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見習いシスター、フランチェスカは今日も自らのために祈る  作者: 通りすがりの冒険者


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第20話 『Pequeña Francesca』②


お嬢様!(セニョリータ!)! フランチェスカお嬢様! 危ないですよ!」


 ザビエル家の館の庭にて、メイドがそう声を張り上げる先には木の枝にぶら下がるフランチェスカ。

 5歳のフランチェスカがへへーんだと笑うと、枝から石壁の上へと飛び移る。下でメイドの悲鳴。

 メイドの制止も聞かずにフランチェスカはととと、と狭い足場をたくみに庭から館の教会へと歩く。

 外には古い街並みの屋根が見渡せ、そこかしこにバルの看板がぶら下がっている。

 バルとは食堂兼酒場のことで、朝早くから開いている店からは店主がフランチェスカに手を振る。

 教会が近づくにつれ、音楽が聞こえてきた。賛美歌だ。幼いフランチェスカがにかりと笑うと背中におぶっているウサギのぬいぐるみにも笑いかける。

 

「いくよ、パムパム」


 そのまま石壁を飛び降りて地面の(わら)にぼすんと着地。それに使用人の老人が驚くが、またかと首を振る。

 へへへと笑ってたたたと教会へ。そして扉をそっと開ける。礼拝堂で聖歌隊が牧師の指揮の下で賛美歌を歌い上げる。

 牧師がフランチェスカに気づいて、指揮を止めると歌声もぴたりと止んだ。


「お嬢様、どうされましたかな?」

「それ、あたしもやりたい!」とタクトを指さす。

 タクトを手渡すと、フランチェスカは聖歌隊の前へ進む。


「こうしたらもっといいとおもうの。あたしのしきどおりにして!」


 †††


「フランチェスカ! どこだい?」

 

 父親のアルフォンソが娘の名を呼ぶ。


ご主人様(セニョール)、お嬢様なら先ほど礼拝堂に……」と使用人が教会を指さす。

 教会からは賛美歌が流れている。だがそのテンポはポップスのそれだ。

 礼拝堂ではフランチェスカの指揮によって、聖歌隊が手拍子を取って、体を左へ右へと揺らしながら陽気に歌い上げていた。


「フランチェスカ!」

 

 ばんっと扉が開かれ、フランチェスカがびくりと震わせ、歌声もぴたりと止む。


「なにをしている! こっちに来なさい!」

「だって、パパ……」

 

 娘からタクトをひったくると、それを牧師に返す。

 「伝統通りにやれ!」と釘を刺して踵を返し、「来い! 勉強の時間だ!」とフランチェスカの手を取って礼拝堂から出る。

 

 あたしの父親、アルフォンソ・ザビエルは厳格なクリスチャンで、あたしの家は古くから先祖代々続く聖職者の家系だ。


 

「では、ラテン語の勉強をはじめます」


 家庭教師が館の図書室にて、ふたりに教科書を開くように指示し、それぞれページを開く。


「前にも言いましたが、ラテン語は現在のヨーロッパ諸国の言語のもとになっている言葉です。マスターすれば、いろんな言葉が話せるようになりますよ」


 では、と家庭教師が黒板のほうを向いてチョークを走らせる。


「またなにかやったろ?」

 

 兄のフリアンが小声で妹に聞く。


「だってタイクツだったんだもん」


 フランチェスカが教科書を見るとも無しに見る。胸にはウサギのパムパムを抱えている。


「まったく……少しは自重(じちょう)しろよな」

 

 さらに女の子らしくしろよ、と付け加える。それにフランチェスカがむぅっとふくれる。


Querkopf!(頭でっかち!)(ドイツ語)」

 

 フリアンが振り向いてキッと(にら)む。


Ferme la(だまれ)gros thon!(ブス!)(フランス語)」

 

 今度はフランチェスカがむっとなる。


Μαλάκας!(バカ!)(ギリシャ語)」

Imbecile!(アホ!)(イタリア語)」


 家庭教師が書き終えてくるりと振り向くと、ふたりがそれぞれ頬をつねったり、髪を引っ張っていた。


Contine(いいかげんに)te ipsum!(しなさい!)


 家庭教師がラテン語でバンッと机を叩くと大人しくなり、「Sic(はい)」と応える。


「まったく……お父様に報告しますよ」


 ふたりが「げっ」と顔を曇らせた。


 †††


「…………おもい(ペサード)……」

「お前のせいだぞ……」


 館の庭にてフランチェスカとフリアンがそれぞれ鉄の十字架を背負い、引きずって歩く。

 ザビエル家にて古来より伝わるお仕置きだ。ちなみに、このお仕置きはゴルゴタの丘まで十字架を背負ったキリストに由来している。

 ふたりをバルコニーから心配そうに見つめる女性がいた。母のフローレンティナだ。


「あなた、いくらなんでもやり過ぎでは? まだ子どもなのよ?」

「お前は黙っていなさい。あの子達には良い薬だ」

 

 アルフォンソがバルコニーの手すりに手をかけ、「あと二往復したら終わりだ!」と声を張り上げ、子どもたちから悲鳴があがる。


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