Section 3
目の前が真っ赤になる。
熱風に焼かれ辛うじてブレザーで庇う。
熱い!
燃えたブレザーをコボルトに投げつけ後退する。
もう逃げるしかない。
あんな化け物には勝てない。
全力ダッシュで逃げる。
死なないために逃げると選択肢に違和感を覚えながら走る。
靴音とその反響音を置き去りにする感じでダッシュ。
走る事多分400メートルか。
息が苦しくなり緩めると爪が床をひっかくような音がどんどん近づいてくるのが分かる。
やっぱりか。
逃げきれん。
このままじゃ捕まる。
でも走るしか選択肢が無い。
勝てるイメージが湧かない。せめて武器がないと。
うわっ!
足を踏まれ転んでしまう。
想像以上に早い。
もう追いつかれてしまった。
なんとか受け身を取りながら起き上がるも。
踏まれた足が力が入らずバランスを崩してしまう。
その瞬間頭上を物凄い勢いで何かが通りすぎていく。
振り返るとコボルトが軽やかに着地した姿が見える。
バランス崩してなかったら危なかったのか。
いや、それどころじゃない。
逃げないと。
痛っ!
足が痛い。
コボルトか。
視認ができないけど触ると踵近辺がぐちゃぐちゃになっている感触がする。
折角治ったのに破壊されてしまった。
足が踏ん張れない。
これじゃもう逃げれない。
コボルトに視線を向けると逃げれない事が分かったのかゆっくりと近づいてくる。
・・死後の世界でも怪我をした後に殺されるのか。
既に死んでいるのにまた死ぬ?事を気にしているのがちょっとおかしかった。
今死ぬとどうなるんだろう。
自死ではないからまた違う事になるのだろうか。
・・少し抵抗してみるか。
足が踏ん張れないから殆ど何もできないけど。
貫手で急所を抉るくらいならできるだろう。
ただじゃ殺されない。
利き足が使えないけど片足立ちで対応するしかないか。
息を整えコボルトを観察する。
四つ足の獣。
前足の爪がやばい。多分あの爪で足を削られたんだろう。
口みたいな器官はあまり大きくない。牙のようなものもはみ出ているから噛みつかれる事はないだろう。
だが炎を吐く。広範囲に吐き出されている印象だ。
赤く光る目のような器官からはビームが出るかもしれない。
これまでの常識が適用される相手じゃないから油断はできない、
が、その他の攻撃手段はないだろう。
弱点はどこにある?
生物である以上弱点は必ずある。
これまでの生物の知識が当てはまるならば推測はできる。
問題はそれが合っているか・・だ。
仕方ない。
やってみなきゃわからないか。
気のせいかコボルトの口元が喜んでいるように見える。
自分の優位を信じているだろうな。
見てろよ。・・一矢報いてやる。
覚悟を決めて踏み出そうとした時に。
「勝手に部屋から出ないで。安全な場所じゃないんだから」
声がかけられる。
え?
思わず振り向いてしまった。