7、商業ギルド
クリスマスイブはお仕事です。
今晩は夜勤を頑張ります。
商業ギルドは南地区の貴族街よりにある。見るからに立派な建物だ。入り口では身分証を見せた。今回は特に何も言われなかった。
受付には多くの窓口があった。こうやって見ると獣人も結構いるのがわかる。受付の3割ぐらいが獣人、そして街中では見かけなかったドワーフやエルフもいる。
どこの窓口に並ぶか迷っていると一人の女性職員に話しかけられた。
「お客様、今日はどのようなご用件でしょう」
「ギルドへの新規登録と素材の買取と宿の紹介をお願いしたくてまいりました」
「身分証を拝見してもよろしいでしょうか」
「はい、どうぞ」
身分証を見ると納得したようにこちらを向いた。
「確認させていただきました。わたくし副ギルドマスターのレイナと申します。こちらへどうぞ」
そう案内されてカウンターでなく応接室のような個室に案内された。
「こちらで少々お待ちください」
レイナさんが出た行くのと入れ替わってお茶と菓子が運ばれてきた。
新規登録ってこんなに待遇がいいのか?そう思っているとレイナさんが50台ぐらいの男性を連れて戻ってきた。
管理職という感じの男性だ。
「タカシ様、よくいらっしゃいました。ヤリズ商業ギルドのギルドマスターのケビンです」
新規登録ってギルドマスターの面接があるの?
「精霊の街のアウトドアショップからタカシ様が訪れるかもしれないからと連絡をいただきお待ちしていました」
え、そうなの?何で私なんかを待っているの。
「大変に能力の高い方と聞いております」
はあ、何かの勘違いじゃないかな。魔力量と魔力の属性が多く、防御力が高いだけ・・・だよ。
知力が高いのを知られたかな。商業という事でそこを注目された?
「創造神様からも神殿にタカシ様に協力するように神託が降ろされています」
「ぷうっー」
飲みかけのお茶を吹きだしそうになった。
「私のことをどのように聞いているのですか?」
「停滞しているこの世界に変革をもたらす方だと」
「いや、そんなの無理ですよ」
「大丈夫ですよ。あ、登録はこちらの書類に記入をお願いします」
書類を書いてギルドマスターと会話しながら待っていると商業ギルドの登録カードが持ってこられた。
「これで登録は完了です。早速どこかにお店でも出しますか?」
「いや、拠点はどこかに置きたいと思っていますが基本自転車で旅をしたいので」
「自転車ですか。精霊の街で使われていると聞いていますがこの街ではまだ見たことがありませんね。王都で一回見ただけです」
「そうですか。あ、素材の買取と宿の紹介をお願いしたいのですが」
「わかりました。素材はどういう物でしょうか?」
「魔物や獣の素材を持ってきました」
「それはどの程度の量ですか。どこにありますか?」
「収納のザックに入っています。量もそれなりにあります。まだ解体していません」
「高価な収納道具を持っているのですね。では裏の解体倉庫にご案内しましょう。私もぜひタカシ様の獲物を見てみたいと思います」
「はい、よろしくお願いします」
解体倉庫に着いた。どの獲物を買い取ってもらうか考える。
飛竜1体とビッグボア4体とホーンラビット6体とオーク3体と7頭のフォレストウルフと3頭のフォレストボアが収納に入っている。
飛竜以外は結界に突っ込んできて首や頭にダメージを受けて死んでいる。どれも外傷は見れない。
事前に買取価格を無限図書館で調べておいた。ハンターギルドより商業ギルドの方が高い。さらに工房に持ち込めばさらに高く買い取ってもらえる。
ただ、工房によって欲しがる素材が異なるので利害の一致する工房を見つけるのは大変だ。
そういう面から今は商業ギルドで買い取ってもらうの最もいいと思う。ぼられなければ・・・・。
初めての相手だ。信用できるかはわからない。1種類ずつ見てもらう事にした。まずはビッグボア、体長3mの猪型の魔物だ。
今回の4体のビッグボアのうち一番小さい個体だ。
「まずこれから」
「は、はい査定させていただきます」
ビッグボアは1体あたり金貨7枚、70万ガレだった。
ただし、買取の時には一割の税金がとられる。他で買い取ってもらった時も同様に納税義務が発生する。
工房で買い取ってもらった時には自分で役所に行き納税しなくてはならない。罰則も厳しいらしい。
手取りは63万ガレか。
「この1頭が70万ガレですか」
「申し訳ありません。これが査定結果からの買取の限界ですので・・・」
査定を行った職員が申し訳そうに答えてくれた。
「いや、思ったより高額だなと思いまして。もっと安いと思っていました」
私の調べた結果ではハンターギルドで45万ガレ、商業ギルドで54万ガレ、工房で60万ガレというふうに見積もっていた。
「はい状態がよいので高く査定をさせていただきました。具体的には時間停止の収納に入れてられたのでほとんど劣化が見られません。あと下手に解体していないのもいいですね」
「解体すると値が下がるのですか?」
「はい、上手な方の解体だと値が上がりますが野外で専用の解体道具もなく解体すれば値が下がります」
「そうですか」
「そして劣化していない血もあり毛皮も傷がないのも高評価です」
「解体の時には血抜きをしますよね」
「はい、しかし血も高価な素材です。ここなら専用の容器に回収できます。解体していない場合は時間停止の収納がなければ確保できません」
「そうですか」
解体の仕方も学ぼうかな?解体できる魔法があれば便利だな。
今回はもう1体ビッグボアを買い取ってもらったこちらは76万ガレだった。
適正な価格で買い取ってくれることが判り安心した。あとから聞いた話では大物の場合は査定職員は3人が別々に査定を行い話し合うのだという。
「では次はホーンラビット4体です」
「はい、ではこちらに」
ホーンラビットは角付きの兎だ。角と毛皮に価値がある。肉と血と体内にある魔石なども大事な食材や素材だ。
今回のホーンラビット1体当たり6万ガレと私の予想より2万ガレも高かった。
結界にぶつかったから外見ではわからないが角が痛んでいるのではないかと思っていた。だから標準より1万ガレほど安いのではと考えていた。
しかし、角などぶつかった部分を傷めずに魔物を屠る結界ってすごく優秀?
4体合計で24万ガレ。
次はオーク2体を査定したもらう。こちらは72万ガレと85万ガレだった。
2体とも体長3mで見た目が変わらなったのに値段に差が出た理由を説明してくれた。どうやら魔石の大きさが違うらしい。
解体前から魔石の大きさがわかるってすごいな。
体長2mのフォレストウルフは5頭で30万ガレ、体長2mのフォレストボア2頭で15万ガレになった。
一般の魔物の方が獣より大きさの割に高い。ここまでで372万ガレだ。
「もう1体大物があるのですが」
「まだあるもですか。凄いですねタカシさんの腕も収納も」
腕でなくて偶然なのだけどね。収納は確かにすごいかも。
「その大物は?」
「飛竜です」
「え、飛竜って」
「はい、飛竜です」
「一人で倒されたのですよね」
「はい」
「飛竜って上級ハンターが10人がかりで倒す相手ですよ」
「え、そうなのですか」
「どうやって倒したのですか?これは訊いてはいけなったですよね」
「いや問題ありません。魔法銃で頭に一発でした」
私が魔法銃を持っていることを知らせておいた方が私へ干渉しようとする者への抑止力になるだろう。
「貴重な魔法銃を持っていらっしゃるのですね。では査定を行いますので出してください」
「はい」
魔法銃って貴重なんだ。そう言えば図書館で武器の事は調べていないなあ。
飛竜の査定には時間がかかった。飛竜以外は買取手続きを終了し372万ガレから税金の1割を引いた334万8千ガレを受け取った。
この内330万ガレは商業ギルドにマネーカードを発行してもらいそちらに入金してもらった。収納があるからそちらに入れてもいいのだが金貨33枚は重いよね。
これでも収納には21万ガレぐらいの硬貨が入っている。
あれ、飛竜の査定を行う人が増えてきた・・・?
商業ギルドの職員以外の人もいるよ。雰囲気としては役人かな?
しかしあまり遅くなると宿が取れなくなってしまわないかな?
そのように心配したら商業ギルドに来た目的を聞いてくれていた副ギルドマスターのレイナが話しかけてきた。
「タカシ様は宿をお探しなのですよね」
「はいそうです」
「査定にまだまだ時間がかかりそうなので先にご紹介しようと思うのですが。部屋を確保した方がいいでしょうから」
「お願いします」
「どのような宿をご希望ですか?」
「中級程度の、治安と衛生がよい所を希望しているのですが」
「そうですか。それでしたら私の実家が経営している宿はいかがでしょうか?初めての方には貸さない予備の部屋もありますから必ず部屋は確保できます。1泊食事なしで2000ガレです」
「それではお願いします」
「わかりました。連絡を入れておきますね」
結局、飛竜の査定には3時間ほどかかった。3時間のうち半分の時間は会議を行っていたようだけど?
査定が終わると会議室へ場所を移した。
「お待たせしました。この度はすばらしい飛竜を査定させていただきありがとうございます」
「いえ、どういたしまして」
「このような傷の少ない飛竜が納品されることはありませんのでハンターギルドと領主と商業ギルドでの買取にさせていただきたいと思います」
商業ギルドの職員以外の人はハンターギルドの職員と伯爵領の役人らしい。
「それで金額ですが6800万ガレでいかがでしょう」
「はい問題はありません」
飛竜は竜種の中でも多く安いと聞いていた。せいぜい4000万ガレというところ思っていたのだが。
その後聞いた話ではこの金額には1000万ガレの討伐報奨金が含まれているとのことだ。
だからどこで倒したか訊かれたのか。
お読みいただきありがとうございました。
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