④
一人で洞窟の中に入ってきたランルーサは真っ暗闇の中一人洞窟の奥へと歩いていた。
目に見えるのは暗闇の幻覚がみせる恐怖の幻覚、
そして耳に入ってくるのはおぞましいおたけびのような不気味な風の音、
けれどランルーサは立ち止まらなかった。
どれだけ歩いただろうか、目の前に幻覚は消え薄ぼんやりと青い光が見えてきた。
それまで真っ暗だった場所が急に視界が明るくなってきた。
「あったわ、あれが伝説の蒼い石ね」
ランルーサは駆け出してその蒼白く光石のある場所まで近付いた。
その石は洞窟の突き当たりの小さなくぼみのある岩の隙間から光を放っていた。
その岩はまるで大きな竜の口の中に収められているかのように
その蒼い石を守るかのように尖った岩肌がむき出しになっていた。
ランルーサはその石に手をかけようとしたその瞬間
蒼い光がまばゆく輝きを増し、光ったかと思うとその石から一人の男が姿を現した。
その男は右手に大きな剣を握っており、
剣からはポタポタと赤い血が滴り落ちていた。
その先に視線を落とすと、無数の骨が散乱していた。
ランルーサは一瞬後ずさったが手の平をギュッと握りしめ、
目の前の黒髪の大きな騎士を見上げた。
「私にその蒼い石を譲っていただけないかしら? 私は守り石を生まれた時に忘れてきちゃったから持っていないの、守り石がないとこの谷からは生きてでられないと聞きました。だから、私には石が必要なの。ただとは言わないわ。私の宝物をあげる。だから」
「お前の宝物だと?」
「はい、私は宝石や金貨みたいな宝石は何も持っていません。だからこの髪を差し上げます。私の金の髪は生まれた時からのもので聖なるものです。私に差し上げることができるものはこれしかありません」
「どうか私の髪とその石を交換していただけないでしょうか?」
ランルーサはそう言うと、後ろに束ねていた髪をほどき、
前に手繰り寄せ両手で持ち自分の持っていた短剣で髪をばっさり切るとその騎士の前に差し出した。
「確かに金の髪とは聖なる物、こやつらのように盗人ではないようだ。だが…それだけではこの蒼い石は譲れぬ。この石はカーリ様からの預かり物。正統な蒼の石の継承者でなければこれは譲れぬ」
「蒼い石の継承者…」
ランルーサは暫く考え込んでしまった。暫く考えてからこう答えた。
「守り石は瞳と同じ色をしていると聞いたことがあります。私の瞳の色はあの蒼の石と同じ色です。私は生まれた時守り石を握っていなかったって聞いています。それは、これに出会う為だと思うんです」
「娘よ、確かにそなたの瞳はこの石と同じ色、ならばそなたの形を映す瞳の蒼をカーリ様に捧げる覚悟はあるか? この石はカーリ様が人であられた時に共に生き、全てを見てきた聖なる石、そなたにはそなたの髪と右目を捧げる覚悟はあるか?」
「私の右目…」
ランルーサはその男の申し出に固まってしまった。