四天王じゃあ五番目だ
中―0区画でカスクとドワ子、そしてマルコがいる。
ミリーの件が片付いた翌日、朝起きてドワ子たちが小ドームに向かうのをカスクが見送ると言ってついてきたのだ。
「あ、そうそう、ミリーのやつは日付が変わるぐらいに着いたって連絡があったぞ」
「今頃こってり絞られてるわね」
「違いねえ」
カスクとドワ子はその光景を想像して笑いあう。
さすが快速を旨とするベイズだけあって、半日あればここからド星までは届く。
逆にそうでなければあの時刻で出発させなかっただろう。
なお、さらに速いマルコは全速を出せば6時間ぐらいで着くが、さすがに地球までは体力が持たないので、半日使ってアステロイドベルトに、一泊して次の日に地球に着くという行程が当たり前になっている。
「そういえば、向こうでは母さんのところに行くんだろう?」「カアッ?」
「ええ、そのつもりよ」
「俺たちも仕事が終わったら合流するからまた向こうで会おう」
「わかったわ……マルコ? 寝ぼけてるんじゃないわよ」
「母さん」の「かあ」の部分で同族がいるのかと勘違いしたらしいマルコは、やはり寝ぼけていたらしい。
ドワ子達は見送りのカスクに別れを告げて、小ドームの方に移動する。
小回りが利くドワ子とマルコだったら、別に大ドーム側から出ても出られないことは無いのだが、出発記録や航路の提出をする受付は小ドームにしかない。
こちらは個人運送業者専用となっているので、人影は少な目だ。
窓口もすいているので、ドワ子はすぐに必要な手続きを済ませる。
「どう? 行けそう? ちょっと休んでいく?」
「カアッ、申し訳ないっす。ちょっと時間を下さいっす」
一応、予定通りだと今日の夕方到着にしてあるので、時間的には余裕がある。
とはいえ、出発記録を付けた以上は今から部屋を借りるわけにもいかないので、ドワ子は小ドームの休憩室に座り、小さくなったマルコを抱える。
本来、マルコは近くにドワ子だけがいる状態でなければ眠れない。
よそ者がいる状態で睡眠状態になることは本能的に受け入れられないのだ。
だが、昨日急にエーイチで眠る羽目になって、マルコとドワ子は困った。
狭いエーイチには個室なんてものは無く、マルコが安心して眠ることができない状態だ。
しかも、船外ではひっきりなしに輸送や整備の作業が行われている大ドーム内。
普段聞きなれない騒音が止まない場所だったのだ。
頑張って目を閉じて眠ろうと苦労するマルコを見かねて、ようやくマルコが眠れる方法を見つけた時にはもうすぐ朝という時間だった。
その方法とは、光を遮る袋に包まれた状態で、ドワ子が抱っこするというものだった。
今、マルコとドワ子は休憩室の片隅で、その体勢で一つになっている。
なお、にわとりも同様に暗くするとおとなしくなるようだが、そんなことを指摘するとマルコは「一緒にするなっす」と怒ることは想像に難くない。
二時間ほど、マルコが仮眠をとって、いつの間にか温かくて丸く柔らかいものを抱いていたドワ子も気持ちよくなって何回か居眠りをした。
これで地球までは万全の状態になった。
*****
出発してしばらく、快速のマルコは次々に宇宙船を追い抜いていく。
見慣れたエーイチの船体を見かけたが、向こうでも会うし軽く手を挙げて挨拶をしたら、操縦席のライオは気づいたようだった。
ドワーフの技術をもってしても、アステロイドと地球、ド星との間は最低2日かかるのが普通であり、同じ技術を提供された人間の宇宙船は、生命維持装置がかさむためさらに遅く4・5日かかってしまう。
結果、半日で行き来できるマルコとでは4倍以上の速度差があるのだ。
一番遅い地球船の場合、地球とド星の間を往復するなら停泊時間を含めておよそ一か月かかるが、その分大コンテナを多数運ぶことができるので、個人輸送業者やドワーフ船との住み分けができている。
宇宙規格の大コンテナはスペーサーを付ければ中コンテナを中に8つ格納することができ、中コンテナは同様に小コンテナを8つ格納することができる。
スペーサー分で運べる容積は半減してしまうのだが、大手以外は扱いやすさや積み荷の取り違えを防ぐために小・中コンテナを利用することも多い。
エーイチの最大積載が中型コンテナ8つだが、今の主流は大コンテナを8つで、大コンテナ12、さらには16という巨大なものもある。
なんでこんなことをドワ子が思い出しているのかというと、目の前に大コンテナの大きな後姿が見えているからだ。
今日出発の宇宙船は全て追い越し、そろそろ周囲に誰もいなくなって大丸を出そうかと思っているところだった。
「あれは……」
「ベンさんっすね」
ベンさん、すなわち個人輸送業者のエースたるベンジャミンである。
マルコは大コンテナの前に移動し、コンテナを引いている宇宙生物の背に乗ったベンジャミンに近づく。
「お疲れ様、ベンさん」
「おお、これはドワ子さん。お久しぶりです」
「こんにちわっす」
「マルコくんもお久しぶり」
個人輸送業者は互いに顔見知りで、いざという時には互いに助け合うので、当然顔見知りだ。
ベンジャミンは、宇宙ゾウサンの背にしつらえた畳に胡坐をかいて座っている、肌の黒い、いわゆるダークエルフのおっちゃんだ。
引きこもりのエルフと違って、火星の荒野を遊牧生活しているダークエルフは、火星で発見した生物を移動に利用していた。
本来はエルフ的な別の名前が付けられていたが、その見た目が地球の象にそっくりだったので皆が「象さん象さん」と呼びならわしていた。
エルフ的には捨てた地球の動物のあだ名がつくのは気に食わなかったらしく、別の生き物「ゾウサン」だ、と決めてしまったので、今ではそれが正式名称になっている。
実際に地球の象は火星で生きられないので正しい。
そして、ベンジャミンは宇宙生物になって、つまり丸っこくなってビームを撃てるようになったゾウサンを使役して個人輸送業者をやっている。
積み荷が少ないことも特徴の同業者の間では、抜群に大量の貨物を運べ、その状態でもドワーフ船よりはるかに速いために重宝されている。
「ハナコも元気そうね」
「ぱおーん」
宇宙ゾウサンのハナコは、後ろから見て大コンテナからはみ出すぐらい巨体だ。
丸い体に太い4本の足がちょこっと出ているが、姿勢制御は主に大きな耳と長い鼻で行っているので、安定性は抜群だ。
そりゃ畳に座っていても大丈夫なはずである。
「聞きましたよ、なんかマルコくんが進化したって……運べる量も増えたんですか?」
「いや、それは変わらず小コン2個……って、それは企業秘密です」
「ははは、ほとんど言ってるじゃないか。でも、幻獣は進化するんだねえ……」
「ぱぉ……」
「ごめんごめん、僕はハナコが一番だよ」
「ぱお~ん」
謝りながらベンジャミンは畳の外のハナコの地肌を撫でて機嫌を取る。
「じゃあ、私は先に行きますね。良き航海を」
「ああ、良き航海を」
ドワ子は「せっかくだからベンさんに見せてあげよう」とマルコに大丸を出してもらってその場で乗り込んで先に行った。
*****
「さすがに大きいよねえ、さすが四天王筆頭」
「四天王っすか?」
個人勢業界で言われているだけなので、マルコは知らなかったようだ。
「そう、力のベンさんと速さの私、そして技のサリーに安心ティルダ、あと便利なベイズね」
羽に埋もれてほとんど見えない短い指を折って小さいマルコが数える。
「5人いるっすよ?」
「え? だって私を除いたらベンさん、サリー、ティルダ、ベイズで4人よ?」
再び指折って数えるマルコ。
「やっぱり5人いるっすよ?」
「ベイズは中途半端だからやっぱり4人でいいんじゃない?」
マルコは諦めた。
「そうっすか……ならいいっす」
「そうそう、それでいいのよ」
なお、ベイズはコンテナの数を増やせばたくさん運べるし、今回みたいに小コン1個なら速度が出るので『便利』で、仕事も絶えない人気者だということは、彼の名誉のために記しておこう。
タイトル由来:
四天王が五人いる話や、奴は四天王の中で最弱、というフレーズは有名でしょう。
あのタイトルになったのは『快傑ズバット』の「日本じゃあ二番目だ」にかけてるんですが、あれは一番は自分だとつながるからいいのであって、ちょっと強引だったかなとは思います。




