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シュヴァリエ  作者: 大類ちとせ
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はじまり

本当に思いつきですので、変な部分もたくさんあります。どうかスルーして下さい

その剣を捧げるのは、其の命であり誇りである。

その命をくべるのは、彼の願いであり道である。

剣を掲げよ。

走れ、走れ、走れ。

其は人に非ず、其は___。







長谷川兄弟といえば、近所ではちょっと有名なものだった。

家業は歴史のある道場で、都会にあって珍しい純日本家屋。過去の戦禍も奇跡的に免れたため、昔からの佇まいは威厳さえ感じられる。


その家に住んでいる長谷川家は5人兄弟。

長男、次男、三男、その下に双子で5人。

揃って美形なのも話題になる理由だったろう。


長谷川 桃矢は、その長谷川兄弟末の弟だ。

この春、文武両道と名高い付属高校の二年に進級したばかり。

今日は学校行事の関係で午前中のみ。平日の昼日中、すっかり緑色になった桜並木の通りを歩いていく。

その速度はいささかゆっくりである。何故なら、桃矢の視線は前ではなく若干下に。片手に文庫本。

つまり、読書しながらの下校だった。

はっきり言って危険である。

兄達が見たら、それこそ長男の桃衛(とうえ)などは頭に角を生やして叱るだろう。

それでも桃矢には時間が無かった。

手に持っている文庫本は、幼なじみである八坂から押し付けられた…もとい、借りたものである。

なんでも彼が今イチオシのライトノベルというやつで、主人公が異世界に飛んでお姫様を救い、ひいては世界の存亡を懸けて戦う。という王道ストーリー。

既にシリーズ10冊目で、1巻目のときから八坂に勧められて読んでいる。が、自分で買ったことは一度もない。

八坂が勧めてくるので読んではいるが、続きが気になってしょうがないわけでもない。何冊も出版されているだけあって面白いとは思うのだが。

そんなシリーズの最新刊を借りている。だが、購入した本人はまだ読んでいないのである。

八坂は言った。


「僕、委員会あって読まれへんねん。先読んどってええから、僕が家帰るまでに読み終わっといてな」


無茶言うなである。


せめて、朝渡してくれれば夜には返せただろうに。

まあ、それでも、なんとか読み終えようと下校中で歩行中の今も、ページを進めている次第なのであった。


ふと、足を止めた。

何のことはない、歩行者用の信号が点滅していたからだ。

この通りは、さほど大きく無いものの車通りはそれなりにある。

登下校の時間にはたくさんの学生が通り抜ける道だが、今は人通りは少ない。桃矢の隣に1人、近所の幼稚園の園児服を着た女の子がいるだけだ。

信号はまだ赤いが、少女は何だかソワソワと忙しない。

何故かと思えば彼女の視線の先、横断歩道の向こう側で妙齢の女性が朗らかに手を振っている。なるほど、お母さん、か…。

それは確かに早く渡りたいだろう。が、信号は守らなくては。事故になど遭ったら元も子もない。

少女と母親の様子を微笑ましく思っていると、パッと信号が赤から青に変わった。


「お母さーん」


途端に少女が笑顔で駆けていく。

桃矢も歩を進めた。無論、視線は文庫本に戻して、だ。前述の通り、彼には時間がないのだ。


だから、気付くのが遅れた、のかもしれない。

いや、気付いても間に合わなかったかもしれない。

歩行者用とは反対に赤になっている筈の信号に逆らって、猛然と突き進んで来るトラックの存在に。


轟、と呻くような音に視線が文庫本から外れた。

そのときの体験をどう表せばいいのか、良く、スローモーションに感じた。と聞くが、正しくそうだったかもしれない。そうじゃなかったかもしれない。

すぐそこに迫ったトラックのフロント部分。

遠くに聞こえる母親らしき女性の悲鳴。名前を呼んでいる。あれは目の前で停止している少女のものか。

少女は動かない、動けない。

桃矢はただ走った。伸ばした手に少女の園児服。

それを、荒く掴み、力一杯ーーー投げた。


幼稚園年中、5、6歳だろうか…。

多少重い自転車一台分程度。

だが、重さは関係なかった。火事場の馬鹿力というものなのか、少女は良く飛んだ。

見事母親の元まで届いた少女が泣いているのが見えた。受け止めた女性の愕然とした表情も。

ああ、どうか、女性が少女の両目を塞いでくれますように。出来れば両耳も。

恐らく、きっと、間違いなく幼い子供のトラウマになってしまうだろうから。



最初に衝撃。

次いで、目の前が真っ白に染まった。

痛みは…感じなかったかもしれない。

とにかく、長谷川桃矢の意識はそこで途切れた。










あにさま

あにさま あにさま


どうか、


ー懐かしい声が聞こえた。幼い頃からずっと一緒だった。

誰よりも側にいた。いとしいいとしいきょうだい。

おまえは、いま、どこにいる?





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