火星エルフ刑事
「ふう、これで全部ね」
「かたじけない、先を急ぐだろうに、快く手助けいただいて助かった」
サムライはゲンジウロウと名乗った。
鍛え抜かれた大柄な体で、腰には二本の刀を佩いている。
手伝い、といってもドワ子が手ずからゴブリンの死体を集めたわけではない。
ゲンジウロウが確保したコンテナの隅に、まずマルコの亜空間収納の中身を出し、そのあとマルコが飛び回ってゴブリンの死体を亜空間収納で集めて回っただけだ。
その間ドワ子はコンテナに運び入れられるゴブリンの置き場所を確保したり、崩れないように積み上げるための誘導などを行っていた。
ドワ子は普段あまり宇宙モンスターの死体を扱うことはない。
ほとんどの場合はマルコがビームで一掃しているし、荷物を運んでいることが常なので、討伐報酬をもらうよりも優先すべきことがあるからだ。
それに、メインラインに襲撃があることはめったにない。
個人輸送業者と同様に宇宙をパトロールしている個人討伐業者というのも存在し、彼らによってメインラインは安全が保たれているのだ。
「大したことじゃないわ。じゃあ後の手はずはお願いしますね」
「ああ、確実に振込ませてもらう」
いくらサムライとて、こんな船外にまで財布を持ち歩いているわけがない。
結局マルコの働きを見て2割ということになった討伐報酬の分け前は、額を確認後にドワ子の口座に振り込まれることになった。
「それではお気をつけて、マルコ殿もお世話になった」
「ええ、良き航海を」
「また会ったらよろしくっす」
そして、ドワ子はマルコとその場を離れ、大丸の中に納まった。
「うん、急げば遅れは取り戻せそうね」
「頑張るっすよ」
大丸の中でごろごろ転がっているが、マルコは分身の大丸を操っているので仕事中なのだ。
ドワ子は今日も大活躍のマルコを抱き上げ、優しく撫でてあげる。
*****
「おや? またなんか近づいてくるっす」
突然マルコが声をあげる。
ドワ子は飲みかけの葛湯をマルコに預け、大丸を消してもらう。
「なんだろう? 同業者?」
近づく影は小さいものだ。
ドワ子がするのと同じように光源を振りながらこちらに近づいてくる。
だが、同業者であればくる方向が違う。
地球行きなら後方からだし、地球からなら前方からのはずだ。
側方から近づくのはおかしい。
かといって、盗賊の襲撃ならこのように目立つ必要もない。
相手が近くにやってきて詳細が見えて初めて、ドワ子には相手の正体が分かった。
それは小さな帆船だ。
宇宙で帆船? という疑問はあろうが、この帆船の帆は推進力を得るためのものではなく、相手に自分の姿を知らせるためのものだ。
今は下ろされているそれは、青と黄色のストライプで遠方からでもそれとわかる。
帆が下ろされているということは、今は業務中ではないか、あるいは隠密任務の最中なのだろう。
そしてその帆船の穂先に、一人の人影が灯りを振りながら立っている。
「おおい、ちょっと話を聞かせてもらっていいか?」
呼びかけてくる声に、ドワ子はもちろん承諾の答えを返す。
そして向こうが動く前に、ドワ子は率先してマルコに進路を指示し、その帆船の甲板に着地する。
「でも、こんな火星から離れた場所に来ても大丈夫なんですか?
「ああ、盗賊を追っていたらここまで来てしまったんだ。私は火星宙域警察のレックス・マクシミリアン。レックスでいい」
目の前にいる細身のエルフはそう名乗る。
宇宙の、こんなメインライン近くで見ることは稀な肌の白いほうのエルフだ。
あるいは引きこもりの方のエルフ。
彼らは地球から見えないようにして幻影魔法を使用して隠れ住んでおり、宇宙で見かけることは少ない。
もちろん、その存在は一般地球人を除けば広く知られており、現にドワ子はよく仕事で火星に寄ることがあるので見知った外見だ。
さて、盗賊とやらにドワ子は心当たりがある。
「ああ、もしかしてゴブリンの大群ですか?」
「そうなんだ……ってもしかしてすでに討伐されちゃった?」
「ええ、地球の船団を襲っていたのでサムライが一匹残らず始末しましたよ」
「あちゃー、そうなんだ……これはまた管理局に弱みを握られちゃったな」
「お気の毒です」
もちろん管理局は地球人主体といってもエルフの存在は知っており、裏では密かに連絡を取り合えっている。
共同して活動することはないものの、少なくとも互いの縄張りについては認め合っており、管理局がメインライン周辺とアステロイドベルト全域、エルフ側は火星周辺ということになっている。
今回は、場所的にはメインラインだが、レックスによると襲撃者は火星から逃げてきたということで管轄が微妙だったのだ。
結局、解決したのが地球船のサムライということで、これは後で管理局からエルフに対する貸しの材料となることだろう。
「さすがに黙って……はくれないよね?」
「保安隊が何を言い出すんですか、始末書でもなんでも書いたらいいじゃないですか」
「ごもっとも」
もちろん、個人事業者であるドワ子はそんなものを書いたことは無いが、シルバーバーグ車内でたびたびそういう話を聞いたことがある。
「はあ、一応身元確認させてもらえますか?」
「はい、個人輸送業者のアリエル・シルバーバーグです。こちらはマルコ」
「よろしくっす」
ドワ子は身分証明書を提示する。
「なんと、君が噂のブラック・デス・スターか」
「……なんですか、その物騒な呼び方」
どうも、四天王の一人たるドワ子とマルコは裏の世界ではそのような呼び方をされているらしい。
ただでさえ見えにくい黒くて小さな丸いものから、これも見えにくい真っ黒なビームが飛んで来てあっというまにやられてしまうため、『黒き死の星』『丸い死神』などと呼ばれているらしい。
『ロリコンを許さない死の毛玉』という呼び名もあるが、実際に宇宙空間でドワ子に近づいてくるものがいたらロリコンのそしりを免れないので、ある意味正しい。
ともかく、ドワ子自身は知らなかったことだが、宇宙の盗賊の間ではドワ子とマルコは要注意対象らしく、捕まえた盗賊からレックスもその呼び名を聞いたことがあったらしい。
本人たちの知らないところで妙なあだ名をつけられていて、ドワ子は納得できない、というような顔をした。
一方でマルコは「なんかかっこいいっすね」とかほざいていたので、後で自分では名乗らないように、と注意する必要があるとドワ子は思った。
ともかく、その場はそれきりでレックスは肩を落としながらメインラインを去っていった。
「警察官も大変ね」
「そうっすね」
ドワ子達は再び地球に向けて出発するのだった。
タイトル由来:
『火星人刑事』の最終巻って、出るんですかね?




