プロローグ
思い返しても何もかも上手くいかなかったな。
屋上のフェンスを乗り越えながら思う。
早くから両親を亡くし、数少ない親戚からは所謂・・虐待を受けた。
見兼ねた母の友人に引き取られるも裕福な家庭ではなかった。
それでも学校には通わせてくれた。
だがお世話になるのは高校までと心に決めていた。
卒業後は就職も考えたが空手の才能があったようだ。
同級生に半ば騙されて入部したのだが才能があった事が発覚。
全国大会で優勝する事で大学進学も希望できるようになった。
順風満帆ではなかったが少しでも可能性があるのであれば掴みたい。
努力の甲斐もあり最終学年には優勝できるのではという周囲の期待も高まってきた。
その希望も突如途絶える。
友人が不良に絡まれていたのだ。
そこで怪我をしてしまった。
生死に関わる怪我ではなかったが競技を続けられない怪我を負わされてしまった。
大会までに完治は無理な怪我だった。
自分の将来が厳しい状況になってしまった。
更に追い打ちされる。
とある日の放課後の教室に戻ろうとした時に聞いてしまった。
「それいいの~?そんな事して大丈夫なん?」
「ノー問題。その人達俺の先輩のダチだから。あんな事しょっちゅうやってんだってよ」
「え~、でもあんた達友達じゃなかったん?」
哄笑と共に信じられない言葉が発せられる。
「んなわけないじゃん。最初っから気に入らなかったんだよ。聞けば運動部じゃなかったみたいだから空手部に入れてやったんだよ。先輩達にボロボロにしてもらうつもりだったんだ」
「マジで?でも全国大会優勝できるとか言っていたよ~。あ、それで怪我させたんだ?」
「きゃはは。そゆ事。先輩達上手くやってくれたよ。死んでもらっちゃ困んからな。ははは」
「ワル~!あんたが代わりに出る訳じゃないんしょ?」
「でる訳ないじゃん。俺は近くでヤツの心をバキバキに折ってやんだからよ。自分が世の中の不幸を背負っているとかおもっていんからな。どんな顔するか楽しみだぜ」
頭の中が真っ白になった。
自分にとっては少なくても近い友人であったと思っていた。
今、この話を聞いて合点がいく事が理解できた。
代議士の長男と親のいない素性も怪しい自分と初対面で友人になってくれる事がおかしかったのだ。
思い起こせば彼が近くにいた友人?達は見ていない。皆引きこもるか転校してしまっていたのだ。
思慮深く考えれば分かった事だったのだ。
自分は初めてできた友人に浮かれてしまったのだ。
裏切られた。
・・否。
初めからハメられていたのだ。
不思議と怒りの感情は湧かなかった。
やはりそうかと納得してしまった。
上手くいく事がおかしいのだ。
挫折という表現が自分には一番似合っている。
空手の大会で優勝する。
・・最後の希望だった。
もういい。
疲れた。
フェンスを乗り越え飛び降りればいい。
下は固いコンクリートだ。
頭から確実に落ちれば間違いは無い。
緊張感も無い。
落ちれば良いだけ。
重力に身を任せ落ちる。
・・さようなら。