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第24話 『BORN THIS WAY』④


「では皆さま、最後にお祈りをしましょう」


 説教を終えたフランチェスカが手を組むと参拝者たちもそれに(なら)う。

 祈りを終え、フランチェスカの持つ寄付箱に参拝者が寄付金を入れる。


「今日もありがとう」

「少ないけど、受け取ってね」

 

 フランチェスカが「ありがとうございます」とぺこりと頭を下げて参拝者を見送る。と、一番後ろの長椅子に見知った顔があった。

 「やっほー」と手を振るのは、黒のプリントシャツに金色に染めた髪と耳にピアスをした、教会にはふさわしくない風体の女性――。


「すみちゃん! 来てくれたんだ?」

「教会にくるの初めてだからさ、一度見に行こうかなと。それよりフラっちの、なんていうの? セッキョーよかったよ」

「ありがとうございます!」

「そんなにかしこまらなくていーって」


 ひらひら手を振る。


「それよりさ、このあと時間空いてる?」

「えっと……」

 

 朝の礼拝のあとはお昼ごはん、その後はいつものお昼寝(シエスタ)だ。


「あたしがバイトしてるカフェに行かない? サンドイッチやケーキもあるよ」

「行きます!」


 ケーキが出てくるとなれば断る理由はない。


 †††


「はいよ。カフェオレね」


 商店街にある老舗(しにせ)の喫茶店のカウンターに座ったフランチェスカの前にカップが差し出される。

 

「昼メシ、まだっしょ?」


 そう言ってサンドイッチを出してくれた。

 

「あたしのおごりだよ」

「あ、ありがとう。すみちゃん」


 カップに砂糖をふたつ入れ、かき混ぜてからカップに口をつける。

 豆の苦みと牛乳の甘味が心地よい。


「美味しい……!」

「ありがとー。たしかスペイン語では、えーと……グラシアスだっけ?」

「はいっ」

「賑やかですね」


 隣のマスターがカップを拭きながらふふふと微笑む。


「もしよければ、ケーキも召し上がってみますか?」


 マスターがショーウィンドウのほうを見る。


「今日はかぼちゃのケーキ、紅茶とりんごのタルト、チーズケーキもありますよ」

「私、チーズケーキ好きなんです!」


 マスターがまたにっこりと微笑み、チーズケーキを皿に載せてフランチェスカの前に出す。


「どうぞ。バスクのチーズケーキには負けず劣らずだと思いますよ」

「いただきます」


 フォークを刺して口に運ぶ。


「んー美味しい!(デリシオーソ!)

「あはは。美味しそうに食べるねぇ」

「すみちゃんってここで働いてるの?」

「うん。と言ってもバイトあとふたつかけ持ちしてるけどね」


 ここは週に1回来てるんだよと教えてくれた。

 ケーキを平らげ、ぬるくなったカフェオレを喉に流し込む。

 

「ね、フラっち。明日の夜って空いてる?」

「明日は休みだから空いてますけど?」

「よかった!」


 目の前に出されたのはチケットらしきものだ。


「明日の夜20時にここにきてね。入口でこのチケット見せればいいから」

「はあ……」

 

 †††


 翌日の夜。フランチェスカは指定された時間の10分前に来ていた。

 駅からすこし離れた路地裏、地下へと続く階段が目の前にある。


 ここでいいんだよね……?


 チケットに書かれた住所を見る。やはりここで間違いない。

 淡いオレンジ色のランプで照らされた階段を見て、ごくりと唾を飲む。


 行くしか、ないよね……。


 意を決して階段を降り、横の受付のパンク風の男にチケットを見せた。


「OK。そのドアの向こうだ」


 重厚な造りの扉のノブに手をかけ、ぎいっと音を立てて開く。するとそこから大音量の音がなだれ込んできた。

 地下のライブハウスではライトの色が目まぐるしく変わるなか、ステージ上のバンドグループがギター、ベース、ドラムでスピーカーを通して観客を興奮のるつぼへと誘う。

 曲がクライマックスに入り、同時にフィニッシュを決めると観客の興奮は最高潮だ。

 拍手が巻き起こるなか、バンドメンバーは手を振りながら舞台の袖へと下がり、入れ替わるようにしてMCが出てきた。


「お待たせしました。次はSKULLEATERです!」


 バンド名が告げられると観客から「おおっ!」と歓声。

 舞台袖からメンバーが入り、それぞれセッティングを。

 ステージの真ん中にてマイクスタンドの高さを調節しているのはすみれだ。肩にエレキギターを掛けている。

 フランチェスカが手を振ると、彼女も気づいたらしく、手を振ってウインク。

 チューニングを終え、ドラマーがスティックでカウントを。カッカッカッと三回鳴らしたかと思えば、いきなりライブハウス全体が爆音に包まれた。

 観客が荒れ狂ったように腕や頭を振り回す。

 ギター、ベース、ドラムの腕もそうだが、なによりもすみれの女性でありながら力強い歌声は心臓を響かせた。


 ♪自分にウソをつく時間はもうおしまい! ここからはあたしのターン! 

 この掃きだめの世界で何度でも立ちあがってやる! 何度も何度でも!


 目にも止まらぬスピードでピックを動かし、コードを押さえながら、すみれは怒り狂ったように頭を振り回してマイクにありったけの音を叩き込む。

 

 すごい……暴力的だけど、不思議と力が湧いてくる……。


 フランチェスカにとって、これが初めてのロック体験だった。


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