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第30話 『レトロゲームで遊ぼう!』①


「――さい。――起きなさい。目を覚ますのです」

「う……?」


 涼やかな女性の声で俺――冴木和翔(さえきかずと)は目を覚ます。


「ここ、は……?」

「やっと目を覚ましてくれましたね。勇者カズトよ」


 見ると、玉座らしき豪勢な椅子にその声には不釣り合いな女――いや、幼女が悠然と座していた。

 

 誰だ……? いや待て。この子さっきなんと言った? 勇者と言ったか?


「あんた誰だ?」

 

 そう問うと、幼女ははぁーっと深い溜息をつく。


「ホント、最近の高校生って口の利き方がなってないわね。せっかくこのあたしがトラックに轢かれたアンタを異世界に招待しようとしてんのに……」

「お、おい。そりゃどういう……痛ぅ!」


 このワケのわからない空間に連れ出される前の記憶が脳を激しく揺さぶる。


 ――そうだ。俺はあの子を助けようと道路に飛び出して……


「やっと自分が死んだことを思い出したようね。さっそく用件に入るけど、アンタはこれから勇者として魔王討伐の旅に出てもらうわ」

 


「つまんなーい」


 聖ミカエル教会――見習いシスター、フランチェスカが務める教会の礼拝堂にて、彼女は読んでいた文庫本をぽいっと安藤に返す。


「最近のラノベってこんなのばっかじゃん。みんな示し合わせたかのように色んなところからそれっぽいものを取り上げて、それっぽいストーリーに仕立てて、トラックに轢かれてそれで異世界へバイバイだもん」

「そんな身も蓋もないこと言わないでくださいよ。実際それで成功してて、面白いラノベもあるんですから……」


 腰かけている長椅子の隣で寝そべる見習いシスターにそうフォローするが、彼女はどこ吹く風だ。


「あの、フランチェスカさん。そんなごろごろしてて良いんですか?」


 今日は休みではないはずだが……。


 だが、シスターであるフランチェスカはふふんとのけ反る。


「“神の安息に入った者ならば、神がご自分のわざを終えて休まれたように、自分のわざを終えて休んだはずです”(ヘブル人への手紙第4章10節)」


 頭の後ろで両手を組んだままのたまう。


「たまには息抜きも大事よ。扉には『休業日』の札をかけてあるし」

「そんな飲食店みたいな……」

「そんなことより、なにか面白いのないの? うちにあるゲームはやり尽くしたし……」


 ごろりとうつ伏せになって足をぱたぱた言わせる。その度に修道服(スカプラリオ)のスカート下の形の良いお尻が揺れるので目のやり場に困ってしまう。


「……新しいゲーム買えばいいじゃないすか」

「ムリムリムリかたつむり。いま寄付金が少ないから買えないの」

「寄付金をそんな使い方しないでくださいよ!」

「じゃー他にどうしろって言うのよ!? 同情するなら寄付金くれ!」

「どこの家なき子すか!? つかそれもう20年以上前だから、今の子ども知らないですよ!」


 ぎゃあぎゃあといつもの丁々発止(ちょうちょうはっし)

 ふと、安藤がはたと思い出す。


「ちょっと待ってください。もしかしたら兄がなにかゲーム持ってたはず……ちょっと連絡してみますね」

 

 スマホを取り出して兄を呼び出す。三回目の呼び出し音で出た。


「次郎か? 何の用だ?」

「兄ちゃん、昔使ってたゲーム機ってまだある?」

「あるにはあるが……今から来るのか? 今日せっかくの休みなんだが」

「フランチェスカさんも一緒に来るけど」

「そういうことは最初から言えっての! 彼女が来るならいつでも大歓迎だぞ!」


 がたがたと音がする。急いで部屋の片づけをするのだろう。

 通話を切って、ポケットにしまう。


「OKが出たんで、今から行きましょうか?」

「もちろんよ! あんたのお兄さんって最高ね!」


 ぎゅっと安藤の腕を掴む。そのおかげで彼女の豊満な胸が当たる。


「と、とにかく行きましょう!」


 赤くなった顔を背けるように立ちあがる。


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