②
「ランルーサ、やっぱり帰ろうよ~危ないよ」
ダーイは右手に持ったたいまつの火を震える手のひらで前方を照らしながら真っ暗な洞窟の中を進んでいた。
空いた左手はどんどん進んでいく幼馴染のランルーサのマントをなんとか掴んで震えるか細い声でささやいた。
「もう! あんた男でしょ! ようやくこの場所を見つけたんだから私は絶対蒼の石を手に入れるのんだから。帰りたいならあんた一人で帰りなさいよ」
ランルーサは後ろを振り向きもせず言い放った。
「そっそんなこと出来るはずがないだろう。ぼっ僕一人だけで戻ったら、よけい母ちゃんにどやされるよ」
「じゃあ今日は私とは遊んでいなかったとでもいっとけばいいでしょ。森で迷っていたって適当にいいわけぐらい言えるでしょ」
「駄目だよ~。だって今朝村を出て森に入る時、風車小屋のギル爺さんに見られただろう。どこに行くんだ~って聞かれたじゃないか~。ねえ、もうあきらめてまた別の日にもっと早起きしてくればいいじゃないか、場所がわかったんだから。聞いているのルーサ」
ダーイは震えながらも必死でランルーサを暗い洞窟の外へ引き戻そうと、ランルーサのマントを引っ張り続けた。
「もういい加減にしてちょうだい。私は今この中に入りたいのよ。昨日から探し回ってようやくみつけたんだから、今日しか私には時間がないの。あなたも知っているでしょう」
ランルーサはダーイの手を払いながら彼を睨みつけた。
「ルーサのおじいがリーマ様に呼ばれて二日間いないからだろう。知っているよ。だけどかあちゃんも言っていたじゃないか、森の中にある洞窟は呪われた場所だからもし見つけても絶対入っちゃ駄目だって」
「アイリおばちゃんは知らないだけなのよ。私夢をみたんだから、この奥に暗闇でも光る蒼い守り石があるのよ。それを持っていると風の声を聞けるんだから」
「風なら守り石なんてなくても起こせるじゃないか、僕らは緑の民なんだから、風を呼ぶことは修行したら誰だって簡単に出来るっていうじゃないか。そりゃあ僕はまだできないけど…」
「もう! わかってないわね。私が言っているのは遥か昔緑の民をこのルーアルーアの楽園に導いたとされているカーリが残したとされる彼の守り石のことよ。カーリは私達以外はもうこの世に人間は存在しないって言われたって言い伝えにあるけど、私は信じないんだから…きっと何処かに私達と同じ人間がいるはずよ。大地の神が手にしていた守り石ならきっとその居場所を知っているはずなのよ。だから、蒼の石をどうしても私の守り石にしたいのよ。この世界にいる全ての民を一つにしてもう一度失われた絆を取り戻したい。ここに絶対カーリの守り石があるはずなのよ。私の守り石にして、私は世界を旅するんだから」
「でっでも…ルーサも知ってるだろう。ここは緑の民が住むルーアルーアの楽園で、都に行けばたくさん人がいるけど、ここはルーアルーアの楽園でも端とされている辺境の場所。あの死の山を越えれば、見渡すかぎりの乾いた砂と灼熱の太陽の光だけ…もうこのルーアルーア以外に生き物なんていないんだよ。今までだって何度も屈強の騎士たちが捜索に砂漠に出て行ったけど何もなかったって」
「探し方が悪いのよ。私が大人になることができたら、私が自分の足で探しにいくんだから」
「そんなの無理だよ」
「無理じゃないわ。それがだめなら、砂の雨だけでも何とかする風を起こす力を付けてみせるわ。
あの砂さえ降ってこなければ、みんなだってもっと植物を育てることができるはずなんだから」
「そんなの僕らだけじゃ無理だよ。みんなも言っているじゃないか、砂漠が忍び寄ってきていても、僕らの時代じゃ滅びることはないって」
「未来はわからないってことでしょ。次の世代も続く世界にする努力をすることが今を生きる私達のすべきことでしょ。ただ、待っているだけじゃ何も変えられないわ。私は嫌なのよ。何もできずに死をまつだけなんて」
「僕だって嫌だよ、ルーサが大人になれないのは、だけど、今無茶をして何かあっても大変じゃないか」
「あんたは他人ごとがからそんな悠長なことがいえるのよ。私には時間がないのよ」
ランルーサは消え入りそうな声で言った。
その声はダーイには届いていなかったようで、ダーイは更に続けた。
「そっそれに、蒼い石に触れると、体から何か一つ奪われるっていうじゃないか、ここに入って生きて帰ってきた人間はいないってみんな言ってるよ。やっぱりだめだよ~今ならまだ大丈夫だよ」
そう言いながらダーイはランルーサの腕を力任せに引っ張ってなんとか洞窟の外にランルーサを引き戻そうとした。
ランルーサは引っ張られるまま一度洞窟の外にいったん戻った。
その瞬間安心したのかダイーイが掴んでいたランルーサの腕を放した。
するとランルーサは腕を組んでダーイを睨みつけた。
「もういい加減にしないと本気で殴るわよ!」
外のまぶしい陽ざしに一瞬目を閉じたランルーサだったが、大きなため息をつくと、
再び仁王立ちのように両手を腰にあてダーイを睨みつけた。