other side 1
「面白れぇ!なんだこりゃ!キャハハハ。俺が勇者だってさ!」
「すげぇな!力が溢れるぜ。なんでもできそうじゃん!」
二人がそれぞれの剣を打ち合わせてはしゃいでいる。
他の二人も彼ら程ではないが高揚していると司教は見た。
思ったよりもあっさりと彼らは現状を受け入れているのはいささか拍子抜けではある。
だが思惑通りに行動してくれそうだ。そう確信する。
今ままでの記録でも司教の経験でも異世界より召喚された者は最初は簡単に状況を受け入れないものだ。
思考が柔軟なのか、考えていないのか。
後者よりではないかと司教は思う。短い時間しか観察していないが判断できるものである。
(一人だけ飛びぬけた能力を持っているとか。残りの三人も平均以上の能力があるとなれば贄としては最適だ)
内心ほくそ笑む。
一人だけでも高位の能力持ちが欲しかったのだ。
数年前に召喚した者達は駄目だった。上位の能力は所持していたが少し能力が足りなかった。
最初の壁にぶつかり挫折してしまったのだ。
贄としての役目を果たせなかった。
他の教会では相当な奉仕をしていたというのに。
力を溜めるには時間がかかった。本当に・・長かった。
今回の召喚結果で自分は相当な貢献が果たせそうだ。
後は自分の思うように彼らが行動してくれるだが。
今の様子を見ている限りだと問題はなさそうだ。
自分の背後に控えている祓魔師に声をかける。
「グレイ。彼らの見込みはどの程度かな」
「前回の者達よりだいぶ有望かと。手を血で染めたのに全く変わりませぬ。拙もいずれ殺される覚悟が必要です」
予想外の答えに司教は息を吞む。
祓魔師は教会内でも屈指の実力者で召喚者を除けば相当高位の探索者でもある。
それであればもしかしたらば・・。
「・・最下層に到達できるであろうか」
「今は無理です。望みはあります。ですが勇者一人だけでは無理です。他の三名の進化が必要かと」
「お前に任せて良いか」
「問題ございません。既に浅層には連れて行っております。深く潜っても問題ないかと考えます。少々急がせたほうが宜しいでしょうか?」
「壊れぬならば急がせよ。神命である」
「承知しました」
返事とともに背後の気配が薄くなる。
あの者ならば壊れないギリギリの塩梅で対処してくれるだろう。
心の中で薄暗い笑みをこぼしながら司教は満足する。
今回他の教会には彼ら程能力の高い召喚者はいないと聞いている。
我が協会の貢献が高い事になるのは約束されたようなものだ。
良い結果を認められれば自身の栄達も叶うだろう。
満面の笑みで召喚者達の元に向かう司教であった。