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第24話 『BORN THIS WAY』⑦


 すみちゃんと出会ってから月日が経ったある日の昼――。


 すみちゃんが教会に来た。それもスクーターに乗って。


「オラー! フラっち」

「オラ、ってどうしたの? それにそのスクーターは?」

「ダチから借りてきた! ね、このあと時間ある?」

「あるけど……」

「決まり! じゃ、このメット被ってあたしの後ろへ。スカート巻き込まないよう気をつけてね」


 ヘルメットを被ってすみれの後ろに腰かける。


「いい? しっかりつかまってな。飛ばすよ」

「飛ばすって、どこへ?」


 着いてからのお楽しみーと言うやいなやエンジン音を響かせて発車する。


 †††


 ふたりを乗せたスクーターは教会を離れ、車道に入るとそのまま直進して、やがて国道に入った。

 季節はもう冬なので、吹きつける風が冷たい。

 休憩で入ったファミレスで、すみれに聞いても「なーいしょ」と言うだけで教えてくれない。

 カフェオレのカップが空になったのを見計らって、すみれが「じゃ行こっか!」と席を立つ。


 スクーターは東へ、さらに東へと。

 途端、辺りが(ひら)けてきた。ビルの上部にある球体が目を引くテレビ局が見えてきたところを見ると、ここはお台場だろう。

 すみれがハンドルを左に切ったので角を曲がる。

 そして手頃な場所に停めると、エンジンを切った。


「着いたよ」

「ここって……」

「そ、お台場海浜公園」

 

 ヘルメットふたつをシートの下に収納して、すみれがくいくいっと指を動かしたので、フランチェスカが後を追う。


 歩く度に風が吹き、それに乗って潮の香りが鼻腔(びこう)を刺激する。

 やがて浜辺が見えてきた。すみれが段差に腰かけたので、その隣でフランチェスカが腰を下ろす。

 目の前には海が広がり、右側に目をやるとレインボーブリッジが。

 海の向こうにはビルが林立しており、自然と人工物という相反するコントラストを生み出していた。


「ここさ、あたしの好きな場所のひとつなんだ」 


 すみれがそうぽつりとこぼす。タバコを口に咥えてライターで火を。

 そして空に向けてふーっと煙を吐く。


「あたし、決めたよ。来月、旅にでる」

「え……?」


 すみれの唐突な話に目を丸くする。


「前、言ったっしょ? アコギを片手に世界中を飛び回るって。予定では来年だったけど、路上ライブで思ったよりお金入ったしね。それにバンドやめちゃったし……」


 灰を携帯灰皿に落として、フランチェスカのほうを向く。


「ありがと。フラっちのおかげで夢がかなったよ」

「そんな、たいしたことは……」

 

 戸惑うフランチェスカの頭にすみれがぽんぽんと叩く。力強いが、それでいて優しい。


「それで、どのくらい外国に?」

「んー……半年か、一年……もっと、かも?」

「じゃあ、そのあいだは会えないんだ……」

「行く先々で絵ハガキ出すよ」

 

 すみれ(いわ)く、憧れのアーティストもそうしていたのだとか。


「世界中を回って、日本に戻ったら本格的に音楽活動するよ。言ってみれば武者修行ってヤツ?」

 

 すみれがにかっと笑う。


「そーんなさみしそうな顔すんなって。こーいうときは笑いながら見送るんだ」


 すみれがイヤホンを取り出して片方を自分に、もう片方を見習いシスターの耳にはめる。

 ふたりで路上ライブで歌った曲が流れてきた。


「フラっちに、会えてよかったよ」

「うん、あたしもすみちゃんに会えてよかった」

 

 フランチェスカがすみれの肩に頭を預ける。すみれが抱き寄せて見習いシスターの頭に自らの顔をくっつける。


「泣くんじゃないって」

「ごめん……」


 ごしごしと擦る。


「ね、フラっち。シスターだからなにかお祈りしてくれる? あたしのためにさ」

 

 フランチェスカがこくりと頷き、胸の前で手を組む。


「“私の祈りを聞いてください。主よ。私の叫びを耳に入れてください。私の涙に、黙っていないでください。私はあなたとともにいる旅人です”(詩篇第39章12節)」

 

 「アーメン」と締めくくる。

 すみれがまたぽんぽんと頭を優しく叩く。


「あたし頭悪いからさ、意味よくわかんなかったけど、ちゃんと気持ち伝わったよ」

 

 ありがとね、フラっちとぎゅっと抱きしめた。



 翌月、すみれは旅立った。ギターケースを手にして。


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