未来のポチへ。
何処に欠陥があったのかな?
私を作った人はきっとポンコツかそれとも適当に作ったかのどちらか。
私と同じラインで作られた機械は99%ロボットとして、お店とか家とかに引き取られ、残りの1%のうちの99%は品質管理の叔父さんにスクラップにされ初めから作り替えられるか、実はちゃんと動くじゃんってお店とか家への出荷組みに戻される場合がほとんどで、私はどちらにも属さない欠陥があるままこの家にやってきた。
私の欠陥は物を覚えられない。頭の1つがショートしていて壊れている。基礎的な会話とか、動き方とかは初期設定で覚えている。でも、突発的な出来事とかは忘れてしまう。私の中にある欠陥は3歩歩けば記憶がなくなるってところ。
でも、私なりに頑張って今は10歩歩けば忘れるまで成長できた。
私はもともとこの家には家事お手伝いロボットとしてやってきた。値段は車が新車で買えるくらい。
最初のご挨拶。上手くできた。
お茶碗を洗う。上手くできた。
部屋を片付ける。上手くできた。
優しいお母さんは私の頬を触って、毎回いい子っと褒めてくれる。その度に上手くできた。って自分を褒めている。
でも、お母さんの名前は忘れてしまう。
小さな坊ちゃんの名前も忘れてしまう。
お父さんの名前も忘れてしまう。
教えてくれた時は名前を言ってみんなそー。そー。って喜んでくれるけれど、10歩歩くと忘れてしまう。だから、お母さんとお父さんと小さな坊ちゃんとそう呼んでいた。
小さな坊ちゃんとよく庭で遊んでいる。画用紙に私の絵を描いてくれたり、お母さんの目を盗んでは私の身体に絵を描いてニコニコしている。ポチちゃんは、こっちの方がかっこいいぞって手に玩具の鉄砲と頭に折り紙で作った兜を載せて体にクレヨンで色々描いてくれる。
お母さんがお庭に洗濯物を干しに来た時にいつも小さな坊ちゃんは私に隠れるが、いつも怒られている。何で怒られているかは分からない。
こんなに嬉しいのに。
お父さんは良く私に沢山のお話をしてくれる。本当に物知りだ。お酒を飲みながら色んな国に行った事。お母さんとの出会いとか小さな坊ちゃんが産まれた事時の嬉しさとか沢山沢山話してくれる。お酒の酔いが回ると私のお腹にある掃除機からポチも飲め。美味しいからってお酒を入れてくる。次の日私のお腹のホースから赤いワインが出てきてカーペットを汚した時はお母さんが怒っている。今日からお父さんはお酒禁止って怒っている。
私はお父さんの話も、お酒を注いでくれる事も嬉しいんだけどな。カーペットを汚したのは私なのに。
お母さんはいつも私と一緒に夕飯を作ってくれる。小さな坊ちゃんは野菜が嫌いだから細かく切ってお肉に入れたり隠すのがすごく上手。お父さんにはお酒のおつまみになりそうな物を作って健康のために薄味で仕上げている。ポチちゃんこの事は2人には内緒よっていつも言っている。
でも、夕飯では小さな坊ちゃんは野菜に気づくと食べれないって言ってお父さんは味が少し薄いなって言っている。あらっ。なら食べなくて結構って2人のおかずを片付けるふりをする。2人は頑張って食べるって言うけれど、頑張って食べなくて結構です。っとお母さんは畳み掛けて、最後は食べさせて下さいってお父さんと小さな坊ちゃんは食べ始める。とても美味しそうに。
2人にとっては怖いお母さんだけど、本当は凄く優しい事を私は知ってる。
ある日、お父さんとお母さんと小さな坊ちゃんがお話をしている所を見た。3人とも少し悲しそう。
私の欠陥が見つかったってアップデートをすると私を作った会社から連絡が来たって教えてくれた。
私は他のロボット達と同じになるように強制的にアップデートをするようで、発送前の状態になるからお父さんもお母さんも小さな坊ちゃんの事も忘れてしまうようだった。
ポチって名前は私が来た時に頭の後ろにある大きなボタンを押した時に私が話始めたからポチッとと言う意味で名前をつけてくれた。
私は10歩歩けば忘れてしまうポンコツだけれど、お父さんとお母さんと小さな坊ちゃんは大事にしてくれた。
体はそのままで産まれ変わるけど、毎日日記をつけていて良かったって本当に思う。
10歩で忘れるから何度も何度もこの日記を新鮮に読めてしまう。お父さんもお母さんも小さな坊ちゃんもこの日記の事は知らない。楽しい事。幸せな事。少しだけの悲しい事を10歩歩く前に書いてしまう。10歩歩くまでに隠れるのは凄く大変だったけれど、それも楽しかった。ゲームみたいで。
それを今、読み返して未来の私に書いている。
アップデートをした後の私は心配しないで欲しい。本当にお父さんもお母さんも小さな坊ちゃんも凄くいい人。オイルも凄く美味しい。そして幸せだ。
そして、最後に私から私へ。
お父さんとお母さんと小さな坊ちゃんを宜しくお願いします。そして、幸せになって下さい。
過去のポチより。
おしまい。
読んで頂きありがとうございました。