だ。
例えば、エンジンなどのトラブルで動きがおかしくなる場合は黄色が発光する。
周囲の船に注意を喚起して不規則な動きに対するリカバリーの必要を知らせるのだ。
そして、赤はそのまま周囲の船に危害が加わる事態に対して発光される。
例えば船が爆発、あるいは暴走など、そして敵対存在が現れた、などだ。
「マルコ、わかる?」
「ゴブリンか何かっすかね?}
船の動きに変な感じはしない。
となると、襲撃を受けているのがありそうな話だ。
とはいえ、赤だから規定に従ってドワ子は船団から距離を取る。
「あ、やっぱり襲撃っすね」
「ああ、でもあれ、多くない?」
今も赤点滅信号を発している船の後ろのコンテナを、宇宙ゴブリンの群れが襲っている。
宇宙ゴブリンのような宇宙モンスターは、実際のところ宇宙生物ではない。
それはドワ子達ドワーフや、ベイズのような獣人、ベンジャミンのようなエルフが宇宙で活動できるからといって宇宙生物でないのと同じだ。
人間をはじめとするひ弱な地球生物でなければ、真空中の活動には支障がない。
その中でも他種族に敵対的で、そのために大きな勢力になれない種族を宇宙モンスターというのだ。
ゴブリン、オーク、トロール、そしてコアラ。
よく見る敵対的な宇宙モンスターはそれぐらいだろうか。
地球コアラしか見慣れていないミサキのような地球人と話していると認識の差を感じるのだが、ドワ子はかつてコアラに襲われて危機一髪だったことがある。
宇宙コアラは獰猛で肉食、素早い動きでその牙を獲物に突き立てる宇宙の狂犬なのだ。
あの時はドワ子の手元にスペイン風オムレツがあって助かった。
宇宙コアラはなぜかスペイン風オムレツに目がないので、その隙に逃げ出すことができたのだ。
個人輸送業者の間では『まさかのときのスペイン風オムレツ』として、宇宙に出るときには必携の安全装備の一つなのだ。
今回は幸いスペイン風オムレツの出番はないようだ。
宇宙ゴブリンは特段の備えなしに撃退可能な弱小モンスターだ。
ただ今回は数が多い。
ドワ子は通信回線をオンにして、いつ救援要請が出てもいいように準備する。
「あ、でも誰か出てきたっすよ。ナマミで」
「え? ナマミ?」
ナマミとは、もちろん宇宙服を着ていない者のことを指す。
当然、地球人であれば即死だ。
だとすると、宇宙に適応した種族の用心棒でも乗っていたのだろうか?
とはいえ、ドワーフでも獣人でも、ナマミの戦闘能力はそれほどない。
大魔法を使えるエルフであれば別だが、人間嫌いのエルフが人間の宇宙船で用心棒として働いているというのはありそうになかった。
状況を見ていると、その人影は高速で移動し、ゴブリンたちを血祭りにあげている。
その動きはドワ子も映像で見たことがある。
「サムライだ! 初めて見た」
「サムライっすか、『死んだらかば焼きが食えない』ってやつっすね」
それを言うなら『死して屍拾うもの無し』だが、マルコは間違えて覚えていたようだ。
屍は食えないし、かば焼きならおいしいので、マルコ的には正解かもしれない。
宇宙に適応した人類、それはサムライ、ニンジャ、リキシであり、それぞれが刀、忍術、素手で戦闘可能な超人類だ。
もちろんそこまで自分を鍛え上げるのは並大抵のことではなく、数は少ない。
それでも、こうした場面で対応可能な人類は他にいないので、時に船団の護衛をする者もいるという。
それでも珍しいのでドワ子にしてもマルコにしても見るのは初めてだったのだ。
「サムライが居れば安心っすね」
「そうだね、ここで見てようか」
実際、サムライの動きはすさまじく、たちまちゴブリンは数を減らしていく、やがて最後の一匹も切り捨てられ、サムライも動きを止める。
すごかったねえ、などとのんきに眺めていたドワ子の端末に、突然通信が入る。
「はい」
「おお、そこで見ておられるご仁だな。ちょっと手伝いを要請したいのでござるが……」
なんと、通信元は目の前でゴブリンを殲滅したサムライではないか。
「はい、時間に余裕はあるしいいですよ。後始末ですか?」
「うむ、さすがにこの数では、討伐証明の死体集めも一人では手が回らん。討伐報酬は折半するゆえに手伝ってはもらえないだろうか?」
もちろん、船団から護衛料はもらっているのだろうが、襲撃があった場合は討伐報酬が別に支払われるのが普通だ。
そして、その報酬は停泊所に着いた時点で管理局に死体を引き渡して支払われる。
管理局側からも、船主側からももらえるのでお得なのだが、それは持ち帰れる死体の分のみだ。
今回は雑魚のゴブリンということもあり、数を揃えないと報酬も少ない。
とはいえ折半というのはもらいすぎだとドワ子は思う。
「手間賃程度でいいですよ。こっちも大したことはないんで」
「そうか……助かる」
さらに押し付けてこなかったということは、彼も裕福ではないのかもしれない。
「じゃあそっちに向かいますね」
ドワ子はマルコと一緒に現場に近づくのだった。
普通にタイトルをつけたように見えたでしょうか?
元ネタはあります。
対戦格闘ゲーム『サムライスピリッツ』の英題が『サムライショーダウン(SAMURAI SHODOWN)」なので、「ショーダウン」から「商談」です。




