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やりがい狂いの最期

作者: 理財 学


「君の明日からの新しい仕事は、人命を守る制度づくりだ。心してかかれ。」




やった!

ついに私は、念願の部署に配属された!

面白くもない仕事をしながら、ひたむきに勉強を続けてきた甲斐があった!!










私はある国の官僚で、公衆衛生や保険を司る機関の一員だ。

今まで私は6年間、保険認定の審査と承認を行ってきた。保険の仕事は、お世辞にもとても面白いとは言えず、すぐに自動化されてもおかしくない単純作業だった。おまけに、仕事がとても簡単なため、いくら頑張っても決して評価されることはない。評価されなければ、他の部署から欲しがってもらうこともできないため、異動することもかなわない。

それでも私は諦めず、仕事をする傍ら法律を勉強し、誰よりも保健に関する法律や公務員として守るべき規則に誰よりも詳しくなった。

6年間、報われることはなかったけれど。







そんな私にも、あるときチャンスが訪れた。

我が国に見えざる敵が現れたのだ。

その敵の名はウイルス。どんなに優れた学者よりも賢く、恐ろしい敵だった。


人々は恐れ慄いたが、私はワクワクしていた。

大規模なウイルス対策本部ができれば、異動の可能性があるからだ。異動できれば、こんなつまらない仕事とはおさらばできるし、私は決して諦めない私の情熱を、国を救うために使うことができる。


なんて素晴らしいんだろう。

私の使命は、機械にとって変わられるかもしれない単純作業から、人の命を守ることに変わるのだ。








国内での感染拡大から二週間。案の定立ち上がった対策本部への異動に、私は手を挙げた。

自殺行為だと笑う人もいたけれど、このまま保険の仕事を続けていても私の心は死んでしまう。それなら、一か八かでも勝負に出たい。











そして、私の異動希望は叶い、命を守ることが私の仕事になった。それが最初の場面だ。



いま6月2日だから、もう配属から二ヶ月たった。私は毎日毎日、遅くまで仕事をしている。先月の残業時間は200時間は超えているだろう。普通の人なら耐えられない。

でも、私は違った!今は、毎日が光り輝いていて、充実している!私の仕事は命を守るために医療の仕組みを新しく作り替えていくことで、毎日毎日会議資料を作ったり企画書を作ったりしている。私が素早く書類を作れれば、それだけ救われる命が多くなるのだ。

こんなに素晴らしい仕事はないと思う!なんてやりがいのある仕事なんだろう!

私が学んできた法律の知識は少しも活きなかったけれど、それでも構わない!むしろ、命を守るためなら法律や規則なんか無視していいとさえ思っている!行政はルールに縛られていて、とても動きが遅い。そんな仕組みの中で、力づくで命を守る仕組みを通す!職場の中では睨まれても、国民の「ありがとう」が私の力になった!

私はこれからもなんでもやる!!見ていてほしい!!









でも、私にも一つ悩みがあった。

いつか、ウイルスは終息してこの充実した日々が終わってしまうということだ。

なんて、寂しいんだろう。終息すれば、命は守られる。それはわかってる。でも、なんて…なんて…寂しいんだろう。

こんなことを思うことが、とても不謹慎だなんてことはわかってる。でも、願わずにはいられない。













終息なんかしなければいいのに、と。






























20年後。

S県拘置所監視室。



「主任。交代の時間ですよ。」

「ああ。」

「あれ、主任こいつのモニター見てたんですね。元官僚で、テロリストなんでしたっけ?」

「うん。こいつの死刑ももうすぐだ。」

「あのウイルス騒ぎの終息宣言直前に、新種のウイルスばら撒こうとしたんですよね?」

「そうだ。元医療系官僚の立場を使って、研究所に保管されていたウイルス情報を盗み出し……独裁者の支配するa国に持ち出した。」

「それで、新種のウイルス作らせて、ばら撒いて、50人くらい殺して死刑と。そんな感じでしたよね?」

「そう。幸い感染力は低かったが…それでも50人も死んだ。ウイルス持ってったa国ってのも、こいつのことは見捨てちまって、知らぬ存ぜぬだ。一応WHOもa国内に監査に入ったみたいだが、特に何も見つけられずって話だ。」

「ふーん…a国ってのも何企んでんだかわからないっすね…でも主任、なんでこいつのモニター見てたんですか?」

「こいつ、死刑直前になって、なんか一人でずーっと同じこと言ってんだよ。」

「え?」

「ろくでもねえこととは思うんだが、気になってな。」

「なんて言ってるんすか?」



















「『a国が新種のウイルスを蔓延させる!私を釈放すれば必ず解決してみせる!任せて!任せて!私に任せて!』って、言ってんだよ」

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