彼は人気者
地球軌道上ステーション内の宿泊施設は、中継ステーションのそれとは全然違う。
なぜなら、中継ステーションは大半の期間が休止状態であって、多数あるわけだから一つ一つに手間をかけるわけにもいかないのだ。
それに対して地球のステーション、あるいはド星のステーションは常に使われるわけだから手間も費用もかける甲斐がある。
ドワ子はド星のステーションはあまり利用しないが、こちらのステーションは毎回お世話になっており、月に数度はここで宿泊することになる。
今、部屋をとったドワ子とマルコは、一休みののち、ステーション内の商業施設をぶらぶらしていた。
あたりには数多くの店が並んでいるが、そのほとんどはド星の産物やド星を通じて入ってくる外宇宙の産物だ。
にぎわっているそれらの店の客は当然のことながら地球人がほとんどだ。
さすがに片道二週間をかけてド星にまで出向く気にはならなくても、ステーションに上がることぐらいならそれほど難しくはない。
そんなわけでド星以遠の物が手に入りやすいこのステーションの店は、地球人にとっては大人気で、そのために観光客用の宿泊施設もかなりの規模でここには存在する。
一般的な地球の観光客は、ここで様々なものを買ったり、無重力を利用した遊戯施設やリラックス施設に行ったり、宇宙生物や宇宙船を見物に来たりしている。
マルコ自身も、ここに来るとたちまち子供たちに囲まれるぐらい人気で、歩くのも難しいぐらいだったのだが、今は小さくなってドワ子に抱えられている。
動きさえしなければぬいぐるみで通せそうだ。
「ああ、外宇宙製のドライフルーツが……」
「マルコほんとにあれ好きだねえ。でもどうせパピさんのところが下ろしてるんだろうし、向こうで買った方が安いよ」
「そうっすか? それもそうっすね……」
それどころか今回のコンテナの中身もドライフルーツである可能性もある。
確か品目は『食品』だったからありそうな話だ。
だけど、荷主であるパピさんのところは生鮮食品が主力だから、ドライフルーツはあってもつでの荷物だろう。
亜空間収納で品質を保持できるマルコであれば、たとえ足の速い食品であっても対応可能だ。
だからこそ彼のような食品業者から重宝されているのであって、仕事が途切れない理由でもある。
それとなく食べ物周りから足を遠ざけ、ドワ子は客の少ないほうに進む。
歩くうちに内装もちょっとそっけない感じになり、飾りつけなどもほとんどなくなったこの辺りは、業者向けの区画だ。
業者向け、といっても地上とコンテナをやり取りする大規模なものではなく、このステーション内の店や他の軌道ステーションを建設中の工事業者、あるいは出航前の宇宙船の船員などが、道具や消耗品を買い足すためのもので、一般客が門前払いされることはないものの、メインターゲットではない店が並んでいる。
「何か買うっすか?」
「うん、大丸用にちょっと……」
今回は都度外に出てカンテラで位置を示していたが、それでも航行中にこちらの位置を示せないのが気になっていたのだ。
もちろん、他船との接近時はこれまで通りに対応するが、それ以外の場面で真っ黒な塊が移動していても視認性が悪い。
マルコに乗っている時なら、自分自身も外にいるわけで、それなりに注意していられるが、大丸の中ではこれまでのようにいかないので、安全率を高めようということだ。
話を聞いたマルコは納得する。
「大丸のくちばしも光らせられればいいんすがね……まだ無理そうっす」
もちろんマルコのくちばしは光る。
光るからこその黄色なのだ。
多くのカラスはくちばしが体と同色の黒っぽい色だが、白っぽかったり黄色っぽい種類もいる。
その中で、宇宙ヤタガラスたるマルコは黄色いくちばしをしている。
それは宇宙トナカイの鼻が照明のために赤く光るのと同じく、宇宙生物としての性質なのだろう。
残念ながら、その分身たる大丸は黄色いくちばしをしているものの光らない。
それは自分の力が足りないせいだ、と落ち込むマルコをドワ子は撫でる。
「できないことは道具で補えばいいんだよ。私だってお箸を使わないとご飯を食べられないもの」
「なるほど、それもそうっすね」
なぜかその説明でマルコは言いくるめられてしまった。
結局、ドワ子は大丸のくちばしに括り付けられるような点滅ライトを購入した。
電池式で丸2日持つので、ドワ子の仕事には充分だろう。
「あとは……」
ドワ子はふと目に着いたものが気になって近寄る。
「すみません、これってもう少し小さいサイズありませんか?
「ああ、それはもっと大きいサイズならあるんですが、それが最小ですね」
「そうですか……」
彼女が手に取ったのは遮光カーテンだ。
この航海で明らかになったマルコの習性、布で包んで暗くすれば眠れるというのにちょうどいいかと思ったのだ。
今まで使っていた風呂敷では正直ぎりぎりで、しかも遮光性もそんなに良くない。
と、マルコがぴょんと飛びだして、その遮光カーテンをさわさわと撫でる。
「これ、肌触り悪いっす」
「あ、それじゃ結局ダメね」
ドワ子は遮光性と肌触りを両立した素材なんてあるのだろうか? と考えながら店を離れる。
「おや?」
再びドワ子が目についたものは、店の商品ではなかった。
「あの子迷子かな?」
そこには業者スペースに用事があるようには思えないおめかしした少女がいた。
彼女はあたりをきょろきょろしている。
それは店を探しているのではなく、人を探しているのだろう。
ドワ子は彼女に話しかける。
「はぐれちゃったのかな?」
「……うん、お父さんが急にいなくなっちゃって」
少女は不安そうだ。
「それはこの辺りなの?」
「うん、気が付いたらここにいたの……じっとしていた方がいいのか、探しに行った方がいいのか……」
今にも泣きだしそうになる少女に、ドワ子は思わず抱えているマルコを差し出した。
「カアッ、何するっすか」
「わっ、この子しゃべるの?」
「そう、おとなしくしてるから抱いてみて」
言われるまま恐る恐るマルコを受け取る少女。
大丈夫そうだと思ったらぎゅっと抱きしめる。
普段ドワ子に同じようにされたときは激しく反発するのだが、ドワーフの怪力と人間の少女の力では天と地ほどの違いがある。
そのため空気を読んでマルコはおとなしくしたままだった。
「この子、何? スライム?」
さすがにスライムに羽毛は生えていない。柔らかいのは同じだが……あと触ると溶けるのでドワ子が通り魔になってしまう。
「スライムはひどいっす、誇り高き宇宙ヤタガラスっすよ」
「え? でももっと大きかったよね」
どうやらこの少女はマルコを知っていたようだ。
「しょうがないっすね、ちょっとだけっすよ」
ぴょんと飛び出したマルコが、空きスペースに移動すると、ポンと元の大きさに戻る。
「わあ、でぶったカラスさんだ」
「失礼な! 僕は太ってないっすよ」
どうも、地球で出回っている情報ではマルコは『太ったカラス』として認識されているようだ。
短い羽根をパタパタ動かしながら講義するマルコに、なんだなんだと周囲の視線が集中する。
それが良かったのだろう。
「あ、お父さん」
「ああ、良かった、ここにいたのか……」
なんと、迷子の少女のお父さんが騒ぎに気付いて近寄ってきたのだった。
礼を言う少女とお父さん。
ドワ子はよかったわねと返しつつも、この場の混乱をどうしよう? と考えていた。
ここには有名な『太ったカラス』ことマルコがいて、何やらパタパタやっている。
いつの間にか一般向けのコーナーからも人が寄ってきている。
ドワ子は何とかマルコをなだめ、そして小さくしたマルコを抱えて走り出す。
人気者はつらいのだ。
タイトル由来:
すぐ途切れると思ったのですがなぜか続いています。
今回なんかは話を書き終わって思いついたタイトルですが、
『クレヨンしんちゃん』の主題歌ですね。
本日2度目の投稿ですが、重ねてお願いします。
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