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第26話 『NO TIME TO PRAY』③


 目を閉じ、すぅっと息を吸ってふーっと吐く。

 そして胸の前で両手を組む。


「“あなたのしようとすることを主にゆだねよ。そうすれば、あなたの計画はゆるがない”(箴言第16章3節)」


 カッと目を見開き、手に握り締めていたものをテーブルの「大」と書かれたマスに叩きつけるように置く。


「『(だい)』に賭けるわ!」

「ではサイコロを振ります!」


 ホテルのカジノにて、ディーラーが三つのサイコロが入れられたガラス容器に(ふた)を被せる。

 そしてボタンを押すと容器の中でサイコロが跳ねる音。

 マカオで人気のゲームのひとつ、大小(ダーイシュー)は三つのサイコロを振って、出た目の合計や奇数か偶数かを賭けるゲームだ。

 見習いシスターだけでなく彼女の周りの客たちもごくりと唾を飲みながらサイコロの出目を待っている。

 いよいよディーラーが蓋を外す。


「1のゾロ目です!」


 ディーラーが告げる結果に客たちが一喜一憂を。

 そしてフランチェスカの置いたチップは無情にもディーラーによって回収される。


「……っざけんじゃないわよ! 三回連続でゾロ目出るなんて、確率的にあり得ないんだけど! ちょっとそのサイコロ見せてみなさいよ! イカサマよ! イカサマ!」


 悪質なクレーマーよろしく、ディーラーに掴みかからんばかりの勢いだ。


 †††


 1時間後、ホテルからふらふらとフランチェスカが出てきた。

 その様はまさに素寒貧(すかんぴん)と言ってよい。

 

「決めたわ……あたし、もうギャンブルやらない」

 

 はふぅっと溜息をつきながらうな垂れる。

 最初は良かった。ビギナーズラックであれよあれよと賭け金が増えていったのだ。

 だが、欲を出して大小で儲けようとしたのがまずかった。またたく間にチップの山が溶けていった。


 あそこで止めていれば……。


 そう思っても後の祭り。とぼとぼと歩くフランチェスカの腹からくぅという可愛らしい音。


 そういえば、お昼まだ食べてなかったな……。


 だが、今のフランチェスカはさっきも言ったように無一文だ。ない袖は振れない。


 とりあえず教会に戻ろう……。

 

 「なめてんじゃねぇぞ!」と男の声がしたのはその時だ。

 見れば路地のほうに二人組のチンピラ風の男が10歳くらいの少年に因縁をつけていた。

 周りの屋台の店主や店員は巻き込まれないよう、我関せずといった有様だ。

 「今月のショバ代まだもらってねぇんだよ!」と長身で痩せ気味の男が。

 「ふざけんなよ! ショバ代なら先月まとめて払ったばかりだろ!」と少年が反論するが、小柄で小太りの男が「これからは毎月払うことになったんだよ!」と横から口を挟む。


 少年が初耳だという風に驚き、次にふたりを睨む。


「きたねぇぞ!」


 いきり立つ少年の胸ぐらを長身の男が掴んだ。


「なめんじゃねぇぞ。お前には大人(おとな)への口の利き方ってやつを叩き込んだほうがいいみてぇだな!」

 

 拳が振り上げられ、少年は思わずぎゅっと目をつぶる。


「ちょっと! やめなさいよ!」


 (りん)とした女の声に三人が振り向く。

 そこには修道服に身を包んだ少女、フランチェスカが。


「大の男が子どもをいじめるなんて、最低だと思わないの!?」

「へっ、シスターが俺に説教しよーなんて百年はえーよ。女だからって手加減はしねぇぞ!」


 少年を離すと、今度は見習いシスターに掴みかかる。

 だが、フランチェスカはいたって冷静で、足元のバケツをひょいっと足ですくい上げると、そのままサッカーボールよろしく長身の男の顔面にシュートを決めた。

 「あべしッ」と頓狂(とんきょう)な声をあげてその場に倒れ込む。


「あ、兄貴ぃ!」

「あたし、ブルー○・リーよりジャッキー・○ェンのほうが好きなのよね」


 片足を上げたままのフランチェスカが言う。


「痛い目にあいたくなかったら、さっさとその男を連れていきなさい」

 

 子分がなんとか兄貴を立たせるとその場をすごすごと去ると、周りの屋台から歓声。


「ねーちゃんアンタすげーな!」

「ざまーみやがれ!」

「あんがとよ! 久しぶりにスカッとしたぜ!」

 

 片足を下ろしてフランチェスカは少年の下へと歩く。


「大丈夫? ケガはない?」

「あ、ありがと……ねえちゃんつえーんだな」

「カジノで負けてたから、その憂さ晴らしにね……」

「カジノ? ねえちゃんシスターなのにいいの?」

「いやーその色々あってね……」


 ぽりぽりと頬を掻くと、途端にまた腹の虫がくぅっと鳴った。

 それに少年がぷっと吹き出して笑う。


「なんだねえちゃん、ハラへってんのか! じゃ、おいらの店に来てよ。お礼として美味いモン喰わしてやっからさ! あ、おいらクァンってんだ!」

 

 クァンという名の少年がにかりと笑う。


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