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第24話 『BORN THIS WAY』⑥


「すみちゃん! 遊びにきたよ!」


 アパートの一室に入るなり、フランチェスカはそう言った。

 

「おーうフラっち」


 開け放たれた窓枠に腰かけたすみれが手を振る。

 灰皿が置いてあるところをみると、一服していたところだろう。

 

「昼ごはんまだでしょ? 今日はあたしが作るから」

 

 フランチェスカがキッチンにスーパーで買った食材を並べる。

 じゃがいもを洗って角切りにし、鍋に入れてコンロを着火させた。

 

「いつもすまないねぇ」

「すみちゃんお婆さんみたい。ババアはマザーひとりで充分なんだから。あ、マザーっていうのはあたしが務めてる教会をまとめてるえらい人ね」


 フライパンに油を引き、温めているあいだに卵をボウルのなかで溶く。


「何作ってんの? てか、タマゴけっこう使うんだね」

「あたしの得意料理のひとつ、トルティージャ。日本で言うスペイン風オムレツ」

「へぇー」

「すみちゃんベーコン切るの手伝って」

「ほいほい」


 10分後。


「ほっ!」


 フランチェスカがフライパンの上に皿を載せてひっくり返せば完成だ。

 ナイフで切り分けてテーブルに並べる。


「「いただきます」」


 すみれがフォークで口に運ぶ。そしてもむもむと咀嚼(そしゃく)


「どう……かな?」


 ごくりとすみれが飲み込む音を立てた。


「フラっち!」

「な、なに?」


 失敗したかな?


「あたしの(よめ)になれ!」



 すみちゃんと会ってしばらく経った頃、あたしは時間があればいつもすみちゃんのところへ遊びに行っていた。

 すみちゃんと一緒にいると、不思議と居心地がよかった。そして、たぶん、すみちゃんもそうだったと思う。


 †††


 テレビの画面内で体格の良い男が細身の女性の足技の連続攻撃を受けて倒れる。

 

「っあー! また負けた!」

「これで36勝25敗!」


 テレビゲームのコントローラを持ったままフランチェスカが勝ち誇る。

 

「フラっち物覚え良すぎ! こないだまでは負けっぱなしだったのに!」

 

 タバコの箱と灰皿を取り出して窓のほうへ。


「もう夏も終わりなのに、まだ暑いねぇ。イジョーキショーってやつ?」

 

 窓枠に腰かけ、一服。


「ねーすみちゃん、ほかにゲームないの? ここにあるマンガも全部読んじゃったし」

「なーい」


 ふーっと煙を吐く。

 フランチェスカがむぅっと頬を膨らませる。


「じゃあさ、新作買おうよ! いまこの格ゲーの新作出てるんだし!」

「そうしたいんだけどねぇ……」

 

 とんっと灰皿に灰を落とす。


 挿絵(By みてみん)


「いま金欠で厳しいの」

「路上ライブで稼ごうぜ!」

「現実はそんな甘くないのだよ。フラっち」


 むぅっとまた膨れる。


「じゃ、あたし歌うから! あたしこう見えても小っちゃいときは聖歌隊にいたし!」

「ほーん」


 またふーっと煙を外へ。


「ま、でも面白そうだし、やってみよっか!」

「決まり!」


 †††


 その日の夜の駅前。すみれはいつもの場所にて準備をはじめる。

 ギターケースを開いて中身を取り出して、代わりに小銭や札を入れる。


「なんでお金入れるの?」

「こうしておくと、お客さんがおひねりを入れやすくなるんだよ。覚えときな」

「へぇえ」

「さ、フラっち。スタンバっといて」

 

 

 改札口を出ると、片側の出口から音に合わせてソプラノの歌声が聞こえてくる。

 何事かと見ると、そこにはすでに人だかりが。

 オリジナルの曲をアコギで弾くのは当然、すみれだ。そしてその隣では修道服(スカプラリオ)に身を包んだ見習いシスターのフランチェスカがマイクを手に歌う。

 聖歌隊にいたというだけあって、その歌声は集まってきた人々の心を鷲掴みにした。

 一曲歌い終わると、拍手が沸き起こり、次々とおひねりがケースへと吸い込まれていく。


 

「うん、これは……予想以上にたまったねぇ」

 

 いつもの倍以上の稼ぎにすみれは驚きを隠せない。


「これならすぐに買えるよ」

やった!(ケ ビエン!)


 もちろん、そのあとは新作のゲームを購入してやりこんだことは言うまでもない。


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