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第30話 『レトロゲームで遊ぼう!』③


「わあっ!」


 通されたリビングにある大型の4Kテレビにフランチェスカは目を輝かせる。


「すごい……こんなおっきいのはじめて……」


 ほぅっと溜息を漏らす。


「フランチェスカさん初めてだったんですね」

「や、あの二人とも、そのセリフはなにか語弊(ごへい)が……」

「? 何を言っているんだ。弟よ」

「そうよ。なに言ってんのよ。そんなことよりさっさと始めちゃいましょ!」

 

 一郎がゲームのセッティングを始める。


「それなんですか?」


 フランチェスカが指さしたのは小さな黒い箱状に赤、白、黄の端子が並んだ物だ。


「これはコンバーターといって、アナログ信号をデジタル信号に変換するものなのです。このテレビはデジタルなので、このゲーム機ではそのままコードを繋げても映らないんですよ」

「なるほど、例えるなら変換プラグみたいなものね。日本のプラグだと海外では合わないし」「ザッツライト! 実に分かりやすい例えです」


 コードを繋げ、フランチェスカがソフトを入れようとした時、一郎が止めた。


「待ってください。これを始めるにあたって、儀式があるのです」

「ぎしき?」

 

 キョトンとするフランチェスカからソフトを受け取ると、息を吸い込んでソフトの端子にふーっと吹き込む。


「行くぞ! パイルダーオォォーン!」


 ガチャンと音を立てて差し込み、電源スイッチを入れる。

 ブゥゥンとモーター音を上げ、テレビにホーム画面が軽快な音楽とともに現れた。


「この瞬間が至福の時なんだよな……」

「それメーカーとしては推奨されてないやり方だってネットに書いてあるけど……」と次郎。

「なっ、なに! そうなのか!?」

「うん。ほら」とスマホを見せる。


『カセットの端子部分に息を吹きかける行為はサビによる故障に繋がります。別売りのクリーナーをお買い求めください』


「なん……だと? じゃあ俺は今まで間違っていたのか……?」

 

 わなわなと弟のスマホを持ちながら両膝をつく。

 

「大事にしていたつもりが、逆にキズつけてしまっていたのか……?」

「ねぇ、そんなに落ち込まなくてもいいじゃない。“悲しむ人は幸いだ。その人は慰められるからである”(マタイ伝第5章4節)と聖書にもあるわ。ゲームやってスカッとしましょ!」

「フランチェスカさん……」


 ゴシゴシと涙を拭ってコントローラーを手に。

 

「やりましょう!」

「…………」

 

 この時、次郎はゲームやるだけなのに、なぜここまで壮大な話になるのだろうかと思ったと言う。

 このゲームのルールはキャラを動かして爆弾を置いて爆発させて相手のキャラを倒すという単純(シンプル)なものだ。

 シンプルではあるが、その分奥が深い。


「わっわっ! またやられた! あーもう最悪!(ロ ケメ ファルタバ)


 フランチェスカが悔しさを露わにする。


「このゲームはただ爆弾を置けば良いというものではなく、非常に戦略が問われるゲームなのですよ」

「中には自分が置いた爆弾で身動き取れなくなって自滅しちゃうパターンもありますからね」


 生き残ったふたりが一騎討ちしながら解説を。最終的にはやはり熟練のゲーマーである一郎に軍配があがった。


「どうしますか? 別のゲームにします?」


 一郎が聞くと、見習いシスターはぶんぶんとかぶりを振る。


「もう一回! 勝つまでやるわよ!」


 涙目でぷくーっと頬を可愛らしく膨らませる。

 その可愛らしさに一朗は見とれ、自分が負けたことに気付くのに数分の時間を要した。


 

「やった! 勝った!」


 コントローラーを手にしたままフランチェスカがガッツポーズ。


「このゲーム飽きてきたから他のゲームやりたいな」

 

 がさがさとソフトの入った箱を漁る。と、その中で一際大きいソフトがあった。


「このソフト、他のソフトより大きいけど?」

 

 取り出したのは通常のソフトの2倍はあるものだ。


「おまけに色が黒い」

「フフフ……これを見てください」


 じゃん! と一郎がテレビの下から別のゲーム機を取り出す。


「え? それってスーフ〇ミじゃ……ていうかでかくない!?」


 それはスーフ〇ミを二段重ねたようなものだ。


「サテラビ〇ーと呼ばれるもので、BS放送による衛星データ放送サービス配信のゲームが遊べたんですよ。言わば現在のゲーム機のダウンロード配信の走りのようなものですね」

 

 もちろん、ソフトでも遊べますよと付け加える。

 

「当時としては画期的だったのね」

「はい! ですが、あまりにも画期的過ぎて普及には至らなかったんですけどね」

「まさに早すぎた名作ね。他にはどんなのが?」

「そう言うだろうと思って用意してきました」


 次はかつて、二大メーカーが競ったことで有名なふたつのゲーム機だ。


「あ、これ知ってる! プレ〇テの初代とセガサ〇ーンでしょ? あたしソ〇ー派!」

「おやおや? おやおやおやおやおやおや。フランチェスカさんはそっちのほうでしたか」

「どこの黎明卿(れいめいきょう)だよ。兄ちゃん」

 

 一郎はくるりと背中を向け、両手を水平に伸ばす。


「知ってのとおり、SE〇AはS〇NYに(やぶ)れました……ですが、この世は弱肉強食。淘汰(とうた)の末に生き残るのはいつの時代も強いものが勝つのです……しかし!」


 がばっと振り向く。


「しかし! だからと言って競争に敗れたものや旧いものをつまらないものだと決めつけてはいけない! 確かに今のゲームはハイクオリティで美麗なビジュアルへと目覚ましい進化を遂げている……!」

 

 ごくりとフランチェスカの唾を飲む音。


「ですが、今あるゲームを作り上げたのは他ならぬ歴代のクリエイターたちが並々ならぬ努力で積み上げてきたからこそなのです! ゲームを作るにあたって一番大事なことはなにかわかりますか?」


 息を吸って呼吸を整え、さらに続ける。


「“愛”です。“愛”ですよ。フランチェスカさん」


 うんうんとフランチェスカが涙目で何度もこくこくと頷く。


「いや、だからどこの黎明卿だよ!」


 †††


「今日は本当に楽しかったです! また来てもいいですか?」

「フランチェスカさんならいつでも大歓迎ですよ!」

 

 にっこりと喜色満面で別れを告げる。


 外はすっかり暗くなっていた。街灯の下を二人は歩く。


「あー楽しかった! たまには昔のゲームも良いものね」

「そうっすねー。今のゲームにはないドット絵が温かみがあって人間くさいというか……」


 安藤がはたと気付く。


「そういえば、今日マザー教会来るんでしたっけ?」と横を見る。だが、彼女は固まっていた。次に安藤の手首を握る。


「お願い。あたしの残機(ざんき)になって……」

「イヤイヤ! 無理ですって! 確かに誘ったのはこっちですけど……」

「一緒に来てくれるだけでいいから!」

「そんなケンカした近所の子に謝りに行く感じで……!」


 結局、このあとマザーにこっぴどく叱られた。


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