⑧
天に向って突きたてるかのように鋭くとがった大きな岩肌の峡谷に囲まれたラーンズの谷
外界から巻き上げられラーンズの谷に降りかかる砂を
まるで跳ね除けているかのように上空では激しい風が吹きすさび、
雲が忙しそうに天空を行き来している様子をランルーサは村から少し離れた森の手前の小高い丘の上にある一面色とりどりの草花が咲き誇っている牧草地帯の草原の上に体を横たえながら空を眺めていた。
ランルーサはいつもは腰の上辺りまで伸びた髪を一つに結い上げて頭の上に巻きつけ髪留めでとめている髪を全てほどいていた。
幼い子供だった頃の面影はまったく消え、
今では少年のような格好はやめマントの代わりに
ショールを肩にかけはおり、ズボンの代わりに足元まである長いスカートを履いていた。
ただ変わらないのは、スカートの上からは腰ベルトをつけ
腰ベルトには常に祖父から譲り受けた短剣をつけており
小さな布袋がベルトに縫い付けられて
そこにはさまざまなものを詰め込んでいた。
ランルーサは寝る時以外はいつも腰に付けて歩いていた。
そして胸元には長くて丈夫な紐が首にぶらさげられていて常に服の中に隠されて服の外にその紐がでていることはまずなかった。
その紐の先端には何を付けているのか知っているのかを知るのは彼女以外では彼女の祖父と幼馴染のダーイの二人だけだった。
「いつ見ても不思議なのよね。空ではあんなに風が吹いて砂が舞っているのにここではそよ風一つふいていないなんて」
「そうだね、風も自分で起こさないと吹かないもんね。俺なんかようやくそよ風程度だよ」
そう言って隣に座っていたダーイが右の手の平を上にしてフウーっと息を吹きかけるとダーイの手の平の上で小さな竜巻がおこり、ふわっとした優しい風が二人を包み込んだ。
「あら、それだけでもたいしたもんじゃない。私なんかまったくできやしないわ。守り石があっても、才能がないのかしら」
ランルーサも同じ仕草をしてみせるが、竜巻どころか手の平の上では何も起こらなかった。
「でもここは不思議な場所だよね。雨だって一年に数回降るだけなのに、草も花も木も生き生きとして生気に満ち溢れえている。それにどこから湧き出てくるのかわからないけど、いつも川の水はかれることなく流れているし」
「そうよね、外界は土地が乾いて草木も生えない死の場所なのにここは緑があっておいしい空気と水、あらゆるものが生命に満ち溢れている。どうしてここだけはこんなに穏やかなのかしら」
ダーイとランルーサは遥か遠くに見える高い峰の山に視線を向けて言った。
「ランルーサ、それはリーマ様達巫女が祈りの塔で神カーリに祈りを捧げているからじゃよ」
鼻を摘んだ顔のダーイがニコニコ笑って言った。