火星の発掘品
「カアッ」
普段と違い、狭い船内の用心棒控室の旅は、マルコにとっては窮屈だったのかもしれない。
ドワ子はそう思って、今後はあまり受けないようにしようと思った。
ドワ子達は今、アステロイドベルトの中継ステーション内にいる。
そしてマルコがぴょんぴょんと跳んで、広い空間を堪能するように進んでいる。
このような短期間ではステーションの切り替えは起きないので、当然今回も行きに使ったのと同じステーションだ。
だからといって何が違うわけではない。
中継ステーションは全て同じ規格で建設されており、変わるのはステーションの番号とステーション周囲の小惑星の地形ぐらいだ。
実際に、職員その他も切り替え時にはそのまま一斉に隣のステーションに移動するため、食堂の料理人すら変化がない。
当然、メニューも変わらない。
だからドワ子としては前回は見送ったうな重を食べるつもりだった。
旅客船の場合は休憩として一晩滞在することが普通だ。
これは船員がちゃんと酒を飲んで十分な睡眠がとれることが必要だからだ。
ここまで5日、ここからド星まで5日という航海では息抜きが無いと船員のパフォーマンスも上がらない。
「ご主人、なんか露店が出てるっすよ」
「え? 珍しいな……」
もちろん船が停泊する場所だから、店が無いということはない。
とはいえ、地球やド星に比べれば人出が少ないから、ステーション側がやっている消耗品や雑貨の店の他は数えるほどしか出店がない。
露店、とはいえその名の通りの地べたに品を並べて置いて売るようなものではなく、空きの店舗スペースに店を出すものだ。
元からの店と区別するためにスペースは分けてあり、臨時の店舗であることは慣れている者ならすぐわかる。
「いらっしゃい」
「カアッ、珍しいものがいっぱいっす」
「本当だね。これは……」
「おいらが火星の古代遺跡から発掘してきたもんだぜ」
「なるほど、あなたは発掘家なのね」
「そういうこった」
店主は兎獣人である。
かつて、人間の天下になった地球を離れた多くの種族のうち、最も開拓心に富み、早くから月を探検して後に続く種族の先駆けとなった種族だ。
だが、決して頑強であるとか膂力に優れているわけではなく、そのたぐいまれなる危険察知能力を駆使して今なお探検家としては右に出るもののいないという種族であった。
あまり知られていないが、火星はかつて地球外の古代文明が存在したらしい。
引きこもりエルフの幻術は、そうした遺跡もすべて覆い隠してしまうので、地球人には知られていないが、未だ火星には未調査の遺跡がたくさん残されているらしい。
この店主も、よく見ると露出した腕や肩にところどころ毛の色が違うところがあり、古傷なのだろうと思われる。
自らが現場に足を運んで遺跡を発掘している証拠で、単なる商売人ではないことは明らかだ。
「ふうん……これは何?」
「これは古文書に寄れば『人間をやめる石仮面』らしい」
「へえ……なんか怖いね。こんなの売って大丈夫?」
「だけど、どう見ても獣人専用なんだよ。耳の位置とか……で、実際にいろいろ試してもらったけど人間も獣人もエルフもドワーフも使えなかった。だから単なる変な仮面だな」
「なるほど、じゃあインテリアに……ってちょっと趣味が悪いかな」
ドワ子は手に取っていた石仮面を丁寧に置く。
そういえば、ミサキに合格のお祝いで何か買っていこうか、石仮面以外で、とドワ子は思い出す。
ミサキは無事、上級職の試験に合格したらしく、辞令待ちだがほぼ間違いなくド星勤務になりそうだった。
「うーん、さすがにこの『無限に回転速度が上がり続ける円盤』は魔力のないミサキには使えないし……そもそもなんの意味があるんだろう? だとすると、何かアクセサリかな……仕事が仕事だからあんまり派手なのは避けて……」
ドワ子はいろいろと物色する。
『金属製なのに灰色っぽいサークレット』……『なんかわかないけど手の甲に着けられるレンズ』……『両肩に着けられるらしい三日月型の飾り、ひげ付き』……
「なんか微妙な品物ばかりね」
「そうじゃなきゃこんなところで売らねえよ」
「ごもっとも……あ、これよさそう」
そしてドワ子が手に取ったのはシンプルな指輪だった。
なんか内側に文字が刻まれているが古代文字らしく読めない。
「ああ、それはちょっと待ってくれ。さっき別の人にとりおきを頼まれて下げ忘れてるんだ」「そう、残念ね」
ドワ子はなんか世界を統べそうなデザインのシンプルな指輪を置く。
「ご主人、指輪ならこっちにもあるっすよ」
マルコに言われて見ると、確かにそこそこシンプルな指輪がそこにはあった。
デザインとしては、宝石の代わりに円盤がはまっていて、そこには太陽系の模式だろうか、太陽の周りを惑星が回っている図になっている。
確かに前の指輪に比べてはシンプルさでは劣るかもしれないが、シンプルかつ落ち着いたデザインのため、さほど目立たない。
「これって何かいわれはあるの?」
「なんだろうなあ……わからねえからこうして売ってるんだ。『太陽系七つの秘宝』ってのかとも思ったんだけどちょっと違うし……だけど品物はそんなに悪くないと思うぜ」
「確かにそうね、安っぽいところはないし、遺物だと言われればそうかもしれない、ぐらいにはいいものね」
結局、ドワ子はその指輪を発掘家から買うことにした。
「ミサキさんに贈り物っすか?」
「そのつもり、ほら、太陽系が描かれているから管理局職員としてふさわしいと思わない?」
「そうっすね、だけどそのままっすか?」
「もちろんちゃんとド星で包装してもらうわよ」
「それがいいっすね。あとあっちも見に行きたいっす」
そちらではマルコとは違い普通の宇宙カラスが呼び込みをしていた。
「|この値段では二度とありません《Nevermore》」「売り切れごめんです」などとにぎやかな宇宙カラスの店の商品は、さっきの兎獣人の店よりさらに不気味なものが多かったので、ドワ子達はスルーした。
なお、マルコは宇宙カラスを見て大きくなってカアカアと威嚇していた。
そんなこんなで、ドワ子とマルコは中継ステーションでの買い物を楽しんだ。
なお、残念なことに例のうな重は品切れだったので、食堂では大盛火星丼になってしまった。




