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第24話 『BORN THIS WAY』⑤


「おまたせ! 待った?」


 演奏を終えてライブハウスから出てフランチェスカと合流するなり、すみれはそう言った。


「ううん。でもすごかった! あんなの初めて!」

「ありがとー! ねぇ、もうすこし付きあってくれない?」


 答える前にすみれが「いいから!」と手を引っ張る。


「おい、すみれ! そのカワイイ子は誰だよ?」


 バンドメンバーらしき男が聞く。


「あたしの妹分さ!」

「紹介してくれよ」

「やなこった!」


 べーっと舌を出しながら中指を立てる。

 次にフランチェスカに向き直って「さ、いこ!」と引っ張っていく。


 †††


 すみれの家、正確にはアパートだが、ドアを開けてその一室にフランチェスカを招き入れる。

 六畳一間といった典型的なアパートの部屋だ。入って右側にベッド、左には衣装掛けのほかにラックが。

 ラックにはCDがずらりと並んでいる。

 

「狭いけど、ゆっくりしてね」

「は、はい」


 畳のうえにちょこんと座ると、すみれは冷蔵庫のなかを漁っているところだ。


「ねーウーロン茶でいい?」

「あ、お構いなく……」

「そんなカタくしないでいいからさ」

 

 ペットボトルからコップへ注いでフランチェスカに渡す。自分は缶ビールだ。

 ぷしゅっと開け、そのままひと息にごくごくと飲む。

 

「かーっ! ライブ後の一杯サイコー!」


 缶を持ったまま、からからと窓を開ける。ひやりとした風が心地良い。

 テーブルから灰皿を取ると、窓枠に腰かけてタバコに火を。

 そして外に向けてふーっと一服。メンソール独特の爽やかな香りが鼻腔(びくう)を刺激する。

 

「シスターの前でタバコ吸うのって、なんか背徳的……」

「別にシスターの前でタバコも酒も禁じられてませんよ? というかまだ見習いなんで」

 

 ふふっとすみれが笑う。

 フランチェスカが部屋の隅に目をやったので、そっちを見る。そこにはアコギが。


「こないだ弾いてたものですよね?」

「うん。最初はアコギから初めてて、次第にエレキも弾くようになったけどね」

「へぇ……」

 

 ふと疑問に思ったことを口にする。


「あの、どうしてライブに誘ってくれたんですか?」

「んー? そりゃともだちだから、かな……?」

「え?」


 トントンと灰を落とす。


「なんつーか、いつもひとりで路上ライブ見に来てくれてたから……で、あ、この子あたしと同じなんだなって」

「同じ?」

「スペインからたったひとりで、ここに来たんでしょ? あたしも似たような境遇だし……親にミュージシャンになりたいって言ったら、ケンカになって、最終的には家を飛び出したってワケ」


 ふーっと煙を吐く。


「だからかな、なんか他人だと思えなくてね……」

「私は……シスターに、なりたくないです。先祖代々続いているからというだけで、無理やりやらされて……」

 

 すみれがキョトンとする。


「そうなの?」

「はい、なのでいつか口実を見つけて、やめるつもりです」

「ふーん……あたしとは正反対だね。ま、これ以上は聞かないけど」


 しばしの沈黙。その静寂を破ったのはすみれのほうだった。


「もうこんな時間だし、今夜は泊まっていかない?」

「……ふぇっ!?」

「いいじゃん? もう友だち同士なんだから。そうと決まったらお風呂一緒にはいろ!」


 なにがそうと決まったらなのか、有無を言わさず、気づけばフランチェスカは湯船にすみれと一緒に浸かっていた。


「あーいい湯。狭くて悪いけどさ」

「や、べつにそんなことは……」


 狭いアパートの狭い浴室の湯船でフランチェスカは恥ずかしそうにもじもじする。

 そのあどけない仕草(しぐさ)を見て、すみれは猫のように「んふふー」と笑う。

 手をわきわきさせ、フランチェスカの背中越しにふたつの膨らみを揉む。


「ひゃいっ!?」

「あたしより年下のくせに、こんなけしからんおっぱいしおって! なまいきー」


 狭い湯船では逃げ場はない。


「ちょっ、すみちゃん! くすぐったいって! あははは!」


 きゃいきゃいと風呂場で女ふたりの声が響く。

 風呂から上がると、すみれがフランチェスカにジャージを手渡す。パジャマ代わりだそうだ。

 ひとつのベッドにふたり並んで横になる。窮屈(きゅうくつ)ではあるが、フランチェスカは逆に居心地の良さを感じていた。


「すみちゃんはいつから音楽を?」

「んー……高校一年くらいかな? その時はアコギ弾いてたけどね。んでもって三年の時に初めてロックフェス行ったときヴォーカルが女のひとで、それがカッコよくてさ」


 気づけばエレキを購入して、それ以来ロックにハマったのだそうな。


「エレキもいいけど、アコギが一番好きかな。路上ライブで止められることも少ないし」


 すみれがくるりとフランチェスカのほうを向く。


「あたしね、夢があるの。笑わない?」

「どんな夢?」

「世界的なミュージシャンになること。ありきたりかもしんないけど」

「ううん。すごくいいと思う」

「それでね、世界中をソロで飛び回るの。アコギ1本でね」


 好きなアーティストのひとりが無名だったとき、ギターを片手に路上ライブで演奏しながら日銭を稼いで世界中を回ったのだそうだ。


「あたしの話はこれでおしまい。あんたの夢は?」

「私は……シスターになりたくないけど、なにになりたいかって聞かれると、わかんない……」

「ん、フラっちはまだ若いからさ、今はまだそれでいいと思うよ」


 年上のあたしが言うんだから間違いないと言ったので、フランチェスカは思わず吹き出したので、「笑うなっての」と頬をつねられた。


「それじゃおやすみ。フラっち」

「うん、おやすみ……」


 程なくしてすみれが寝息を立てる。ライブで疲れていたのだろう。


「……すみちゃんはカッコいいと思うよ」


 そうぽつりとつぶやくと、眠くなってきたので目を閉じた。


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