都道府県漫才・無自覚な自慢
福井県が単身で登壇
福井「どーも、福井県です。いきなりお隣さん同士で漫才のコンビを組むように言われましたが、ボッチ県の私には死刑宣告にも等しい言葉でした」 会場を見渡す
福井「けれど、そんな私にもコンビを組んでくれる、心優しいお隣さんがいたのです。拍手でお迎え下さい」
フリル付きの衣装で登場する京都府
京都「ご機嫌よう、千年王都・京乃都どすぇ。大阪はんが兵庫はんと組んでしもうたさかい、奈良はんと組もう思たら、和歌山はんと行ってまうし、滋賀はんは三重はんと行ってしもうたさかい、福井はんと一緒にやらせてもろてます」
福井「残り物同士です」
京都「せやけど、この千年王都・京乃都が嫌われてたやなんて、思いも寄らしませなんだわ」
福井「そんなことありませんよ。都さんは魅力的で、みんな気後れしたんですよ」
京都「せやろか? ほなら何で福井はんはこの千年王都・京乃都と組もう思たん?」
福井「都さんとは古い付き合いですからね」
京都「え? そうなん?」
福井「ちょっと酷くありません?」
京都「せやかて宮藤」
福井「福井です」
京都「あら、すんまへん。けど、福井はんとそない長い付き合いがありましたやろか?」
福井「芋粥」
京都「芋粥て、何年前の話ですのん。そない古い話……て、あれ福井はんのとこでしたん?」
福井「藤原利仁の疋田屋敷の話です。食べずに帰りましたよね」
京都「そない古い話、よう憶えてはりますなぁ。ほやけど、それきりとちゃいますのん?」
福井「戦争中、お公家さんの疎開先は福井県でした」
京都「そないアホなこと、あらしまへんて」
福井「陰陽寮の安倍一族が名田庄村に疎開して、それから暫くは若狭地方にお住まいでした」
京都「認めたくあらへんなぁ、若狭故の過ちいうもんを」
福井「それでもほんの五百年ぐらい前の話ですけどね。都さん、まだこんなに小さい頃で」腰より下に手をやる
京都「福井はん、この千年王都・京乃都より年上なん?」
福井「奈良さんの東大寺にお水送りしているぐらいには」
京都「東大寺いうたら、この千年王都・京乃都が産まれる前に建てられてますなぁ」
福井「はい、東大寺が落慶した時も贈り物をしました」
京都「ますます謎やわ。せやけど古いことならこの千年王都・京乃都も負けまへんで。何しろ千年王都やさかいな。
特に賀茂神社は神武天皇の御代からありますのんや。
聞かせて貰いまひょ、福井はんのご自慢とやらを」
福井「自慢と言えるか分かりませんけど、仲哀天皇が氣比神宮にご親拝されたことですかね」
京都「え?」
福井「四道将軍が討伐に訪れた故事から、市の名称が決まったこととか」
京都「産まれる前のことばかりや」
福井「でもやっぱり最大の自慢は、継体天皇の出身地ですね」
京都「……」不機嫌になっている
福井「あれ、都さん、どうしました?」
京都「面白うない」
福井「ええ?」
京都「あんたの話は、面白うない。けどお寺やったら負けへんで。広隆寺は推古天皇の頃の創建や」ドヤ顔
福井「流石にそこまで由緒のあるお寺と言われると、聖徳太子が創建した馬居寺ぐらいですかね。多分、都さんの方が古いです」
京都「面白うない」
福井「そ、それじゃあ、都さんの好きな食べ物の話をしましょう」
京都「食べ物? せやなあ、鯖寿司が好きやなぁ」
福井「鯖街道でよく運びました」
京都「なんやの、また福井はんの自慢話?」
福井「そんなつもりは……」
京都「ほなら、おぼろ昆布が好きやわ。あの口の中に入れた瞬間に、フワーッと溶けるような舌触り、ほんま至福の時やで。福井はんには分からへんやろけど」
福井「……福井県敦賀市で作ってます」
京都「嘘やろ。ほ、ほなら庶民的やけどお稲荷さん、全国消費金額第二位の油揚げなら……」
福井「福井市が不動の一位です」
京都「な、なんやの、このいけず。福井はんのいけず。もう知りまへん」ぷいっとそっぽを向いて眼鏡を掛ける
福井「都さん、機嫌を直して下さいよ」
京都「つーん、千年王都・京乃都の眼鏡に適うお人やなかっただけのことどす」
福井「都さん、眼鏡がよく似合ってますよ」
京都「褒めても何もあらへんけど。ええ眼鏡やろ? これな、材料に京銘竹を使てるんや。凄いやろ」
福井「はい」
京都「こういう高級素材は高貴な家柄やないと似合わへんのや。加工した職人の魂の息遣いまで聞こえて来そうやわ」
福井「あの……、それの加工は福井県鯖江市です」
京都「またぁ? もう福井はんとはやってられんわ!」
福井「そう言わずに、このへしこで堪忍」
京都「へしこどすか? 大好物やわ。ぶぶ漬けでよろしおすえ?」
福井「あ……、帰らせてもらいます」
京都「ぶぶ漬けで、へしこ……」
福井「帰ります」
京都「福井はんのいけずぅ」
福井「いけずと言われても……。じゃあ、都さんにぶぶ漬け出しましょうか?」
京都「実家に帰らせて頂きますわ」
福井「もう、いいです」
両者「どうも、おおきに」一礼して終了