マルコ、大地に立つ
「ひどい目にあったっす」
「ほんとだねえ」
何とか宿泊施設に逃げ延びてきたドワ子とマルコ。
この辺りは一般人立ち入り禁止で、全体としては少数の個人輸送業者しか立ち入らないので、マルコが人だかりに埋もれる恐れはない。
「今日は早めに休もうか」
「そうっすね、僕はシャワーを浴びてくるっす」
ドワ子のシャワーは個室に備え付けのもので十分だ。
マルコの巨体はそれでは不都合がある。
ということで、部屋に帰って一人でシャワーを浴び、くつろいでいると、部屋にマルコが返ってきた。
何やら浮かない顔だ。
「どうしたの?」
「よく考えれば小さいままなら別にシャワー借りる必要無かったっす」
「あ、ああ、そういえばそうだね」
別段大きい姿が本来の姿で、小さい姿が仮の姿というわけではない。
明日一緒に温泉に、などと言っておきながらそのことがすっかりドワ子の頭からも抜けていた。
マルコもシャワーを浴びている最中に気づいたそうだ。
なんだか似た者同士だと二人して笑いあうのだった。
*****
一夜明けて次の日、ドワ子とマルコは地上への軌道エレベーターの乗り場に来ている。
いくら物理的に可能だからと言って幻獣が直接地上に降りるわけにはいかない。
彼女やマルコの所属はド星であって、地上はいわば外国なのだ。
二人は入国手続きを行う。
「あれ? そちらのマルコさんは……」
「ああ、能力が増えたんです。サイズ調整できるようになって」
証明書に記されているマルコのデータは大きい状態の物だけだ。
したがって、今のにわとり大のマルコとデータが一致しないのはしょうがない。
マルコは、促されて大きい姿に変化する。
「なるほど……今回はいいですが、早めに登録証の更新をお願いしますね」
「はい、すいません」
今回はお目こぼししてくれることになった。
この辺りの扱いは幻獣というのが希少で、どう考えても目立ってしまうという事情もある。
現に、幻獣ファンの間ではそれぞれの幻獣の動向がサイトに適宜アップロードされていたりする。
そういう意味では逃げも隠れもできないマルコなのだった。
係員のチェックを通り、ドワ子と再び小さくなったマルコは、軌道エレベーターの指定席に座る。
移動こそ高速だが、軌道ステーション、地上のそれぞれにエレベーターのゴンドラが複数待機している状態だ。
旅客用のゴンドラは一つで50人余りの乗員を輸送することができるが、ほとんど席は埋まっている。
貨物用のゴンドラとの順番待ちが発生するので出発まではまだ時間があり、このゴンドラは満席になるだろう。
「真ん中の席に座るのは初めてっすね」
「あ、そういえばそうだね」
いつもは大きなマルコがいる関係で、いつも端っこの席を割り当てられていたのだ。
さらに、当然ながら注目を集めるので、ドワ子としてはあまり居心地がよくなかった。
今回は、マルコを膝の上に抱えて中央近くの席に座る。
一目見ただけではぬいぐるみを抱えた少女に見えて、さほど注目を集めないだろう。
ドワ子は狭い座席に座りながら、普段と見え方が異なる軌道エレベーターの様子を眺めるのだった。
軌道エレベーターは、地上にあるエレベーターのように筒状をしていない。
地上から宇宙をつなぐ7本のロープ。
それは外宇宙の技術を使用した決してちぎれないロープだ。
中央に1本、そしてそれを囲むように円周上に等間隔に6本。
軌道エレベーターは円周上の6本を使用する。
登りは2本ずつ使用し、同時に2路線。
下りはかかる力が少ないため1本ずつ使用してやはり2路線。
これらが地上と軌道上ステーションとの交通を担っており、今地上からロケットで軌道上に上がってくることはめったにない。
これはエネルギー効率が段違いなので当たり前なのだ。
もちろん、人知を超越した幻獣であれば、直接宇宙から地上に降りることも、地上から飛び立って宇宙に出ることも可能だろうが、それはあまりにも例外であるし、安全保障の観点からも禁じられている。
マルコはじっとしていることに耐えられなくなったのか、ドワ子の膝の上でそわそわしているが、ドワ子が優しく羽毛を撫でると落ち着いたようだ。
いつの間にかゴンドラは動き出していて、頭上を見るとガラス越しに宇宙ステーションが遠ざかっていくのが見える。
旅客用のゴンドラは、床以外は窓がそれなりの面積を占めており、中にいる旅客に閉塞感は無い。
床も一部は窓になっており、地上が近づいてくるとそこに乗客が殺到し、そして到着前のアナウンスでしぶしぶ座席に戻るのがいつもの風景だった。
ドワ子は人混みが苦手だ。
それは体の小ささから圧迫感を感じることもあるが、一方で周りが人間ばかりであるとドワーフの超パワーで怪我をさせてしまわないか気を遣うということもある。
その意味では、普段マルコが大きい体で周りの注目を浴びて、遠巻きに見られているのが一種の安全装置になっていたのではないか。
今のマルコの大きさと、自分の体格であれば一層注意が必要なのかもしれない。
「なんでもうまくはいかないよね……」
「ん? なんすか?」
「なんでもないよ」
ドワ子は止まっていた手で再びマルコを撫で始め、ごまかすのだった。
しばらくの後、予想した通りの床の窓周りの混雑と、アナウンスでの全員着席という風景が見られたあと、ちょっとした衝撃と共にゴンドラは地上に降り立った。
「相変わらず暑いねえ」
「地面を歩いていると熱気がすごいっす」
今、ドワ子とマルコは軌道エレベーターの地上施設から外に出て道を歩いている。
当然のことだが、軌道上ステーションも軌道エレベーターも地上の自転と同じ速度で動いている。
そのため、その場所は静止軌道上、そしてその直下は赤道である。
季節に関係なく日中は暑いのが当然で、特に小さいマルコにはアスファルトの照り返しがきついらしい。
「抱き上げようか?」
「それも悪いっす。ご主人も暑い思いをさせるのは申し訳ないっす」
確かに、毛玉のマルコを抱き上げるとドワ子の暑さは倍増するだろう。
そんなことは気にしないのだが、それでもマルコがそういう気づかいをしてくれたことに、ちょっと成長を感じてドワ子はうれしくなった。
あたりは熱帯の町。
まだ朝といっていい時間だが、今日はこれから日本に移動して温泉宿に泊まる予定だ。
日本の季節は秋だから、この暑さは一時のものと考えてさっさと移動すべきだろう。
ふとマルコを見ると、彼は近くの噴水で水浴びをしている黒い鳥の方を見ていた。
その鳥は、カラスだ。
同族? 近親種族? の様子が気になるのだろうか?
ドワ子が見ていると、マルコはそのカラスに近づいていく。
ずんずん近づいてくる奇妙な丸い生物に、カラスは戸惑っているようだ。
「カアッ」
マルコも対抗する。
「カアッ、足の数の違いが戦力の決定的差であることを見せてやるっす」
どこかで聞いたようなセリフを朗々と述べる。
確かに、足の数では2本と5本、戦力はともかく足の数は圧倒的に多い。
だが、戸惑ったそのカラスは「なんだこいつ」というように「カアカア」と鳴きながら飛んで行った。
その姿は大きな翼を広げて大空を飛び、そして近くの木の高い枝にとまる。
それを見たマルコは、胸を張りながら帰ってくる。
「勝ったの?」
「当然っす」
「でも逃げられたよね」
「羽根なんて飾りっす、偉い人にはそれがわからんのですっす」
またどこかで聞いたようなセリフを述べるマルコだったが、その声はちょっと悔しがっているようにもドワ子には思えた。
タイトル由来:
というか、全編オチまで含めてガンダムネタでした。




