声も変わる
「あ、こっちこっち」
「おう、待たせたな」
ドワ子とカスクが手を挙げて合流する。
もちろん二人にはそれぞれマルコ、バリーが付いてきている。
温泉で英気を養ったドワ子達は、次の日町に出てカスク達と合流した。
これから親戚一同で祖父母、カスクにとっては両親の家にお邪魔するのだ。
「倉庫買えたの?」
「もちろん、これでうちも地球相手の商売がはかどるぜ」
「へえ、私も使わせてもらえちゃったりしない? 格安で」
「もちろんいいぜ、そのためにもうちの仕事をもっと受けてもらわなきゃな、格安で」
へへへへ、と二人して苦笑する。
ドワ子とシルバーバーグ商会は資本的には切れている。
だから、何かを頼むときには何かを譲らなくてはいけない。
当たり前の商売人同士のやり取りがそこにあるのだ。
「しかし、久しぶりに来たよな」
バリーがあたりを見渡してそうつぶやく。
普段整備士としてド星の本社整備ドックで忙しくしている彼にとっては、ド星を離れることすら稀だろう。
「相変わらず人が多いよね」
「何回か踏まれそうになったっす」
ドワ子はうんざりして言い、マルコも同意する。
彼女ほどではないが、カスクやバリーもドワーフなので背が低く、こうして地球人が大量にいる場所では居心地がよくない。
それでも、カスクはドワーフ特有の体格をしているので、その一団が周りに距離を取られているので、ドワ子とマルコだけの時よりはましだ。
「さあ、早くいこうぜ」
カスクの言葉に一同はタクシー乗り場に向かう。
*****
その家は、山の方にある。
昨日ドワ子達が泊まった温泉地とは全く別方向だが、同じ都市部の郊外という共通点はあり、距離もそれほど遠くない。
だからこそ昨日はあの場所に泊まったのだった。
何度も訪問した場所だからドワ子には見覚えがある。
そしてマルコを連れてきたこともあるので、彼も見慣れているはずなのだが、やはりトラックの荷台とタクシーの後席とでは見え方に違いがあるのか、窓の方を向いてきょろきょろしている。
やがて一軒家に到着する。
それは田舎らしく一般的な農家の古い家だ。
ドワ子の祖父母はそこで二人暮らしをしている。
もちろん孫のミリーが直系、ということは、祖父はかつてシルバーバーグ本家の当主であった。
その手腕で会社を大きくし、大型船を何隻も使うような大商会にした功績があるのだが、仕事がひと段落したタイミングで早めにリタイヤし、この地球の田舎の家に移住した。
その理由は一族の間では地球人であり人間だから老い先短い妻のため、ということになっており、今は会社の経営から離れてひっそり暮らすのを邪魔しないでおこう、というのが一族の総意だった。
「父さん、元気か?」
「おお、カスク、アリエルもバリーも、お、その小さいのはマルコか?」
庭の菜園でナスを収穫していたのは麦わら帽子をかぶったドワーフ。ドワ子の祖父のサンダスだ。
「あら、みんないらっしゃい。遠いところいつも悪いわねえ」
家の縁側から声をかけてくるのはドワ子にとっての祖母、菜摘だ。
サンダスと違ってやせているのは当然種族が違うからで、その分加齢の影響があり、見事に白く色が抜けた髪を後ろで結んでいる。
しわの刻まれた顔には優しそうな表情を浮かべており、ドワ子達はみんなこの祖母のことが大好きだった。
「おばあちゃん。元気そうで安心した」
「久しぶり、なんか弱ってるって聞いたから心配した」
マルコとバリーが祖母の方に近寄ってくる。
「で、今回はこいつらか?」
「そのつもりだ。ミリーの件は聞いてるか? 父さん」
「ああ、本当にびっくりしたぜ。誰に似たんだか……」
「そりゃ……」
「カアッ、何をこそこそ話してるんすか?」
「あ、いや」
「なんでもねえよ。ほら、母さんとこ行ってこい」
何やら父子で怪しい会話があったが、それに気づいたのはマルコだけで、彼もあっという間に追い返された。
そんなことを気にもせず、ドワ子とバリーは祖母と縁側に腰掛けて話し込んでいる。
それぞれ別の仕事をしているので、近況の報告や、最近あったこと、そして祖母の方は、最近誰が訪ねてきたかとか、今年の野菜の出来が良かったとか地球では今こんなものが流行っているとか、そういうことだ。
途中で場所は中の座敷に移ったが、そこにサンダスやカスクも加わってきて、一家団欒というような光景になっている。
マルコはというと、庭に出て飼っているニワトリと何か張り合っているようだ。
ニワトリも好戦的で、羽を広げてマルコより大きなシルエットを形作る。
すると大人げないマルコはたちまち大きくなってニワトリを威圧する。
突如、普段接する主人よりも巨大なシルエットが目の前に現れたニワトリは、おびえて泣きながら逃げる。
マルコは、そんなニワトリを追い掛け回すでもなく、その場で勝ち誇った様子で佇んでいる。
マルコが追い掛け回すと被害が大きそうなので、それはそれで農家の平和のためにはいいことなのかもしれない。
ニワトリに完全勝利したマルコが部屋の中を見ると、まだ一族の談話は続いているようだった。
マルコは、ここまではいいだろう、と小さくなって縁側にちょこんと飛び乗る。
「それじゃ、そろそろ昼ごはんにしようかしらね」
菜摘が立ち上がり、台所に引っ込み、ドワ子とばりーが跡に続いて手伝いをする。
一般的ドワーフの男は人間サイズの台所には立ち入らない方がよいので、残りの二人はおとなしく座っている。
座卓に寿司桶や手作りの料理が入った皿、ビールやお茶が並び、皆で昼食ということになった。
マルコの世話はドワ子が行い、欲しいものを別に取り分けてもらっている。
ドワ子とバリーは、祖母の様子に注意を払っている。
取る料理は確かにあっさりしたものや野菜が中心だが、だからと言って動きにくくしているとか、極端に食が細いということはないようだ。
台所で仕事をする姿もしっかりしていたので、体はまだまだ元気なのだろう。
二人はひとまず安心して料理をお腹いっぱい食べるのだった。
ひとしきり料理が片付き、一同はまた近況やこの場にいない親戚のことについてなどの話題で談笑していた。
話題が途切れた時、サンダスが一同を見回し、菜摘と目を合わせる。
「じゃあ、ばあさんや、お願いできるか?」
「はいはい、わかりましたよ」
すると彼女は何やら目の前で指をちょいちょい、とやる。
そしてその結果、部屋はたちまち異様な雰囲気になる。
ドワ子が周りを見ると、部屋の中は変わっていない。
しかし、縁側から外を見るとそこにあったはずの庭はぼやけた霧につつまれ、ほとんど見えなくなる。
「なにこれ⁉」
「どうなったの?」
この場で驚いているのはドワ子とバリーだけだ。
「ちょっと結界を張ってもらったんだ。外から見ても儂らが座っているようにしか見えねえはずだ。それで、今から二人に一つ秘密を明かそうと思っとる」
サンダスがそのように言う。
目で合図をすると祖母の菜摘が立ち上がる。
「えいっ」
掛け声とともに祖母の姿が変化して、孫二人はびっくりする。
「何? 誰?」
そこにいたのは、祖母の姿とは似ても似つかない、いや、背丈と長い髪だけは共通の若い女性の……耳が長いエルフが存在した。
「ナオ……じゃなかったナツミよ。あなたたちのおばあちゃん」
「そんな、声まで変わって!」
「カアッ」
驚いているのは二人だけ、マルコは相槌を打ったものの、別に驚いた様子が無かったのがドワ子には奇妙に思えた。
タイトル由来:
伝説的なコマーシャルが元ネタです。
「そんな、声まで変わって」で検索すると今でも元ネタの説明や動画が出てくるぐらい有名です。
様々な規制で表現の幅が狭くなった現在でも、おそらく文句をつけられることが無いぐらいに配慮の行き届いたつくりをしているなあ、と自分などは感心します。




